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8.強敵出現 ~冷静と混乱のあいだ

「おい、そろそろ起きろ」


ハロルドさんの声で目が覚める。


「おはようございます」


まだ夜明け前らしく、周りは真っ暗だ。

地面で寝るのは初めてなので、体中が痛い。


もそもそと動き出し、身だしなみを整える。といっても、水魔法で水を出し、顔を洗うぐらいだ。


「さっさと食っていくぞ」


どうやら、ハロルドさんが焚火でスープを作ってくれているらしく、いいにおいがする。

買っておいた固いパンだけでは味気ないので、ありがたくいただく。


食べた後は、焚火の火を消したり、モンスター除けの設置アイテムを拾って後片づけ。

起きて15分もしないうちに出発。


朝の冷たい空気が気持ちいい。歩きながらすっきりと目が覚めてくる。

ハロルドさんも特に眠そうにしていない。冒険者なんてやってると、徹夜の機会も多いのかもしれない。


ただ、平和だった昨日とは違い、今日は1時間ほど歩いたあたりから、少しずつモンスターに襲われることが多くなってきた。

この辺りでは、キノコや虫、犬っぽいモンスターが多いようだ。


「村に近くなってきた。そろそろ毒の準備をしておけ。


……

お前、ホントにそんな装備で大丈夫なのか?」


「毒消し出しておきます。装備は問題ないですよ。

こう見えて高性能なんです」


「……

まぁいい、なんかあったらすぐ言え。

俺が逃げろ、って言ったらすぐ逃げろよ。


死ぬんじゃねぇぞ」


1日一緒にいたからか、少し打ち解けたようだ。心配そうにしてくれている。

まぁ、弓はともかく布の服しか着てないからな。しかもこれ、防具じゃないし。不安になるのも無理はないかもしれない。


この世界では、ありとあらゆるものが装備になる。

そのため、身に着けているものはとりあえず装備するのが普通だ。パジャマでさえ装備して寝る。

ちなみに、部位ごとに装備できる数は決まっているため、身に着けているものの中で最も高性能なものを本人が任意で選んで装備することになる。

そして、どれを装備しているかは、外からは判別できない。


俺が弓しか装備していないと知れたら、もっと不安にさせていただろう。



さらに2時間ほど歩くと、周りの雰囲気が明らかに変わってきた。

枯れた草や木々、毒々しいモンスターが増えてくる。

なんだか肉が腐ったような臭いもしてきた気がする…


ハロルドさんの歩きもゆっくりになり、周りを慎重に観察しながら進んでいく。


そして、前を歩くハロルドさんから、止まれ、の合図が。


視線の先を追うと、30mほどの距離、枯れた木々の間にゾンビがいるのが見えた。

ぼーっと突っ立っており、向こうはまだこちらには気づいていない。


「近くに別のはいない。狙えるか?」


ハロルドさんが小声で聞いてくる。


静かにうなずき、慎重に矢をつがえ、弓を構える。

スキルを習得する前は5m先に飛ばすことすら困難だった弓だが、望遠スキルと弓スキルLv.2を得た今となっては、このくらいの距離なら外さない。


ビュッ


狙い違わず、放った矢がゾンビのこめかみに突き刺さる。というか、突き抜けた。

何の反応も出来ず、吹き飛ばされるようにゾンビの身体が倒れる。


「上出来だ。いい弓だな、それ」


「どうもです」


褒められた。


そのあともポツポツとゾンビを見かけるが、向こうが気付く前にハロルドさんが見つけるので、襲われることなく弓で一撃。遠距離攻撃は素晴らしいな。

そのまま少しずつ村に向かって進んでいく。


「まだ村まで距離があるんだが、予想より汚染が広がってるな…

囲まれると厄介だが、まだ余裕もある。もう少し進んでみよう。

後ろを気にし過ぎて遅れるなよ」


それからさらに1時間ほど進むと、ポツポツと家や畑らしきものが見えてきた。どうやら村に入ったようだ。


ほとんどの家は、モンスターの襲撃を受けたのか、半壊もしくは全壊している。

また、ここまでで倒したゾンビは40を超えている。

覚悟していたつもりだが、想像以上にひどい状況だ。

緊張やストレスで変な汗が止まらない。


周りを警戒しながら、ゆっくりと村の様子を見て回る。


ハロルドさんは、何かの痕跡を見つけるたびに、立ち止まって観察している。

俺は見てもよくわからないが、今回の調査に関しては完全にハロルドさんに丸投げしているので、俺は探知スキルを使って周りを警戒しておく。

さっきまでとは逆に、村の中はゾンビの数が少ないようだ。


歩いては止まり、歩いては止まりの調査を進めること30分ほど、地面に残った足跡を観察していたハロルドさんが突然顔を上げ、警戒するような目で村の中心を見る。


「気を付けろ。何かいる」


俺の探知スキルではまだわからないが、どうやら強敵がいるらしい。

さっきから、心臓がドクドクうるさい。

いつでも弓を打てるよう警戒しながら、ハロルドさんの後ろをゆっくりついていく。



音を立てないよう慎重に歩き、村の中心に向かう大きな通りに出たところで…


見つけた。

村の広場に立ち尽くす、ゾンビの後姿を発見。

望遠スキルの力により、はっきりと背格好がわかる。


「え?」


これまで出会ったゾンビは、農夫や主婦、商人といったいで立ちをしていた。おそらく村人だったのだろう。


「なっ……」


今度のゾンビは明らかに雰囲気が違う。

丈夫さと動きやすさを兼ねた革の鎧やブーツ、左手に握られた刃渡り60cmほどの剣、明らかに戦うための恰好をしている。


「あ、ああ……」


「おい、どうした?」


一緒に狩りをしたときにかぶっていた兜は、破損したか落としたか、こちらの世界ではあまり見ない黒髪がはっきりと見える。


「そ、そんな……

なんで…」


ゆっくり振り返る。

異世界に来て初めて出会った転移者、勝俣さんにそっくりな顔をしたゾンビが。


「うわああああああ!!」


「落ち着け!

大丈夫だ、深呼吸しろ!」


驚愕、恐怖、疑問、いろんな感情で頭が埋め尽くされ、パニックを起こす。

まともな思考ができない。

情けない叫び声を上げながら、ただただここから逃げ出したいという衝動に支配される!


「ああああああああああああああ!!」


混乱(反転):論理的な思考が冴えわたる

発狂(反転):冷静な判断が下せるようになる


「ふぅ」


一瞬で冷静になった。

賢者タイム突入

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