6.魔法習得 ~石を握って「はぁ~……!」
諸々の雑事を終えて、宿の自室に帰ってきた。
今日から勝俣さんに教えてもらった魔法の練習をやってみよう。
アイテムボックスから、雑貨屋で買ってきたアイテムを取り出す。
ただの石ころにしか見えないが、これは『感応石』と呼ばれるものだ。魔力を通すと光るらしい。
魔力を扱う練習用のアイテムとして一般的らしく、手ごろな値段で購入できた。
勝俣さんの話では、まずこの石を握って魔力を石に通す練習をすると良いそうだ。
力を籠めたり、じっと見つめて集中したりしていると、魔力に反応して石が光るようになるらしい。
どんな時に光るのかを観察しながら、魔力を操作する感覚を少しずつ身に着けていくことで、魔力操作、というスキルが発生するらしい。
そして、魔力操作ができるようになれば、後は魔力を放出しながら魔法で起こしたい現象をイメージすることで、少しずつ魔法が使えるようになるとのこと。
勝俣さんの場合、最初に覚えた火魔法のスキルが発生したのは、練習を始めてだいたい1月後くらいだったそうだ。
というわけで早速、石を握って念じてみる。
魔力が高い方がいいだろう、ということで一応武器も装備しておく。今回は魔法使いっぽい杖だ。
「お。光った」
手に持つと、石全体が淡く光る。離すと消える。
どうやら無事、手から魔力を出せてるようだ。
あとは、どんな時に光が強くなるのか、いろいろ試して感覚をつかんでいこう。
右手に杖、左手に石を持つこと1時間ほど。
強く握りしめたり、腹に力を籠めたり、「はぁ~~……」とか言いながら念じてみたりといろいろ試していると、突然、魔力を操作する感覚がはっきりとわかるようになった。
ステータスを確認すると、やはり魔力操作のスキルが発生している。
1か月という話だったが、一晩で習得できてしまった。
どうやら成長促進のユニークスキルが仕事してくれたみたいだ。所持している状態異常も4つになり、より成長が早くなったのだろう。
このまま、魔法スキルの習得も目指してみる。
いきなり火魔法を試すのは怖いので、はじめは安全そうな水魔法を使ってみよう。
指を伸ばし、指先から水が出る様子をイメージしながら、指から魔力を放出する。
「はぁ~~……」
数分経つと、少しずつ指先が湿り気を帯び始めた。
さらに続けると、湿り気は水滴に変わり、次第に量が増えチョロチョロと水が腕を伝ってこぼれるようになってきた。
宿屋のおばさんにお願いして桶を借りてくる。指先を桶に向けてさらに続ける。
その後、30分ほど続けていると突然指から水が大量に放出された。
水道の蛇口を全開にしたような勢いだ。すぐさま魔力を止める。桶から水が少しこぼれてしまった。
ステータスを確認すると、無事水魔法が習得できていた。
濡れた床を布でふき取り、桶の水を外に捨て、桶をおばさんに返す。
次に、武器を短剣に変えて指に薄く切り傷を付ける。指先にプクッと血液が玉を作る。
魔力を通し、治れと念じる。
痛みが消えたので血玉をふき取る。傷が消えている。
しかし、ステータスを確認しても回復魔法は習得していない。
そういえば、毒(反転)の効果でHPが勝手に回復することを思い出す。
毒は自然治癒しないので、状態異常付与の効果をオフにしても、自動回復はオフにはできない。
仕方がないので、簡単に自然回復しないように、手のひらにもう少し深く刺し傷を付ける。
「いってぇ……」
涙が出る。痛みでうまく集中できないが、我慢して念じる。治れ治れ…
傷が消えるたびに手のひらを刺すという拷問のような作業を続けること50分ほど、ようやく回復魔法スキルが習得できた。
とんでもなく疲れた……
まだ寝るには早い時間だったが、精神的に疲れた感じがする。
何もする気が起きなかったので、この日はそのまま就寝することにした。
……
初めての魔法習得からから数日あまり、昼のキノコ狩りで新しく体術、弓、探知、隠密、採取、地図スキルを習得。
他にも、仲良くなった買取カウンターのおじさんに指導してもらって解体スキル、農家にお手伝いを申し出て栽培スキル、雑貨屋で店番して交渉、計算、掃除スキルを習得した。
夜は魔法の練習を継続し、新たに火、土、風、光魔法を習得した。
もう簡単に取れそうなスキルは一通り習得したように思う。
ここからは、どんどん新しいモンスターとも戦って経験を積んでいくべきだろう。
というわけで、今日はいつもの森とは違う、歩いて2時間半ほどの大きな森に来た。
いつもの森の奥にも少し強いモンスターがいるらしいが、こちらの森に住むモンスターが俺のスキルとの相性が良いため、少し遠出してみた。
探索を開始してすぐ、いつもの森では見ない薬草や果実、木の実が目につく。
採取スキルのおかげで素材を傷つけることなく採取。初めての場所で何となくテンションも高い。
カサカサ
どんどん探索を進めていくと、木の上から音が聞こえた。上を見ると、赤・黄色・黒のカラフルな色をしたハガキサイズの蜘蛛を発見。足を含めるとA3サイズくらいになる。
見るからにやばそうな色のこいつは、ポイズンスパイダー。その名の通り、毒を持つ蜘蛛のモンスターだ。ランクは2。
こいつも冒険者に嫌われるモンスターで、探知スキルがないと接近に気付けず、毒に侵されて死ぬ冒険者続出だそうだ。
そんな嫌われ者が住み着いている不人気な森だが、毒の効かない俺には、動きの速くない蜘蛛はむしろやりやすい。
落ち着いて投げナイフを飛ばして処理。腹にささり、一撃で動かなくなる。
こいつの内臓はうまく処理すると毒消しの素材になるのだが、今回は腹に刺してしまい、内臓を傷つけてしまったため、おそらく使えないだろう。
理想は頭を一撃で落として殺すことだが、結構難しい。
一応、解体してみる。やはり内臓や毒腺を破いており使えなそうだ。
ただ、身体の中に小指の先ほどの濃い紫色に輝く石を発見。
魔石だ。
魔力が固まってできている、と言われている魔石は、さまざまな魔道具の作成、稼働に利用されるため需要が高い。
モンスターの身体から出てきたり、鉱山やダンジョンで発見されたりするらしいが、非常に珍しく、大きなサイズのものは高値で取引されるとか。
幸先の良いスタートだ。どんどん進んでいく。
その後も、蜘蛛や時々出てくるキノコを狩りつつ薬草を見つけると採取し、3時間ほど探索を続けた。
全部で蜘蛛を25匹ほど、キノコを4匹ほど。探知スキルのおかげでかなり効率的に探索できた。
充実した気分で森から出る。
探索を順調に終え、テンションが上がっているため、走って帰る。
走るとSPが減少するが、疲労(反転)のおかげですぐ回復する。ステータスが上がっているおかげで乗用車くらいの速さで走ることができる。おお、すげぇ。
行きは1時間半かかったの道のりが、帰りは10分ほどで街が見えてきた。
全く疲れもない。これからは移動はできるだけ走ろう。
さすがに街中で走ると危ないので、歩いて商業ギルドに入る。
そのまま買取カウンターで今日の獲物を査定してもらう。
ポイズンスパイダーは状態や解体の仕方で買い取り額が大きく変わるが、供給がほとんどないため、かなり良い値段で買ってもらえた。良い状態で1匹2000ギルほど。
薬草類もいい値段が付き、総額で40000を超えた。
明日からもこの調子で頑張ろう。