12.決行当日(冒険者達編)
兵士部隊が動き始める少し前。
リュディガーが20歳の誕生日を迎える日に、そのリュディガーがバルドに導かれて旅立つ事になった。
しっかりと準備をしてあるし、その日は妹のトリスも仕事だと言うのを聞いているのでその間に脱出を始める。
荷造りで怪しまれる様な事があれば「傭兵の仕事があるんだ」と言って貫き通す手筈にもなっているので、抜かりは無いと自分達で思える作戦だ。
トリスには悪いが、やはり決めた事は決めた事だし世界を見て回る事でものの見方も広がるだろう。
それまでは普段通りの生活を続けつつ、冒険者ギルドに向かってバーレン皇国方面の依頼が無いかをチェックしてみるリュディガー。
実際に傭兵の仕事を仕入れておけば、それだけで旅立つ為の嘘に信憑性が増すと言うものだ。
「どうだリュディガー、何か見つかったか?」
「……軽いものは余り無いが、ある事にはある」
「へーっ、どんなのだ?」
何枚かの依頼書を手にしているリュディガーを見て、ちょっと見せてくれと断ってからバルドが内容を確認する。
「ええっと……全部イディリークの東側だな。これがダリストヴェル山脈での薬草の採集、こっちがパールリッツ平原での魔物の討伐、それからこれが渓谷での橋の建設の手伝いか……」
旅をするのであれば先立つもの……つまり金が必要になるのだが、その依頼の報酬が高ければ高い程に依頼の内容もハードになると言って良い。
それから、この帝国に何時まで留まるのかと言うのも考えなければならない。
「そうだなぁ……報酬と掛かりそうな時間とミッションの場所を考えると、この橋の建設はあんまりよろしく無さそうだなぁ」
「何故だ?」
「橋の建設は1日や2日で終わるもんじゃねえからさ。見てみろ……報酬はこの3つの中で最も高いけど、その分掛かる日数も7日位は見ておいて下さいってなっているだろう?」
「ふむ……」
このダリストヴェル山脈を越えなければ必ずバーレン皇国に入れない、と言う訳では無く、少し遠回りにはなるがパールリッツ平原を通って迂回するルートでバーレン皇国への国境に向かう事も出来る。
だったら、橋が架かっていない場所で待ちぼうけを食らうよりもそっちの方が良さそうだと判断して、この橋の依頼以外に2つを受領してリュディガーはバーレン皇国を目指す事にする。
だが、ギルドの受付を担当している中年の屈強な体躯の男から思い掛けない情報が入った。
「お前さん達、ダリストヴェル方面に行くのか?」
「ああ」
「あっちの方は確か、平原で怪しい奴等を見掛けたから通行制限が掛かっているって話がある筈だぞ?」
「え?」
「おい、そりゃ本当かよ?」
これはバルドも知らなかった。
何故ならバルドはダリストヴェル山脈を通らずに、イディリークから北東にあるヴィルトディン王国方面からこの帝都に戻って来たのだ。
勿論、帰って来る途中で色々と情報を仕入れてはいたものの、そんな話は初耳である。
「おいおっさん、それって何時の話だ?」
「確か……1週間位前かな。王宮騎士団の連中が警備を張っているって話があったんだよ。だからもしバーレンに行きたいんだったら平原を抜けて渓谷と山脈を通って行くしか無いだろうな」
「はぁ……仕方が無いな。それじゃリュディガー、さっきの奴持って来い」
結局、最初の橋の依頼も受ける事にしたリュディガーは「これも金になるから」と気持ちをポジティブに切り替えるしか無かった。
しかし、それとは別にリュディガーには引っ掛かる事がある。
『リュディガーもルヴィバーの血を引いているだけあって、何時か旅に出ちゃうのかねえ?』
それは2年程前の話なのだが、自分が冒険家ルヴィバー・クーレイリッヒの子孫の家に遊びに行った時に聞いたこの一言が、今でも強く記憶に残っているからだ。
(俺、本当は親戚じゃなくて……)
もしかしたら自分の聞き間違いかも知れないし、早とちりかも知れない。
だが、その聞いた一言と言うのがこうして旅立ちを決意させる切っ掛けの一言になったのは間違い無いだろう。
自分は今まで、ルヴィバーの子孫の親戚だと言う事でずっと過ごして来たのは間違い無いし、両親だってルヴィバーとは血の繋がりが薄いと言っていた。
確かに親族であれば血の繋がりは薄いが、「ルヴィバーの血を引いている」と言う話も間違いで無いと言えばそうなのだ。
だが、リュディガーは自分がルヴィバーの子孫だと思った事は無いし、自分は自分だと信じて今まで生きて来たのでこれからもそのスタンスは変わらないと考えている。
今回の旅はあくまで、そのルヴィバーが残した冒険日誌の続きを自分で確かめに行く。
その続きが分からなかったとしても、世界を旅して回ってみる事で自分の人生に新しい発見があるかも知れない。
だから旅立つんだ、と今一度強く肝に銘じてからリュディガーはバルドと共に帝都アクティルの出入り口に向かって歩き出す。
(悪いなトリス、黙って出て行く事になって……)
置き手紙だけは書き残して来たものの、コソコソと黙って出て行く罪悪感を覚えつつ、1度だけ帝都の街中を振り返ってから力強く彼は歩き出した。




