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冒険家の子孫の成り上がり  作者: マッハ! ニュージェネレーション
ステージ1(イディリーク帝国編):20歳の若者、冒険者になる
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43.待ち伏せ作戦

 トリスが考えたのは待ち伏せ作戦。

 むやみにリュディガーの姿を探すよりも、いずれやって来るであろうダリストヴェル山脈で待ち伏せしていた方が、兄と会える確率はかなり高くなる筈だと思ったのだ。

 ただし気になるのは、自分が前に聞いた事のあるこのイディリーク帝国の騎士団のいざこざだ。

 自分が働いている店に来てくれる兵士部隊の隊員達や、王宮騎士団の人間達はそう言った事を感じさせない態度ではあるものの、そう言う話を聞くと実際はかなりドロドロとした内容があるのだろう、とトリスでも予想出来てしまう。

 そして、パールリッツ平原において通行制限が突然騎士団から掛けられたと言う話も含めると、その騎士団のいざこざともしかしたら関係があるのでは無いか? と漠然とした不安がトリスに襲い掛かる。


(確か、今までパールリッツ平原に通行制限なんか掛けられた事はなかった筈なのに……)

 もしかしたら騎士団のドロドロに留まらず、何か恐ろしい事が起こっているのでは無いか?

 そしてそれは、この国の運命を左右する様なものなのでは無いか?

 女の勘がそう告げているのだが、まだ推測の域を出ない。

 それに実際の話、騎士団のドロドロと自分が兄に会いに行くと言う事は何も関係が無いだろう、とトリスは考えている。

 山脈で待ち伏せして、兄がやって来たら何故こうやって黙って出て行ってしまったのかを問い詰めて、場合によっては連れ戻す。

 それが今の自分の目的である以上、騎士団のドロドロなんかに構っている暇は無いのである。


「……しかし、本当に魔物が片手で数えられる位しか見掛けられないわねえ?」

 馬に乗ったままポツリと呟く。

 蹄がパールリッツ平原に伸びている土の地面に食い込み、のんびりとしたトリスの旅は続く。

 邪魔者が入らないのは自分にとっては好都合なのだが、幾ら魔物が討伐されているとは言っても、これだけ魔物の数が少ないと逆に不安になってしまう。

 本来であればもっともっと魔物の数が多い筈なのに、今はまるで天変地異でも起こったかの様に魔物が少な過ぎるのである。


 やはり何かがおかしい。

 しかも通行制限が掛かっていると言うのはこちらのパールリッツ方面、そしてダリストヴェル方面だけだと聞いているので、何故こちら側だけに通行制限を掛けるのかそこも疑問である。

(この分だと私の弓も出番が無さそうね)

 別に弓の腕を確かめたくてこうして旅に出た訳では無いものの、いまいち張り合いが無い。

 でも、トラブルも何も無くこうして進む事が出来るのはありがたいと言えばありがたい。

 その後も特に何事も無く夜を迎え、そして朝を迎えた訳だが、焚き火をして魔物が寄り付いて来ない様にしていたとは言え女が1人でキャンプを張っている所にやって来る様な魔物の気配が、微塵も感じられなかった。


 その代わり、自分が今進んでいるルートで見つけたのは多数の人間と馬の足跡である。

 この土の地面にハッキリと残っている様な跡と言うのは大体限られており、それこそそれなりの大きさ生物の足跡だったり、馬車の車輪の跡だったり、自分が今同じ様に乗っている馬の蹄の跡だったりと言う様な、ある程度の重さが無ければここまでくっきりとした足跡は残ら無い。

 その中で人間の足跡だと分かる様に地面に残っていると言う事は、ここを歩いた人間はそれなりの重さがあったと言う事になる。

(この足跡から察するに、それなりの装備の人間が通ったらしいわね。例えば王宮騎士団の団員が武装して進めば、これ位の足跡がつくと思うわ)

 これもまだ推測の域にしか過ぎないのだが、自分が見つけた大量の足跡はまだ新しいものである。

 それにこの足跡は自分が今進んでいる方向と同じ方向に向かっている訳なので、行き先はダリストヴェル方面と言う事になる。


(山脈に騎士団員が集中しているって事なのかしら?)

 でも、そんな遠征の話なんて街で噂にはなっていない。

 自分の食堂に食事を摂りに来てくれた騎士団員や兵士部隊の人間からも一切その話を聞いていないので、もし山脈の方向に大勢の騎士団員が向かっているのだとしたら、自分達が寝静まった夜に向かったか、自分が働いている時に向かったかだ。

 更にそれだけ大勢で行動すれば目立つ筈なのに、街の噂にもなっていないと言う事は何か裏でそうやってコソコソと動かなければならない事情があるのかも知れない。

 そんな得体の知れない不安を更に覚えつつ、兄に会う為にトリスは再びダリストヴェル山脈方面に馬を進ませる。


 その繰り返しでダリストヴェル山脈とカーレーヴェン渓谷の間にある村にやって来た彼女だったが、そこで思いもよらない情報を耳にする。

「騎士団が?」

「そうなんだよ。大勢の騎士団員が山脈に入って行ったんだけど、何だか様子が変なのよ。魔物の討伐に来たみたいなんだけど、それにしてはやたら大勢なのよね」

 食料を買う為に寄った商店の女店主が、不安そうな顔つきでそう話してくれたのだ。

 この山脈はそれなりに険しいものの、ルートによっては馬で山頂まで行けたりもするので騎士団員が馬に乗ってそのままやって来るのも不自然では無い。

 だが、狭い山道で魔物を相手にするにはそれなりに人数を絞らなければ効率の良い討伐が出来ないのはトリスも知っている。

 待ち伏せ作戦の前に、また考えなければならない事が出来た様だ。

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