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7.初めての野営 ~ソールさん、ご指名ですよ

キノコ狩りから蜘蛛退治に仕事の軸足を移してさらに数日、今日も商業ギルドに顔を出し、掲示板を眺めていると、


「ソール君、ちょっと…」


「おはようございます。どうしました?」


いつも笑顔で対応してくれる受付嬢さんが、怒りと心配がごちゃ混ぜになったような顔で声をかけてきた。


話があるらしく、個室についてこい、というので素直についていく。


テーブルとイスがいくつかあるだけの小さな部屋に入ると、中にビジネスマン風の50前くらいのおじさんと冒険者風の30半ばくらいのいかつい男性が座っていた。


「冒険者ギルドの方たちよ。相談があるんだって」


ここ最近のポイズンスパイダー狩りの情報を聞き、俺に依頼したいことがあるらしい。


なんで知ってるの? と思ったが、どうやら、毒に限らず、状態異常への対策が取れている冒険者はとても貴重な存在なため、ギルド同士でも情報交換しているそうな。

個人情報保護についてとても気になるところだが、知られて困ることでもないのでとりあえず気にしないことにする。


「マルーナ村については、ご存知ですか?」


「ギルドに掲示されてる情報ぐらいなら。確か、モンスターの襲撃で全滅して、今は住人のアンデット化が起きて危険だとか」


「そうです。早急に対応する必要があるのですが、現在この街には対応できるパーティがおらず、他の街からの応援を待っている状況です」


聞くところによると、全滅した村や町の住民を埋葬せずに放っておくと、場所そのものが汚染され、住民の死体がアンデット系のモンスターになってしまったり、その村に近づくだけで毒などの状態異常になるそうだ。そしてそれは、長く放置すればするほど深刻化するとか。

通常、そのような汚染された場所やダンジョンの探索を専門にしているパーティに対応を頼むらしく、応援を要請しているのだが、この街に到着するまでまだ10日以上かかるとのこと。

現場の詳細な情報すら手に入らず対応に苦慮していたところ、俺がポイズンスパイダーを積極的に討伐している情報を聞き、協力を要請しに来たらしい。


「えっと、私はまだ冒険者の活動を始めて二月程度でして… 毒は問題ないのですが、アンデット化したモンスターと戦ったことがありません。足手まといになっても困ると思うんですが…」


「今回お願いしたいのは、飽くまで偵察、情報収集が主であり、その情報収集もベテラン冒険者の彼、ハロルドが行う予定です。あなたには、戦闘時の彼のフォローと、彼が万が一毒になった場合の離脱、治療の手助けをお願いしたいのです」


なんでも、一人分の対策装備は冒険者ギルドで用意できたらしく、彼自身も優秀なベテラン冒険者だそうな。

元々は一人で行く予定だったが、一人より二人の方がはるかに生存率は高くなるため、是非に、とのこと。


正直どれくらい危険かの判断がつかない。安全を考えれば断るところだが、困ってるみたいだしなぁ。


「わかりました。私でよろしければ…」


「お待ちください。先ほど本人が言ったように、彼はまだ冒険者としての経験が浅く、ゾンビとの戦闘も初めてです。発狂のリスクもあります。不測の事態が起きたときに、経験不足の彼を含めた2人パーティでは全滅の可能性が高いと思われます。そのような依頼にギルド員が派遣されることは、商業ギルドとしては承服しかねます」


受付嬢さんは反対らしい。ずいぶん心配されているようだ。にしても、発狂とは…


「元人間がアンデットモンスターとして襲い掛かってくる様は、精神的に強いストレスになるわ。

だから、経験の浅い若い冒険者が大量のゾンビを前にして、精神への過負荷から混乱や発狂を起こすのは、稀にだけどあることなの。大量の敵を前にして2人のうち片方が精神系の状態異常に掛かるなんて、状況としては絶望的よ。無理やり眠らせるか気絶させて退却するか、場合によっては見捨てることもあると聞くわ」


「……

ご指摘はもっともです。ですが、今回の任務はあくまで、情報の収集です。村を襲撃したモンスターの動向も不明ですし、汚染の規模も正確につかめていません。ここで対応を間違えると、村の浄化が一層遠退きます。事態が深刻化すれば、周りの村やこの街にも被害が広がる可能性もあるのです。

出来るだけ戦闘を行わずに立ち回るよう予定していますし、状況によっては村の中に入らず、外から観察するだけで撤退する場合もあります。何とかご協力してもらえないでしょうか?」


さっきも言おうとしたが、俺は協力しようと思う。ここで知らんぷりすると後で後悔しそうだ。

受付嬢さんは俺を思いとどまらせようといろいろ説明してくれていたが、俺の意思が固いと見ると、不満そうにしながらも手続きに移ってくれた。


というわけで、今日は狩りの予定を変更して、早速マルーナ村に向かうことになった。村へは徒歩で1日半ほどかかるらしいが、野営の準備はすでに2人分してくれているそうだ。初めてだったので助かる。


「ハロルドだ。基本的には俺の指示に従ってくれればいい。ケガや毒にならないよう後ろの方にいろ」


どうやら、ベテランさんも俺が戦力になるとは思っていないようだ。くれぐれも足手まといにならないように、と言われた。


「ソールと申します。経験不足でご迷惑をおかけするかもしれません。いろいろ勉強させてもらいます。よろしくお願いします」


突っかかってもしょうがないので、無難に挨拶を済ます。

受付嬢さんはまたぶつぶつ文句を言っていたが、無視して早速出発。


ベテランさんは走って移動するタイプではないらしく、歩き始める。

俺も後ろについていく。この時間に出発すれば、明日の昼過ぎに到着できるだろう。


黙って歩くのもさみしいので、雑談がてら色々話を振ってみる。

うっとおしそうにしていたベテランさんだが、めんどくさそうな顔をしながらも返事はしてくれる。

特に、今回の依頼に関することやアンデットに関する話は丁寧に答えてくれる。


逆に俺のスキルや戦闘時の立ち回りなどを聞かれたので、適当に答えていく。今回は弓を使う予定だ。ようやく習得できた弓スキルは、非常に使い勝手が良い。というのも、武器を弓に変化させると、矢もセットで出てくるのだが、念じればいくらでも矢は補充されるため、コストを気にせず使い放題なのだ。最近はほぼ弓で狩りをしていた。そのおかげで望遠というスキルも習得している。


そんなこんなでポツポツとした会話を続けながら、次第に日が暮れ始める。

途中、何度かモンスターに襲われたが、問題なく撃破し、互いの力量も把握できた。スムーズな行程で予定より村に近い位置で野営。この調子なら、明日の昼前には到着できそう、とのこと。


日が完全に暮れる前に野営の準備を開始。


この世界では昼夜問わずモンスターに襲われるリスクがあり、どうやって野営するのかと思っていたが、どうやら便利なアイテムがいくつかあるらしい。


まず、焚火をおこし、両手に収まるぐらいの大きさの布袋を火の中に入れる。袋の中には、特殊な処理をした植物が入っており、モンスターの嫌がる匂いを出しながら一晩かけてゆっくり燃えてくれるらしい。


さらに、複雑な文様が刻まれ、中心に小さな魔石が埋まった一辺5cmほどの四角い木の板を、焚火を中心に四方に4枚、10mほどの間隔で設置した。この四角形の中は、外からは認識されにくくなり、中で野営すればモンスターから見つかることはほとんどないそうだ。


無事野営の準備も終わり、簡単な携行食を食べて早めに就寝。明日は夜明け前に出発する予定だ。

モンスターへの対策はしたが、それでも絶対に安全ではないため、念のため交代で見張りを行う。先に俺が見張りを担当。


モンスターに襲われることもなく退屈な時間だったが、睡眠(反転)のおかげで寝落ちすることもなく交代時間に。


「交代か。

……ふん、寝ちまうかと思ってたが、ちゃんと起きてやがったな」


ベテランさんを起こそうと身動ぎすると、物音に気付いたベテランさんがすぐ反応する。

どうやら、俺が見張り中に寝るんじゃないかと心配して起きててくれたらしい。


「心配かけてしまいましたか。

これでも夜は結構強いんすよ」


感謝と心配かけた謝罪をして毛布にくるまる。徹夜することになるベテランさんには悪いが、俺は寝る。スキルを解除し、次第に眠気がやってくる。おやすみなさい。

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