30.とにかくミッションは進めなきゃ
部隊長が流されて行ってしまい、川辺に残されたのはフェリシテを含む自分達3人だけだと認識するリュディガー。
「……これからどうする?」
「とにかく場所を変えて休もうぜ。残ったあんたには色々と聞きたい事もまだあるからな」
「そうね」
もう夜だが、この場所で魔物との激闘を繰り広げた結果として辺りには血の臭いが充満している。
その血の臭いでまた魔物が集まって来たら厄介な事になるので、野営の準備をする前に魔物の集団に襲われたのだけが幸いな3人はこの場所から離れた所で再度野営の準備をする事にした。
「あっ、ちょっと待った」
「何だ?」
「オオカミの証拠物件は忘れずに持って行こう。ついでにそいつの肉を夕飯にしよう」
こう言う細かい所には良く気が付くリュディガーだった。
と言う訳で、川の上流の方に向かった3人は手頃な場所を見つけてそこで夕食。
ここは先輩冒険家のバルドの腕が光る。
自分達のターゲットであったオオカミの死骸から回収した肉片を袋から取り出し、懐に忍ばせているナイフを持ち出して手早く肉片を食べやすい大きさにカットして行く。
それからまた袋の中に手を入れ、今度は片手で持てる程の鉄串を10本位取り出した。
「これに刺して焼けたら食おうぜ」
そう言いながら、今しがたカットした肉を手際良く鉄串に刺して、フェリシテが魔術で起こしてくれた焚き火で炙り焼きにする。
「あんたもバルドと同じで魔術が使えるんだな」
「そうよ。帝国騎士団だと、余程適性の無い団員でも初級の攻撃魔術と回復魔術が使える様に訓練するからね」
フェリシテはもっと上のレベルの魔術も使えるらしいのだが、今は使う必要が無いし、使ったとして魔物達がまた寄って来ても嫌なので何時かまた別の機会に見せて貰う事にした。
そしてこの3人の中で唯一魔術が使えないリュディガーは、魔術が使える存在に密かな憧れを持っていた。
自分が傭兵として活動する中で、ここぞと言う時に魔術が使えないのはかなり厳しいものがある。
回復魔術がその代表的な例であり、戦場に向かう時はなるべく荷物を少なくして持ち歩くリュディガーは、その中でも余りかさばらない回復薬や傷薬を多めに持って行く様にしている。
しかし、自分が魔術を使えるのであれば持ち物も魔力回復薬だけで済むし、怪我の度にいちいち傷薬で治療するよりは魔術を掛けてササッと治療してしまった方が明らかに速いので、そうした魔術を使える他の傭兵が羨ましいのだ。
そうした経験から、己の剣術もなるべく攻撃を食らわなくて済む様に、そしてなるべく体力の消耗が少なくなる様に防御中心のスタイル考えている。
それでも怪我をしてしまう時はしてしまうのが戦場なのだが。
そんな羨ましい気持ちを持つリュディガーの目の前に、肉の刺さった鉄串が差し出された。
「はい、焼けたわよ」
「ああ、どうも」
フェリシテから差し出された鉄串を受け取り、自分の口に肉を運ぶリュディガーを見ながらバルドが話題を変える。
「さってと、これでオオカミは終わった訳だから……残りは大蜘蛛1匹と野ウサギ3匹だな」
依頼書を見ながら残りの討伐する予定の魔物を確認するバルドに、フェリシテから思いもよらない情報がもたらされる。
「それ、ギルドからの依頼?」
「そうだよ。魔物の討伐だ」
「大蜘蛛だったらあっちに沢山居たし、野ウサギもこの川を渡れば沢山居るってあの部隊長が事前に先行部隊から情報を仕入れたらしいわよ」
「そうなのか?」
個人で集められる情報の量には限界があるものの、組織として活動している帝国騎士団なら各方面から情報が入っても不思議では無い。
フェリシテの言っている事が本当だとしたら、まずはさっさとその討伐対象の魔物を倒してミッションを終わらせてしまうのが良いだろうと決まった。
だが、気掛かりなのはリュシュターの事だ。
「そう言えば陛下の事が心配だな」
「ああ。最初はなるべく面倒な事になって欲しくないと思っていたが、いざこうして王宮騎士団と関わりを持つ様になるとやはり気になる」
自分達の住んでいる国のトップの存在であり、しかも平民であるバルドと違ってリュディガーは彼の遠い親戚になるし、実際に面識もあるとなればどうしても気になってしまう。
とは言っても、元々リュシュターは孤児だった為に先代の皇帝とは血の繋がりが全く無いので、厳密に言えば親戚でも何でも無い。
「リュシュター陛下が跡を継いで皇帝になったと言う事は、前皇帝に子供は居ないんだよな?」
「ああ。子供が出来にくい体質だったらしいからな。派手に遊び回っていたのは俺も何度か聞いた覚えがあるけど、それとこれとは話が別だし……」
「そう言えば、今のリュシュター陛下は血の繋がりが無いって騎士団の先輩から私も聞いた事があるわね」
孤児上がりの皇帝、しかもまだ若いとなれば周辺諸国から軽く見られるだけで無く、国内からも「孤児を皇帝にするのか」と言う反発の声が大きかったのは国内でもかなり有名な話だし、この3人も勿論知っている。
しかし前の皇帝に子供が居なかった上に、召し抱えて自分の子供の様に可愛がっていたリュシュターが皇帝になるのは当然と言えば当然だろうと納得する声もあったので、現在の皇帝の地位に彼が収まっているのだ。




