8.妹と兵士部隊総副隊長
そんな妙な不安を抱えたラルソンが昼食を摂るべく城下町へ繰り出し、向かうは馴染みの料理屋である。
「よーう、トリスちゃん元気?」
「あ、ラルソン副隊長!!」
この店の常連客と言っても過言では無い程に通い詰めているラルソンだが、別にトリスに対して下心がある訳では無い。
単純に、この店で食べた方が兵士部隊の宿舎で出される食事よりも美味いからと言う理由である。
「ほぼ毎日こうやって来てくれてこっちとしては助かるけど、食堂で食べないの?」
「こっちの方が美味いんだよ。宿舎の飯は無料だけど、食べないなら食べないで別にああだこうだ言われる事も無いからさ」
自分と同じくこうして外で食事を摂っている兵士部隊員も居るので、それは問題無いらしい。
そんなラルソンは食のバランスには意外と気を使うタイプらしく、毎回なるべく違うメニューを頼む様にしている。
「今日は何にするの?」
「そうだな……この前来た時は肉料理だったから、今日は魚かな」
「魚だったら煮つけと焼き魚があるけど」
「焼き魚でよろしく」
こんな調子で何時も頼むのだが、注文をし終わってからふと思い出した事があった。
「あ……そうだ、それとトリスちゃんに伝えておきたい事があったんだが」
「え、私に?」
何時もは注文を受け、そして料理を出すだけのトリスは自分がこのタイミングで呼び止められた事に驚く。
「ああ。実はさっき、ここに来る途中に君の兄貴を見掛けたんだよ」
「お兄ちゃんを?」
「そう。ええと……あの茶髪の仲が良さそうな男も一緒だった」
「それはバルドさんかしら。確か旅行に行くのが趣味だって言ってたから、ここに帰って来たんじゃないかしらね? でも、あの2人は仲が良いから一緒に行動するのは不自然じゃないわよ」
不自然、と言うトリスの口から出て来た単語を耳にしたラルソンは、そう言えば……と自分が不自然に思った事を思い出した。
「そう言えば、その茶髪の……バルドだったか? 彼は大きな袋を持っていたけどまた何処かに出掛けるのか?」
「さぁ……また何処かに旅行に出るのかも知れないし、旅行でお土産を大量に買って来たから知り合いに配っているとかそう言う話じゃないのかしら? 現にうちだって色々とお土産貰っちゃってるしね」
なので大きな袋を持っていてもやっぱり不自然じゃないし、そこまで人の行動を考えていられる程トリスも暇じゃないので、会話をそこで切り上げて料理のオーダーを通す為に厨房に引っ込んだ。
こうして食堂に通う事は、自分の腹を満たす為だけでは無くもう1つの狙いがラルソンにはあった。
(何時も通りの変わらない生活をしていないとな。あからさまに怪しい行動をして、王宮騎士団の連中に俺達の動きを察知される訳にはいかないんだ)
そう、ラルソンが城下町のこの食堂で食事を摂っている事は兵士部隊の隊員だけで無く、王宮騎士団の団員達の間でもそれなりに知られている話だ。
だからこそ今日も食堂にやって来たのだが、懸念材料はまだ他にもある。
それが今、自分の目の前に料理を運んで来たトリスの事だった。
が、何時もより明らかに料理が出て来るのが早い。
「もう出来たのか? 今日はやけに料理が出るのが早いな?」
「ああ、他のお客さんが注文したメニューがあったんだけど、それをギリギリになってキャンセルされちゃって。それが今出来上がったんだけど、同じのを注文してくれて助かったわ」
「お、おう……そうか」
他の客に提供する筈だったメニューをそのまま出される、と言うのはラルソンにとっては困惑する話だが、別に作り置きを出された訳でも無ければ食べ残しを使い回されたっ訳でも無い、普通にオーダーした物が作っている途中でキャンセルされて、それをオーダーが被っていた自分に回って来ただけの話なので気にせずに手を付ける事に。
だが、その前にトリスに聞いておかなければならない事があった。
「トリスちゃん、ちょっと小さい声で話したいんだ」
「……何?」
そう言われて耳をラルソンの口元に持って行くトリスに、彼はこう話し掛ける。
「王宮騎士団の話、君も知っているだろう?」
「うん。噂程度だけど、私達兄妹は王族に近い立場だからね。……まさか、変な事になっているの?」
「いやいや、そうじゃなくて何か変わった事は無かったかなって思ってさ。王宮の奴等に」
「変わった事……」
親戚が親戚なだけに、下町に住んでいる身でありながら王族との関係もそれなりに深いハイセルタール兄妹は王宮騎士団との面識もある。
だから何か知っている事は無いかと尋ねてみたのだが、トリスからの答えは「NO」だった。
「ううん、今の所は特に何も無いわ。何かあったの?」
「いいや、何も無いならそれで良いんだ。気になっただけだから。……あ、こう言う話は他の人にはしないでくれよ?」
「勿論よ。騎士団にも私達にもプライバシーがあるんだからね」
その辺りはしっかりわきまえているつもりだから安心して、とラルソンに告げたトリスは怪しまれない内に自分の仕事に戻るのだった。




