44.何か……引っ掛かるんだよね
やはり騎士団は怪しい動きをしている。
そう思えて仕方が無いトリスは、もう少しこの山脈の中に入って行った王宮騎士団員達の事について村で情報を集めようとした。
すると、その事を聞きたい張本人達が村の中に居るのを発見したトリス。
(あれは……王宮騎士団の団員じゃ無い)
王宮騎士団員達が、自分の店に食べに来てくれる時に見慣れた制服姿。
その上から、今は戦う為の防具を身体の至る所に身につけている王宮騎士団の団員達がまだこの村に一部残っている様である。
しかし、このままストレートに「ダリストヴェル山脈で何かをしようとしているんですか?」と聞いても教えてくれる訳が無いだろうし、場合によっては捕まってしまうかも知れない。
それだけ王宮騎士団員達が怪しい行動をしていると言う噂が立っている以上、ヘタに聞き出す事も出来そうに無い。
なので、ここは自分の話の持って行き方が重要だ……とトリスは考えながらその王宮騎士団員達に接近する。
「こんにちは。王宮騎士団の人ですよね」
「ん? ああ、そうだけど」
「この村に王宮騎士団の人が来るのって結構珍しいと思うんですけど、何かあったんですか?」
自分の素性はどうやらこの王宮騎士団員達には知られていない様なのを確認し、あくまで自然な話の流れを考えて聞いてみる。
「あー、この山脈で盗賊が出たって話があってな。それを討伐に来たんだよ」
「盗賊ですか? 怖いですね」
「そうなんだ。だからパールリッジ平原の方に通行制限を掛けていてな。君はこの村の人間か?」
「いえ、私は帝都のアクティルに住んでいます。ここには親戚の家があって、今日は遊びに来ていたんですよ」
「今日?」
トリスの答えに訝しげな視線を向ける騎士団員達。
そのリアクションに対して、内心で「しまった!」と思ってしまったトリスだが、ここは何とか切り抜けなければならない。
「ああ……今日って言い方はちょっと変でしたね。私は通行制限が掛かる前にここに来たんです。王宮騎士団の方達はどれ位前にここに来られたんですか?」
「俺達は数日前に来たばっかりだ。帝都の方向からやって来た盗賊がダリストヴェル山脈に潜伏しているって聞いたからここまではるばるやって来たんだけど、魔物も結構多くてな。だから予想外に時間が掛かったんだ」
騎士団のドロドロは微塵も感じさせない様な受け答えだが、この一連の受け答えにトリスは心の中で引っ掛かりを覚えた。
「あれ? でも……こう言った盗賊の討伐って王宮騎士団員の方達の担当でしたっけ? 普通は兵士部隊の人達が来ると思うんですけど」
トリスのその指摘に対し、今度は王宮騎士団員達が言葉に詰まってしまった。
「あ、いや、それはだな……」
「おい、もうそろそろ行かないとまずいんじゃ無いのか?」
「あ、ああそうだな。悪いけどこれで失礼するよ」
明らかにそそくさと会話を切り上げて退散して行く王宮騎士団員達に対し、トリスはますます疑いの気持ちが強くなる。
「完全に怪しいわね、あれは……」
本来であれば、王宮騎士団員達は主に帝都アクティルとその周辺でしか活動していない筈である。
その王宮騎士団員等のサポートをするのが兵士部隊の人間達の筈なのに、その兵士部隊の人間達を連れずにここまで王宮騎士団員達だけでやって来ると言うのが何だか引っ掛かる。
勿論、こうした小さな村にも王宮騎士団員が常駐している場合が多いが、この村の住人に王宮騎士団員が常駐しているのか聞いてみた所、ここには兵士部隊の隊員しか普段は居ないと言う事が分かった。
小さな村であるが故にその隊員も10人程しかおらず、魔物もこの村には入り込めない様にしっかりと魔術防壁と鉄製のフェンスを作ってガードしているので、普段は至って平和な村らしい。
確かにダリストヴェル山脈は広いので、盗賊が身を隠すにはうってつけの場所だろう。
しかし、その帝都からやって来た盗賊が、この小さな村を襲わなかったのも良く分からない。
もしかしたら北の方や南の方から大きく迂回してダリストヴェル山脈に入ったのかも知れないが、それでもこの規模の小さな村を襲えばそれなりの金にはなるのでは無いか? と考えるポリス。
(まあ、盗賊の規模も小さいかも知れないし……小さい?)
やっぱり引っ掛かる。
盗賊の規模が小さいのであれば、それこそ現場に派遣するのも王宮騎士団員じゃなくて兵士部隊の人間達で済む筈だ。
それに王宮騎士団員が派遣されるにしても、かなりの大人数だとあの店の女店主から聞いている「やたら大勢」と言う情報と照らし合わせてみると違和感を覚えてしまう。
(もしかして、さっきの王宮騎士団員達は色々と嘘をついているんじゃないかしら?)
もし嘘をついていると言うのであれば、そうやって嘘をついてまでやらなければならない事がこのダリストヴェル山脈であるのだろう。
堅実な生き方を好むトリスは余計ないざこざは避けたいものの、兄を待ち伏せするのであれば結局は山脈の中に入らなければならないので、色々と引っ掛かりを覚えながらも再び馬に乗って村を出てから馬に乗ったままで通れるルートで山脈を登り始めた。




