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5.初めてのパーティ~え?あなたも異世界人ですか?奇遇ですね!

2018.9.28 セリフや攻撃を受けたときの反応を修正

転移して6日目、ここ数日はずっと近くの森でキノコ狩りをしている。今日もその予定。


ちなみに、夜は無事眠れた。本当に便利なスキルで良かった。


宿でパンとスープの朝飯を食べ、ギルドに向かう。

パンは固く、ふわふわの食パンや米が早くも恋しくなってきたが、贅沢は言っていられない。

何かあった時のために、出来るだけ金は貯めておきたい。



「おーい、あんた、あんた日本人か?」


「え?」



宿からギルドに向かって歩いていると、街の中心の広場で声を掛けられた。


きょろきょろ見渡すと、この世界では珍しい和風顔の男が20mほど向こうから手を振りながらこちらを見ていた。


「お、学生か。

お前も転移者だろ?

最近こっち来たのか?」


「あ、はい。そうです。えっと、あなたも?」


突然のことでびっくりした。転移して数日で他の転移者に会うとは…

転移者って結構たくさんいるのだろうか。


「勝俣だ。よろしく」


富毛受ふもうけです。よろしくお願いします」


「おう。珍しい名前だな。

ところで、これから狩りか?

来たばっかなら近くの森だろ? 他に約束無いなら一緒しないか?」


あれよあれよと、一緒に狩りに行くことになった。


勝俣さんはこちらに来て5年になるらしい。

この街には、別の街に行く途中で物資の調達に寄っただけとのこと。

狩りに行く予定もなかったが、普段から転移者を見つけたら一応声をかけて、相談聞いたり手助けしたりと世話を焼いているらしい。


というわけで、商業ギルドに寄らせてもらって、いつもの森に出発した。


この数日、毎日通っている道。もうすでに若干飽きてきた。

しかし、ひたすら森でキノコ狩りをしたおかげで、槍、剣、短剣、投擲のスキルを獲得しており、順調に成長できている。お金も少しだが貯まっている。

残念ながら状態異常は増えていないが、もう少しこのままここでキノコ狩りを続けることになるだろう。


ちなみに、一昨日、昨日と弓スキルの獲得を目指していたが、2日やっても獲得できなかった。

そもそもうまく矢を飛ばすことさえ苦労するありさまだった。

そのせいでここ2日ストレスが溜まっており、今日は気分転換にこん棒でいく。弓はまた今度リベンジしよう。


「鈍器とは珍しいな。転移者は剣や槍が多いんだが」



片道1時間の道中、勝俣さんからいろいろありがたい話が聞けた。


曰く、

「体術スキルは、格闘時の動きだけじゃなくて、他の武器を使っているときの動きにも効果があるから、早いうちに獲得しておいた方がいいぞ」


とか、

「パーティーは必須だ。

商業ギルドだとなかなか組むのも大変だろうが、金払ってでもいいから何人かで行動するようにしたほうがいい。

というか、何で商業ギルドなんだ?」


あるいは、

「魔法は何かと便利だから、毎日少しずつでも練習しておいた方がいい。

戦闘だけじゃなく、普段の生活なんかでも使う機会もあるし」


とかだ。

話の中で特に有益だった情報は、やはり魔法についてだろう。

元の世界になかった技術なので、正直最初の一歩もわからず後回しにしていた。

しかし、この世界では当たり前の技術だ。確立された習得方法も広く知られており、レベルの大小はあるにせよほとんどの人間は習得しているらしい。

早速今日から練習してみよう。


勝俣さんはかなり高レベルな冒険者らしく、雑談しながらでも、しっかりモンスターを索敵したり、採取ポイントなどを見つけて、俺に譲ってくれる。


おかげでいつもより効率的に探索を進めることができた。こん棒による鈍器スキルも獲得でき、ホクホクだ。

日も落ちてきたので、本日20匹目のピローキノコをぶん殴って、そろそろ帰りましょう、となった。



その帰り道の途中、


「…いてっ!なんだ?!」


突然、右の二の腕に殴られたような衝撃と、鋭い痛みが走った。

おどろいてあたりを見渡すと、子猫サイズの蜂(?)が3mほどの高さで静かに滞空していた。


「キラービー?!

ちっ!」


勝俣さんが腕を伸ばして、指から赤い何かを飛ばした。魔法かな。


邪魔にならないよう、後ろに下がる。

右腕の刺された部分が腫れ、じくじくと痛む。

戦闘に加わると足手まといになりそうなので、周りをきょろきょろ見渡して他にモンスターがいないか、警戒。



ほどなくして、勝俣さんが無事でかい蜂(?)を撃退。

動きは早いが耐久力はそうでもなかったらしく、勝俣さんが魔法を何発か放つとそのうち1発があたり、ポトリと落ちた。


「ふぅ。無事か?

というか麻痺しなかったのか。運が良かったな」


勝俣さんの方に恐る恐る近づいていく。

やはり敵は蜂だったようだ。腹に焼け焦げた穴が開いている。


「キラービーっていう、ランク2のモンスターだ。

何でこんな場所に…」


鑑定というスキルでモンスターを鑑定したときに、ランクというものが表示される。

人間が住処としている領域ではランク1~7までのモンスターが確認されており、大まかに言ってランクが高い方が強い傾向にあるらしい。

しかし、必ずしも人間にとっての脅威度とランクが一致しているわけではなく、このキラービーはランク2としては異常なくらい厄介なモンスターらしい。


その特徴は、察知するのが難しい静音性と麻痺を伴う高威力な針攻撃だ。

低レベルの探知スキルでは全く接近に気付くことができず、先制の一撃で麻痺してしまうため、高レベルな冒険者でも、襲われて何もできずにそのまま食い殺されるケースがあるそうだ。

今襲い掛かってきたのは兵隊蜂で、獲物を麻痺させた後は巣から働き蜂が大量に飛んできて、肉を細かくちぎって巣に運ぶらしい。麻痺して動けない状態で体が少しずつ食いちぎられていくなんて、想像するだけで恐ろしい……


ちなみに、この森にキラービーが現れたことは相当に珍しい、というか通常では考えられないことなんだそうな。

また、兵隊蜂は何匹かでまとまって行動するもので、1匹だけだった今回の襲撃はいろいろと不自然な点が多く、勝俣さんはしきりに首をかしげていた。


「しかし、助かった…

お前が針を受けてくれたおかげで、俺は麻痺攻撃を受けなくて済んだ。

俺一人だったら最悪死んでたよ」


今回の件については、ギルドへの報告は勝俣さんにお願いすることになった。

勝俣さんは2人の功績として報告する、と言ってくれたが、俺は何もしてないので、気にしないでくれ、と辞退する。


ただ、素材の買取に関しては半々ということになった。

キラービーの針攻撃は連射出来ないらしく、初撃を受けたことで勝俣さんを助けたのは間違いないそうな。

これだけは勝俣さんが譲らず、俺も了承した。

買取後に改めてお金をやり取りするのも面倒なので、その場で素材の半額と思われるお金を受け取った。

額が適正か正直わからないが、俺にとってはもらえるだけでラッキーなお金なので、特に文句もなく受け取る。意外と高額でびっくりした。おまけしてくれたのかな。



そのあとは特に問題もなく、無事森から抜けることができた。

勝俣さんはこの後、ギルドへの報告、そしておそらくそのあとは巣の調査も付き合うことになるだろうとのことで、商業ギルドの前で別れた。

そのまま商業ギルドの買取カウンターに向かい、今日の獲物(キノコと薬草)の買取を頼む。


査定の待ち時間に、新しく状態異常を受けた影響を確認するため、ステータスを表示する。



名前:ソール・フモーケ

種族:人

状態:毒(反転)、疲労(反転)、睡眠(反転)、麻痺(反転)


HP:254

MP:237

SP:253


STR:15+110

VIT:17+110

DEX:23+110

MAG:1+110

MND:16+110

SPD:16+110


ATK:220

DEF:220


全属性攻撃40%、全属性防御40%


装備:変幻自在(ユニーク装備)


スキル:槍(Lv.1)、剣(Lv.1)、短剣(Lv.1)、鈍器(Lv.1)、投擲(Lv.1)、アイテムボックス(Lv.6)


ユニークスキル:状態異常反転、成長促進、状態異常付与



装備による補正が大きくなっている。

この数日で俺自身のステータスも若干成長しているようだが、やはり状態異常を集めるのが自己強化の早道だな。


また、新しく追加された麻痺(反転)の詳細も見てみる。


麻痺(反転):動きが機敏になる。


機敏か…

いまいち実感がわかないが、SPDスピードにプラス補正でもかかるのだろうか。



しかし、今日の探索はいろいろあったな。

自分に足りないものを知ることができた実りの多いものだった。

不意打ちを防ぐための探知スキル、飛行するモンスターに対する遠距離攻撃手段などもそうだが、とにかく経験不足がひどかった。

初めてのモンスターに対して全然対処できなかった。

こればっかりは長く冒険を続けていくしかないのだろう。焦らずできることからだ。

とりあえず今日は宿に帰ったら、勝俣さんに教えてもらった魔法の練習を早速開始しよう。


考え事をしていると、いつの間にか査定が終わっていた。いつもより多めの報酬を受け取り、魔法練習に必要な道具を購入するために商店街の雑貨屋に向かった。



---------------------------



商業ギルドで新人冒険者と別れた後、まっすぐ冒険者ギルドに向かう。


ギルドに入り、空いているカウンターを探す。

探索を終えた冒険者がちらほら帰ってくる時間だったので、残念ながら空いている受付はない。

早そうな列の後ろに並ぶ。と、隅の方でたむろしていた男たちの1人がニヤニヤしながらこちらに向かってくるのが見える。めんどくせぇ…


「おう、兄ちゃん、新人かぃ?

俺が冒険者のイロハでも教えてやろうか?

お代はお前の有り金全部だ、ぎゃはははは」


「わりぃが新人じゃねぇ。他当たれ」


「あん?

適当なこと言って逃げてんじゃねぇ。

おら、ちょっとこっち来い」


日本人の外見は、こちらではずいぶん幼くみられるらしい。もう20歳超えてんだが。

心底うんざりしながらも、ギルドカード見せれば引くかな、と考えて口を開こうとしたところで、横から声がかかった。


「ヒロキ」


「ん…?

おお、あんた、なんでここに」


「もちろん仕事です。あなたは?

キルギスに向かうと聞いてましたが」


声をかけてきたのは、いかにもキャリアウーマン、といった身なりの30前の女性だ。

ギルド側の人間で、俺が拠点とする街の職員だが、なぜこんなところに。


「ああ、行く途中で寄っただけだ。

すぐ出発するつもりだったんだが、地元の人間を見つけてな。パーティ組んで少し狩りしてた」


「……!?

なるほど。地元の、ですか…

ちょっと詳しい話がしたいので、中へ」


大人しく付いていく。

列に並ぶ手間やアホな先輩の相手をしなくて済んで助かった。

先ほど声をかけてきた男は、俺が職員と話す様子から新人じゃないと理解し、すごすごと隅の方に戻っている。



先導に従い、小さな個室に入り椅子に座る。


「ちょうどよかった。

私がこの街に来たのも転移者らしきものがいる、という情報を受けて、その調査のためです。

商業ギルド所属のようですが、いかがでしたか?」


「16歳くらいの男性で名前はそうる 富毛受ふもうけ

商業ギルド所属で間違いなさそうだ。出入りしているのを確認してる。

1日話した感じ、攻撃的な性格、という感じではなかったな。

いたって真面目、穏やか、いかにも日本人って感じだったぜ」


「ふむ。

スキル構成や武器についてはどうでしたか?」


「さすがに全部ペラペラ話してくれたわけじゃないが…

少なくとも戦闘特化って感じじゃなかったな。

武器はこん棒だったが、武器スキルを恩恵として受け取っていないのは間違いない。もうすぐスキルが発生する、もしくは、せいぜいレベル1ってところだ。

魔法スキルも未所持だと言っていた。


ただ、身体はかなり丈夫だったと思う。動きもそこそこ速かったし、探索で疲れた様子もなかった。

防具無しでキラービーの針攻撃を受けても平気そうだったしな。

おそらく、死なないように防御関連の恩恵をもらってるんだと思う」


今日1日でソールから受けた印象を話す。

過去何度かやったやり取りなので、聞かれそうなことについてはあらかじめ頭でまとめてあり、スラスラ言葉が出る。



彼女は、国からの出向でギルド職員として活動しており、俺たち転移者が問題を起こさないよう調査・監視を行っている。

仲間を売っているようで罪悪感があるが、実際、転移者がトラブルを起こすことはよくある。

むしろ、調査に協力した方が結局は転移者の手助けにもつながるはずだ。必要なことだと割り切るしかない。


「そうですか…

どうやら特別に警戒する必要はなさそうですね。

もちろんスキルや装備性能を確定させたいところではありますが、戦闘力が高くないのであれば、問題が起きても商業ギルド内で対応できるでしょう。


ところで、キラービーとは? このあたりで見かけるモンスターではありませんが…」


今日のことを報告する。やはりかなり不自然なことらしく、調査することになりそうだ。

ただ、場所だけ報告すれば、後の調査はギルドでやるとのことで、俺は目的地に向かっていいそうだ。

少し心配だが、良いというなら遠慮なく、当初の予定通り明日出発しよう。

キラービーの死体を渡し、部屋から出る。



思ったより早く解放されたな。

富毛受に宿の名前聞いておけばよかった。

情報を流した詫びに晩飯くらい奢ってやったんだが。

久しぶりに日本の話で盛り上がるのも楽しかっただろうに。


そんなことを思いながら、近くの商店街に向かう。

当初の予定通り、明日の出発に備えて、物資を調達しに行かねえとな。

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