9.掛けられた疑惑
「何でこんな事になるんだ……」
鉄格子の内側の空間に、リュディガーの呆れた様な声が吸い込まれて行く。
王国騎士団によって騎士団に捕らわれて城に連れて来られたリュディガーのパーティは、カビ臭くて冷たい石の壁と床に囲まれた薄暗い牢屋に4人揃って放り込まれた。
ご丁寧に手と足にそれぞれ枷がはめ込まれ、しかも逃走防止用に鉄球まで付いている。
この状態では満足に動ける訳も無く、このまま牢屋の中で自分達のこれからの処遇が宣告されるまで待つしか無い状態だ。
「あーあ、もう……何で私達が密偵扱いなのよ?」
フェリシテが悔しそうな声を上げるのも無理は無い。
4人がこうして牢に入れられてしまった理由は、自分達が色々と聞き込みをしていた事が原因らしい。
特に遺跡みたいなものがあるかどうかを聞いて回っていたのが最も大きなタブーだったらしく、エスヴェテレスの密偵では無いかと言う容疑がクリストールの街の人間達から掛けられているらしい。
それを聞いた時、4人は理不尽な感情を隠し切れずに抗議したのだが聞き入れられず、結局この牢屋に4人揃って入れられてしまったのだ。
「俺達、これからどうなっちまうんだろうな……」
「とりあえず、この国の人達がお兄ちゃんを始めとして私達の身分を調べて確認してくれるって言ってたから、身元が分かれば疑いも晴れると思うけど……」
バルドのぼやきにトリスがそう反応するが、それも確定事項では無いので不安ばかりが募ってしまう。
その悪い空気の中で翌日の朝まで牢屋で過ごす事になった一行の元に、朝食を届けに来た1人の騎士団員からこれからの行動について通達される。
「朝食を食べたら牢屋から出ろ。リルザ陛下がお待ちだ」
「私達の処遇が決まったの?」
牢屋から出られると言う話にフェリシテの目が輝くが、その赤い髪の毛の騎士団員は声のトーンも表情も変えずに続ける。
「ああ。だからさっさと食べてしまえ」
(愛想の無い男だな……)
もしそれを口に出していたら「御前が言うな」と突っ込みを入れられてしまいそうな事を心の中で思うリュディガーだが、そんな彼もまたこの牢屋から出られる事に対しては喜びがある。
だが、問題はその処遇の内容だ。
国王陛下のリルザから直々に呼び出しが掛かるとのは、それだけ重要な話があると言う事だろう。
イディリークの例で考えれば、通常は牢に入れられた罪人や容疑者が皇帝のリュシュターの前に突き出される等と言う事はあり得ない話だ。
しかしここはイディリークでは無く、遠く離れたヴィルトディンなので自分達の国では有り得ない常識があってもおかしくは無い。
一体何故国王のリルザの前に自分達が突き出される事になったのだろう、と首を傾げつつ朝食を平らげた4人は、その朝食を届けに来たロイティンと言う騎士団員に連れられて、謁見の間へと連れて行かれた。
……と思いきや、辿り着いたのはこじんまりしている何処かの部屋である。
「……リルザ陛下に謁見するんじゃ無いのか?」
ロイティンの後に続いてパーティの先頭を歩いていたリュディガーがそう尋ねると、前を行くロイティンは振り返らずに答える。
「謁見だ。陛下は謁見の間では無くこちらで御前達との謁見を希望されている。くれぐれも無礼の無い様に振る舞うんだ」
そう言って目の前にある、小さいが金の装飾が至る所に施されている赤い両開きの扉をコンコンとノックするロイティン。
「ロイティン・ユイグレス、牢屋より密偵疑惑の4人を連れて参りました」
「入れ」
良く通る声でフルネームと用件を伝え、入室許可を求めるロイティンに対して部屋の中から聞こえて来たのは、青年から中年へと声変わりをしそうな年代を思わせる男の声だった。
その声で許可を貰ったロイティンは、4人を先導してドアを開けて部屋の中に進み入る。
一行を出迎えたのは、一目見ただけでかなり豪華だと分かる木製のデスクに座っている金髪の若い男だった。
座っているので上半身だけしか見えないが、それでも「青の王国」の名前に相応しい、青を基調としたカラーの服でコーディネートされているのが分かる。
彼が間違い無く、このヴィルトディン王国の国王のリルザだと4人には一瞬で理解させる程の風格と妙な威圧感があった。
(凄い殺気を感じる……)
こうして目の前に居るだけで、全身から妙な汗が出て来るのを嫌でも実感するリュディガー。
その彼の両脇には、国王の護衛として黒髪の騎士団員2人が立っている。
国王の身を守りつつ、何時でもリュディガー達に向かって飛び掛かれる位置だ。
国王のボディガードを任される立場の騎士団員は大体イメージ出来るが、今は口に出して確認出来る状況でも無い。
この2人も国王のリルザに負けず劣らずの威圧感と風格があり、4人に対して訝しげに睨み付ける視線を送っている。
そんな3人の前に立たされた4人は当然武器を没収されており、この威圧感に耐えながら受け答えをしなければならないらしい。
居心地の悪さに押し潰されそうになっている4人に対し、国王のリルザがまず口を開いた。




