27.引っ掛かる点
ダリストヴェル山脈でそんな事になっている時から少し時間はさかのぼり、リュディガーとバルドはフェリシテと名乗った王宮騎士団員、それから縛り上げた王宮騎士団の部隊長を一緒に馬に乗せる形で連れてパールリッツ平原を進んでいる。
隊長だけでなく、フェリシテの方も王宮騎士団員なのでいきなり裏切られる可能性が無いとも言えないと考えたリュディガーは、彼女まで後ろ手に縛り上げておく。
「ちょっとお、私は別に裏切ったりしないわよ!!」
「用心の為だ」
戦場で傭兵として戦うリュディガーは、今の今まで仲間だと思っていた傭兵に裏切られていきなり攻撃を受けた事が1回や2回だけでは無いし、自分の方も仕えていた依頼主を裏切って敵側に着いた事も何回もある。
つまり、傭兵と言うのは自分の利益になる方に動く者が多いのだ。
勿論、全ての傭兵がこうした裏切り行為をしている訳では無い。
1度仕えると決めた相手にずっと仕えている、それこそ国王や皇帝に忠誠を誓った騎士団員みたいなタイプも居れば、リュディガーみたいに裏切るタイプの傭兵まで様々だ。
自分も後者のタイプであるリュディガーはその経験から、例え王宮騎士団員であっても何時裏切られるか気が気で無い。
実際、こうして王宮騎士団の団員達がキナ臭い動きをして皇帝のリュシュターを裏切っているのもその考えに拍車を掛け、フェリシテを縛り上げるに至った。
2人から聞き出した情報を纏めてみると、この王宮騎士団の団員達ーーと言っても一部だけだがーーは、自分達の主君である筈のリュシュターを裏切って、王宮騎士団長のカルヴァルの下について新たな自分達の国を創り上げようと画策している様なのだ。
血を好まない主義のリュシュターを軟弱者とみなし、軍国主義で領土の拡大を目論んでいるカルヴァルは、ダリストヴェル山脈で鉱物の採集を王宮騎士団が主導で行なうと見せかけ、そこを根城にして着々と帝国制圧の準備を進めているのだと言う。
そしてタイミングを見計らってリュシュターをダリストヴェル山脈に連れ出し、事故に見せかけて殺すつもりなのだと言う。
「そんな事しなくても、料理に毒でも混ぜて殺しちまえば手っ取り早いんじゃねえのか?」
その話を聞いたバルドが思った事を素直に口に出したのだが、騎士団の部隊長は首を横に振った。
「リュシュターには近衛騎士団がついている。毒味はそいつ等の役目だし、そもそもその前に厨房で毒を仕込もうとするのも無理だ。食材から調理手順まで厨房で近衛騎士団がじっくりと見張っているからな。だから毒を入れるチャンスなんてありはしないんだ」
直接襲撃して殺そうとしても、それから乗馬の訓練中に事故に見せ掛けて落馬させようとしても、常時近衛騎士団がリュシュターの周りをガードしている上に監視の目も厳しいので、王宮騎士団の団員が暗殺を企てようとしてもチャンスがなかなか見つからないらしい。
兵士部隊は尚更であり、そもそも兵士部隊の隊員はリュシュターが生活している王族関係者専用の区域には入り込めない。
ラルソンとジアルが会議の時にリュシュターと間近で会話が出来たのは彼等が兵士部隊の統括責任者だからであり、彼等クラスにならなければリュシュターを近くで見るチャンスも無いのである。
そして、ラルソンとジアルが近衛騎士団長のローレンや副団長のジャックスも巻き込んで何かを密会していたとの報告を密偵から受けたカルヴァルだったが、事前に自分の方にローレンとジャックスを引き込んでいた為、実際は全て王宮騎士団の反乱軍の方に情報が筒抜けだったらしい。
バルドが脅して、時にはぶん殴ってまで聞き出した部隊長からの情報と、リュディガーがフェリシテから聞き出した情報を合わせると、何とも恐ろしい計画がこうして浮かんで来たのである。
「リュシュター皇帝陛下を暗殺する為に、わざわざこんな大掛かりな計画を準備していたのか……」
「しかもここまで連れ出すなんて、凄く回りくどいやり方をしたもんだな。でも、近衛騎士団のローレンやジャックスが相手だったらリュシュター陛下からの信頼も厚いだろうに、何でその2人はリュシュター陛下を殺そうとしないんだ?」
リュディガーとバルドが引っ掛かる点はそこだ。
その近衛騎士団の2人とも面識がある2人だが、彼等が反乱を起こしたカルヴァル王宮騎士団長の側についているのであれば、立場的にその2人こそ幾らでもリュシュター陛下を殺すチャンスはある筈だと思ってしまう。
それこそ、リュシュター陛下の元に料理を持って行く時に懐に忍び込ませた毒を混ぜて出してしまえばそれで終わりになる筈なのに。
それをわざわざ、こんなに回りくどいやり方で殺害に持ち込まなければならない理由があるのだろうか?
その事も部隊長とフェリシテに聞いてみたのだが、その辺りはカルヴァルからもローレンからもジャックスからも聞いていない。
自分達はあくまで、このパールリッツ平原に通行制限を掛けて計画をスムーズに進行する様に準備する為の部隊だと白状した。




