ベンジャミンの行動 1
「どうしてこんな事になってしまったんだ。」
ベンは我に返り涙を流した。
それは数ヶ月前に遡る。彼はこの村の役所に勤める青年だった。
夕日が沈む頃に役所を出て
親友のクリスがいる酒場に行き毎晩飲み明かしていた。
親友のクリスとは幼少の頃からの仲でこうして成人してからも二人で毎日会っては
仕事の愚痴や他愛もない話をしていた。
勤勉で成績優秀だが体を患っているベンとは違い
クリスは学が乏しいが体格が良く体力があった事から建築業をしてた。
そんな正反対にも見える二人だが、幼少の頃から気を許せる友として
互いを尊敬し合っていた。
この日もいつも飲んでいるぶどう酒を口に運びながら彼の言葉に返した。
「クリスの仕事があるから村の人達も助かっているんだろ?
そんなに毛嫌いするな。」
彼曰く、毎日水車の修理や屋根の修理など
小さな仕事ばかりで嫌気が差しているようだ。
「だってよベン、そんな小さな仕事ばかりじゃつまんねぇんだよ。
もっとこう、新しい家をどーんっと建てて村を華やかにしたいじゃねぇか。」
顔を薄っすら赤くしながら手振り身振りを交えつつ
片手には麦酒のジョッキを握り締めていた。
こんな小さな村に家をたくさん建てても住む人などいない
不必要な物だと口を挟もうとしたが言葉が続いた。
「それに修理ばっかじゃねぇ
修理のついでに"この電球を付け替えてくれないかしら?"
って俺は便利屋じゃねぇよ!」
きっと小川の近くに住むお婆さんの真似をしたのだろう。
声色を変え仕草を真似るクリスを見て堪えきれず笑みがこぼれてしまった。
「クフッ…ははは!じゃあ僕も今度電球が切れたらクリスに頼もうかな。
"この電球を付け替えてくれないかしら?"ってね。」
そんな冗談を言い笑い合いながら、この日もいつものように夜は更けていった。
その日もとても楽しい酒の席だった。いつもと変わらぬ夜だった。
時計を見ると夜遅い事に気づき家路に着く事を提案し
席を立とうとした時クリスは口を開いた。
「あのさ…明日お前に会わせたい奴がいるんだけど連れて来てもいいか?」
突然何を言い出すのかと少し驚いた。
というのもこの村の若い者と言えば数える程しかいないのだ。
小さな村にいつまでも残る者も少なく、多くは村の外に出てしまっているのだ。
故に友と呼べるものも少ない。そう考えていると一つの結論に行き着いた。
そうだ、クリスは職の関係上、村の外に出ることも多い。
きっと外でできた友なんだろうと。
我ながら少々酒に酔っているとはいえ、さすがの理解力と自画自賛した。
「あぁいいよ。じゃあ明日も夕刻にな。」
机に金を置くと先に店を出ることにした。
きっとクリスは今日も酔いつぶれるまで飲むからだ。
家路に着くとシャワーを浴び、翌日の仕事の段取りを考えながらベッドに潜ると
いつの間にか夢路についていた。