29.月明かりの下の戦い
飛び掛かって来るオオカミを左右に転がって回避し、なるべくターゲットを絞らせない様に2方向に散開した上で戦いを進める。
非常に素早い動きをするこのオオカミに対して、人間の自分達では身体能力でとても敵わないからだ。
ある程度はオオカミのモーションから次にどう動くかを察知出来るものの、急な動きにはなかなか反応出来ない。
「っ!?」
事実、今もリュディガーがそのオオカミの飛び付き噛み付きに危うくやられそうになったのを、すんでで身体を捻って回避する。
それに、敵はオオカミだけでは無い。
今の時間は既に日も落ちて辺りが薄暗く、頼りになるのは月明かりだけの状況。
その視界の悪さに加えて、川のそばで戦っている2人に自然の脅威が襲い掛かる。
「うおっ!?」
全く予期せぬタイミングで、バルドが何かに足を取られて滑ってしまった。
咄嗟の反射神経で立て直すものの、それを好機と見たオオカミが再び飛び掛かって来る。
「ふんっ!!」
今度は避けきれないと悟ってダメージを覚悟したバルドの目の前で、オオカミに対して助走をつけた飛び蹴りを繰り出すリュディガーの姿が目に入った。
「ギャウンッ!?」
その飛び蹴りはオオカミの横っ腹にクリーンヒットし、空中で強制的に軌道を変えられたオオカミは変な体勢になって地面に落下する。
リュディガーもリュディガーで背中から地面に落ちるものの、両腕を横に目一杯広げて上手く受け身を取った。
バルドが何故突然滑ってしまったのかと言うと、川の水が染み込んで川べりの土を濡らしていた事で、その土がぬかるんで非常に滑りやすい地面になっていたからであった。
その部分に足を取られて滑ってしまったと理解したバルドは、なるべく川から離れて戦う事を決めてオオカミに再び立ち向かって行く。
オオカミは先程のリュディガーのドロップキックでダメージを食らっているので、ここから一気に畳み掛けるべく2人は動く。
まずはバルドがバトルアックスで縦斬りの先制攻撃。
それをダメージの残る身体でギリギリで回避したオオカミだったが、そこに再び横っ腹に向けたリュディガーの前蹴りが炸裂。
更にダメージを受けたオオカミに、今度はバトルアックスの先端を使ってオオカミの顔面をど突くバルド。
「ギャン!!」
フサフサの灰色の毛並みを持っているオオカミから悲鳴が上がるが、それを気に留めずソードレイピアをリュディガーがオオカミの身体目掛けて、両手でしっかりと柄を握って上から下に突き刺した。
「グアアアアッ!」
遠吠えとはまた違う、夜空に大きく響き渡る悲鳴が空気を震わせる。
思わず顔をしかめるリュディガーだが、握ったその柄は離さない。
「やかましい!!」
同じくその声に顔をしかめていたバルドが、オオカミに向かって再度バトルアックスを振り下ろせば、絶叫が途中で途切れる形になってオオカミは絶命したのだった。
血を流して息絶えたオオカミの死骸を見下ろし、リュディガーとバルドはそのパーツを証拠物品としてせっせと袋に詰め始める……筈が、ここで予想外の事態がまた起きる。
「ちょ、ちょっと何するのよぉ!?」
「!?」
フェリシテの声にリュディガーとバルドがほぼ同時に振り向くと、視線の先には何故か部隊長がフェリシテの首筋に短剣を突きつけているでは無いか!!
「なっ、おいテメェ何してやがる!!」
「見れば分かるだろう、この女は人質だ!」
バルドの声に対して勝ち誇った声色でそう宣言する部隊長は、2人に次の要求を出す。
「お前達、まずは武器を捨てるんだ。それから馬も頂いて行くぞ!!」
「くっ……」
オオカミと戦っている2人の目を盗んで、何とか自分の拘束を解除した部隊長にフェリシテを人質に取られてしまっている以上、下手な真似は出来ない。
そう考えて武器を捨てるバルドだったが、一方のリュディガーはとんでもない行動に出る。
「……分かった、捨てる」
普段と変わらない、暗めのトーンの声でそう呟いたリュディガーは次の瞬間、何と自分のソードレイピアをフェリシテと部隊長の方に向かってまるで矢の如く真っ直ぐにぶん投げる。
「っ!?」
「きゃあっ!?」
ソードレイピアはフェリシテの横を掠め、その後ろの部隊長には更に掠めるラインを描いて2人の後方に落ちる。
狙いは外れたが部隊長の気をそらすには十分な効果があったので、その気がそれた隙を狙って今度はバルドが動く。
更に、それを見たフェリシテが全力で部隊長の顎に頭突きを食らわせる。
「ぐほっ!?」
人質からまさかの攻撃を、しかも人体の急所の1つである顎に食らってしまい、一瞬意識が飛ぶ程の衝撃に襲われる部隊長。
その部隊長が怯んだ所に、さっきのリュディガーのドロップキックで助けられたバルドが、今度は部隊長に全力のドロップキックをかましてぶっ飛ばす。
「ぬうおっ!?」
水が飛び散る程のかなり流れの速い川に向かってぶっ飛んだ部隊長は、そのまま背中から着水して流されて行く。
「ぶっふぁ、お、俺は泳げないんだあああああっ……」
そんな叫び声を残しながら、自分が身につけている一際重装備の鎧の重さも相まって、下流へと流されながら部隊長が夜の闇の中に姿を消していったのだった。




