14.通行制限の理由は?
兵士部隊と王宮騎士団がダリストヴェル山脈に向かって出立する、その数日前がリュディガーの誕生日。
勿論、この時点ではリュディガーもバルドも山脈であの様ないざこざが起こる等とは思いもしていなかった。
帝都のアクティルを出てからダリストヴェル山脈までは、馬を普通のスピードで進ませて大体3日程の道のりになる。
その途中で魔物に襲われたりしたら話は別なのだが、自然が多い帝国の東側も今は魔物の駆除が進んでいるので差ほど心配は要らない筈だ、とバルドはリュディガーに話していた。
「まずは魔物討伐の依頼があったパールリッツ平原を超えて、そこから今度は渓谷に向かう途中に掛かっているエーヴィド川を渡らなきゃな」
「船はあるのか?」
「ああ、確か渡し用の小舟が出ている筈だ。それで川を垂直に横断したその先が橋の建設の依頼があったカーレヴェン渓谷で、そこを抜けてやっとダリストヴェル山脈だからな」
馬を横並びにさせて会話する2人の男は、東へと向かって着実に進んで行く。
「それから、少し遠回りにはなるけど川を陸地で横切るルートがあるんだ。バーレン皇国に向かう為に舟が調達出来なかったらそっちを使おう」
「分かった」
渓谷の中にもわざわざ橋を使わなくても東へ向かって進めるルートがあるのだが、その橋が建設中のルートが実は1番ショートカット出来るものなのでそこを通れるのであれば通りたいと思っている。
だが、その前に平原を通り抜ける時にやる事が2つある。
「えーと、確か通行制限が掛かっているって話だったからそれがどんな状況なのかを確かめるのと、依頼の1つの魔物討伐を済ませて行かなきゃな」
リュディガーの選んだ魔物討伐の依頼だが、幸いにも大型の魔物を相手にすると言うようなものではなく、小型の凶暴な魔物が数体出没して通行する国民の迷惑になっているので速やかに討伐して欲しい、との内容だった。
討伐したらその証拠として魔物の部位を持ってギルドに届けることが、成功報酬との引き換えの条件らしい。
それだけなら特に問題は無いと思うので心配はしていない2人だが、もう1つのやるべき事が気掛かりである。
「問題はその通行制限が何処まで掛かっているかだろうな……」
青い手袋に包まれた指を顎に当てて考えるリュディガーの言う通り、こっちの度合いによっては魔物討伐の依頼まで影響が出てもおかしくないのだ。
しかし、まだ現状を見ていない以上確認のしようが無いし、馬を借りた村の住人にその事を訪ねてみてもパールリッツ平原の山脈の方の道に通行制限が掛かったのはつい数日前で、それから平原には村人も制限が解除されるまでは近づかない様にしているので分からない、との話だった。
結局は自分達で現状確認をしなければならないのだが、何故通行制限をするのかが疑問である。
「そもそも通行制限の理由って何なんだ?」
「さぁな。あの村で俺達が聞いた限りだと、王宮騎士団が中心となってその通行制限の話を進めていたって話だから何か騎士団絡みの事なのは間違い無いと思うけどな」
村の住人達の元に王宮騎士団員がやって来て、平原に通行制限をかけるから、山脈の方にはしばらくなるべく近づかない様にとの通達が出されたのが数日前。
あの帝都で聞いた話と一致する内容だが、それが騎士団絡みの話となると思い当たる節が1つだけである。
「なぁ、そう言えば近衛騎士団が採集活動に向かうって噂を聞いていなかったか?」
「ああ、それは確かに。と言う事は騎士団絡みの話と言うよりは、もしかしてリュシュター陛下絡みの話で通行制限が掛かったって事になるのか?」
それならそれで確かに納得が行くが、近衛騎士団が動く理由がやっぱりさっぱり分からない。
「リュシュター陛下ってそんなにアグレッシブなお方だったか? わざわざ自分から採集活動に行きたい、って人にはとても見えねーんだけどなぁ、俺」
バルドの発言にリュディガーも同意する。
「俺も同じだ。あのお方は余り外に出たがらないタイプだと聞いている。元々血を好まない温和なお方だから、5年前に起こったバーレンとファルスの戦争の時も「こちらは一切関わらないので、救援を求める事はしない様に」って声明を出した位だからな」
それ位に争いを好まないのが今のイディリーク帝国の皇帝であるリュシュターだが、元々は孤児だった彼が彼が子供の時に前皇帝に気に入られたのが切っ掛けで目を掛けて貰える様になり、子供が居ないと言うその前皇帝にまるで自分の息子の様にして育てられたのだと言う。
そして、彼が20歳の時に前皇帝が病に倒れて亡くなってしまったので、息子同然に育てられたリュシュターが皇帝の跡を継いでこのイディリーク帝国の新皇帝となった経緯がある。
リュディガーもバルドもそれは勿論知っているし、平民出身のバルドと違って王族の親族でもあるリュディガーはその話を身近なものとして捉えていたのが記憶に新しいのだとか。
実際リュディガーもリュシュター皇帝陛下とは面識があるのだが、雰囲気や立ち振る舞いを見る限りは自らそんな山脈に出向く程に行動的な人間では無いだろう、と思うのもまた事実だった。




