23.御目出度い奴等
「俺達に気づかれる事無く、王宮騎士団に会議の内容を全て流す事が出来る人物。そして陛下の誘拐を提案し、果ては貴様等と一緒にこの帝国を乗っ取ろうとしている人物であると言う事になる。その人物は……あの方しか居ないな」
だが、そのジアルの推理にカルヴァルは首を横に振った。
「割と良い線は行っているんだが、惜しかったな。裏切り者が1人だとは限らない」
「え?」
「正体は見て貰った方が早いだろう」
そう言って、指を口に当ててピュイッと指笛を林に向かって鳴らすカルヴァル。
すると次の瞬間、その予想通りの人物とは他にもう1人の人物が姿を現した。
予想通りの人物とは赤毛に黒い軍服、胸に金の勲章をぶら下げている良く見知った男。
そしてもう1人は緑色の髪の毛にこれまた黒い軍服であり、普段はその赤毛の男と良く一緒に居る男。言わば副官と言う存在であった。
「やはり貴方でしたか……ローレン様」
「ジャックス様も……一体何故ですか!?」
思いも寄らないメンバーの裏切りに、怒りと困惑の表情で問いかけるラルソンとジアル。
それを見たローレンが、ふっ……と息を吐いて答えた。
「こっちの方が、私やジャックスの利益になると思ったからだ」
しれっとそう答えるローレンに、ラルソンとジアルの表情がまた怒りに歪む。
「何故です……!! 俺にあの時、こう仰ったでは無いですか!! 陛下を全力で守ると言う気持ちがあるかと! なのに何故……!!」
だが、それを見てもローレンの答えは変わらない。
「何度も言わせるな。私もジャックスも、御前達と組むよりこちらと組んだ方が特になると思ったからだ。盗賊は元々利益で動く人種だからな。それで生きて行くには、こうして主を乗り換える事も必要になって来るのだ」
余りにも残酷なローレンの発言に、ラルソンはがっくりと膝を地面についた。
近衛騎士団長を勤めているローレン・ロクエル、36歳。
今でこそ近衛騎士団長と言う優秀なポジションに納まっているが、彼の生い立ちは元々盗賊だったと言う過去がある。
15年前までイディリーク帝国のみならず隣国バーレンや北のラーフィティアまで勢力を拡大していた大規模な盗賊団のリーダーを勤めていた男だったが、本気を出して来たイディリーク帝国の騎士団に制圧されてしまった。
結果として、当時21歳だったリーダーの彼を含め全員逮捕されるか殺されるかと言う呆気無い幕切れとなってしまった。
しかし逮捕された彼は処刑される事は無く、何と当事の皇帝から直々に騎士団への入団をする様にと命令が下ったのである。
その理由としては彼の盗賊団は盗賊行為を働いてはいたものの、一般人相手に暴力行為等はせずに、ライバルの盗賊団との抗争等必要最低限以外の時では不殺を貫いていたからである。
それにプラスして隣国まで股にかけて盗賊団を率いていた為に国内外の情報に関しても詳しい上、リーダーを張っているだけあって戦う事に関してもそれなりに強かったからと言う事であった。
更に皇帝からは騎士団に入らないと言うのであれば処刑すると言う言葉を貰った事もあって、まだ人生を終わらせたくないと考えたローレンは騎士団への入団を決意した。
それからは自分自身の盗賊時代の情報網や情報収集能力、盗賊生活の中で培った我流交じりの武術や馬術で瞬く間に頭角を現して行き、今の近衛騎士団長の立場に納まっている。
盗賊団と言えば血の気が多い人間が大半だが、彼自身は物静かでクールな性格であり想定外の事態にも落ち着いて対応する事が出来るのも、近衛騎士団長になれるだけの素質がある人間だったと言う事であろう。
それを横目で見ながら、今度はジアルが質問をする。
「では、俺達と会議をしたその内容を全て王宮騎士団に流したのも、この襲撃をカルヴァル将軍達と一緒に計画したのも、そして陛下の誘拐を指示したのも、全部ローレン様やジャックス様の裏切りが……あったからなんだろ!?」
最後は憎しみの余り、クールな彼が激昂して敬語も無しになってしまった。
それに答えたのは、ローレンの隣に控えているジャックスだった。
「そうだ。盗賊は情報収集能力にも長けていなければならない。俺もローレン団長も、御前達が王宮騎士団の事を嗅ぎ回っていると聞いてその情報を集める為に、こうして会議を企画して潜り込んだと言う訳だ。御前達はその事を知らずにペラペラと作戦の内容から計画の進行まで喋ってくれたんだからな。全く御目出度い奴等だ」
そうして、そこで一旦言葉を切ったジャックスは武器の大剣を取り出す。
「俺達の作戦に協力してくれて、本当に俺も団長も御前達には感謝しなければならない。その感謝は……ここに御前達の墓を立てる事で存分に示させて貰おう!!」
そう言いつつ、いきなり切りかかって来たジャックスの大剣をショックから回復したラルソンが自分のロングソードで受け止めた。
更に間髪入れずにローレンがジアルへと向かい、2対2のバトルが始まる。
「俺達は少しここで観戦させて貰うとしよう」
近くの岩場に座り込み、カルヴァルとジェバーはそれぞれのバトルをじっくりと観戦し始めた。




