16.怪しい王宮騎士団
近づいてみると、やはり予想通り王宮騎士団の団員達が野営をしていた。
しかし、何か様子がおかしいと直感的にリュディガーとバルドは感じる。
そんな2人に気が付いた王宮騎士団の団員が声を掛けて来た。
「む……何者だ、御前等?」
「俺達はこの近くを通り掛かった冒険者なんだが、王宮騎士団がこんな所で陣を張っているなんて珍しいと思って見に来たんだ。何処かに任務に向かう予定なのか?」
「ふん……貴様には関係の無い事だ。さっさと立ち去れ!」
やけに高圧的な騎士団員の口調だが、ここでこうして王宮騎士団に出会えたのだから本来の聞きたい事をストレートに聞いてみる2人。
「そう言えばちょっと耳に挟んだんだが、このパールリッツ平原で通行制限が掛かっているそうじゃないか。俺達はこれから平原を抜けて山脈の方に向かおうと考えているんだが、そこは通れるんだよな?」
確認の意味でそう聞いたバルドだったが、その瞬間騎士団員の表情が少し変わったのを見逃さなかったリュディガー。
しかも、明らかに動揺した返答をし始める。
「そ、それは……無理だ」
「何でだよ?」
「今、山脈の方では大型の魔物が発見されたって話があるんでな。その討伐をしに我等もそこに向かうんだ。夜行性の魔物だって言う情報があるから、ここで夜になるのを待って進軍するんだ」
落ち着きを取り戻したらしい騎士団員がそう説明するものの、リュディガーがその返答に対して疑問に思った事があるので今度はそれを質問してみる。
「待て。確かこのパールリッツ平原を始め、東の方面では魔物の討伐が進んでいると聞いている。そんな時に突然大型の魔物が現れたと言うのか?」
魔物の討伐を定期的に行っているのであれば、他の魔物はそう言う討伐が自分の身に降り掛かって来るのを恐れて他の場所にテリトリーを移す様になると言う。
しかも、大型の魔物と言うのであればどんな魔物なのかを説明出来る筈だし、それが夜行性だと言うのなら昼間の内に少しでも進んで山脈で罠を張るなり待ち伏せをして用意をするべきなんじゃないかと考えるリュディガー。
それを問い詰めてみようとしたものの、騎士団員は明らかにしどろもどろで逆ギレを始める。
「うるさい! 話は終わりだ、さっさと立ち去れ!」
他の騎士団員も手伝って強引に2人を押し返し、野営地から無理やり遠ざけられてしまった2人。しかし、そうまでされると素直に立ち去る気にはなれない。
「バルド、あの騎士団員達は……」
「ああ、凄く怪しい。こりゃー絶対何かあるぜ」
魔物討伐も橋の建設も、そして採集の依頼も全て頭の中から霞む位に怪しいこの騎士団員達の行動。
こうなってしまったら、何があるのかを確かめないと気が済まない。
それで無くても、リュディガーの親戚や妹のトリスからの情報で「最近は王宮騎士団の動きが何やら怪しい」と言われていた事もあるのだから。
「しゃあねえ、こうなったらちょっと力ずくでも何をしようとしているのか問い詰めてみようぜ」
野営と言っても相手は10人程しか居ないので、林の地形を上手く利用すれば自分達にも潜入のチャンスがあるかも知れない。
そう考えたバルドはリュディガーと一緒に野営地から大きく離れ、林の側面からアプローチを掛ける。
黒いテントが張ってある方向を目指し、さっきのクモの討伐と同じくなるべく足音を忍ばせて進む。
一体、この騎士団員達は何をしようとしているのか?
そもそも「自分達には関係の無い事である」と最初に言っていた筈の任務の内容が「魔物の討伐」であるとその後にベラベラ喋ってしまう所からすると、もしかしたら咄嗟に考えたつじつま合わせの嘘かも知れない。
いや、そう考えるとしっくり来るのだ。
民を守る筈の王宮騎士団の怪しい噂、怪しい行動。
それに近衛騎士団まで動き出しているとなれば、確実に何かがこの国で起ころうとしているのは冒険者であるリュディガーとバルドにも何となく分かる。
「……止まれ」
先を進もうとしていたバルドを、冷静な声と共に手で制したリュディガーが地面に何かを見つける。
「な、何だ?」
「足元、見てみろ」
青い手袋に包まれた指で指し示された地面には、良く見てみないと分からない位に巧妙にセッティングされている、侵入者対策用のロープの罠があった。
このロープの端はそれぞれ木に結び付けられており、しかもロープの途中には金属片までぶら下がっている。
もしこれに足が引っ掛かれば転んでしまうだけでなく、金属片がぶつかり合ってガランガランと音を立てて侵入者が分かると言う仕組みだ。
だが、これは魔物対策とは思えない。
この形状の罠からして、人間がこの野営地に入り込んで来ないようにする為のものだろうと結論付ける2人。
「こんなのがあると言う事は、野営地への侵入者が居るって事なのか?」
「だと思うが……騎士団の野営地に忍び込む様な奴なんて、今の俺達位のもんじゃねえか?」
国家の軍隊である騎士団を相手に、わざわざ忍び込む様な輩が居るのだろうか?
ますます疑問が大きくなるのだが、次の瞬間思いもよらない光景がそんな2人の目の前に現れる!!




