3.初めての買い物~薬を…強い薬をくれ…
冒険者と言えば自由、自由といえば冒険者。
これは定番中の定番であり、異世界行ったらとりあえず冒険者ね、というのは、もはや転移ものの作品の合言葉のようなものだ。
かくいう俺も、冒険者ギルドで登録受付の時に先輩冒険者に絡まれたり、新人冒険者じゃとても倒せないようなモンスターを討伐してギルドマスターに呼ばれて急激なランクアップを提案されたり、「目立ちたくない」とか言いながらそれを断ったりする予定だった。
この世界のギルドの説明を聞くまでは……
ルトロルフさん曰く、
「世界を見て回る?自由?いや、そりゃ冒険者じゃ難しいぞ。
国にしてみれば貴重な戦力なんだから、気軽に国を変えたりなんて許されねぇさ。
もちろん仕事で一時的に外国に行くことはあるだろうが、あくまで一時的にだ。
仕事が終わればすぐ帰らないといけない」
どうやら、この世界の冒険者はずいぶんと不自由なようだ。
国をまたがる大きな団体である商業ギルドに対して、冒険者ギルドは国の管理下にあるらしい。
各国の冒険者ギルド同士である程度の連携はあるが、あくまでそれぞれの国で管理・運営しているとのこと。
また、戦争時には徴兵もあって、国の戦力としてしっかりカウントされているみたいだ。
半分兵士というか傭兵みたいなものなのかもしれない。
ちなみに、商業ギルド所属であれば、外国にもだいぶ行きやすいようだ。
他国との交易なんかは商業ギルドの商人が担っているため、機会も多く、許可もおりやすく、滞在期間も自由が利くそうだ。
また、モンスターの素材なんかの引き取りも商業ギルドで出来るらしい。
この話を聞いた瞬間、冒険者ギルドへの興味は一気に引いた。
戦争はいかんよ、戦争は。
あくまで無双はモンスター相手にする予定。
というわけで、早速商業ギルドへ登録の申請をしに来た。
「えっと、ギルドに所属したいのですが…」
「登録ですか。でしたら、こちらの用紙に必要事項をご記入ください。
わからないところは空白で結構です。字は書けますか?」
「大丈夫です」
名前や住所や仕事なんかを記入するみたいだが、まともに書けるのは名前くらいだ。
仕事としてやりたいのはモンスター討伐やダンジョン探索なんだが、仕事に冒険って書いても大丈夫だろうか。
「珍しいですが、問題ではありません。
ただ、パーティを組むのも難しいですし、買取なんかは国からの補助がないので冒険者ギルドより相当安いです。
かなり条件は悪いので、おすすめはしませんが…」
聞くところによると、冒険者ギルドは国の管理下にあるため、初心者救済のために、買取に補助が出るそうだ。
また、初心者の装備購入や急なケガの治療などのために、ある程度まとまったお金を低金利で貸したりもしているらしい。
これは、特にお金のない低レベルの冒険者にはありがたいらしく、ほとんどの冒険者は冒険者ギルドに所属するらしい。
まぁ、俺の場合は、お金を少し持たせてもらっているので、問題ないだろう。装備も購入する予定はないし。
「大丈夫です」
というわけで、仕事は冒険、他の箇所もできるだけ記入して提出する。
「初期登録と会費のお金はどうしますか? 1年間は支払いを待つことはできますが…」
「えっと、これで足りますか?」
アイテムボックスに入っている通貨を全部取り出す。
「ええ、十分です。残りは入金しておきますか?」
「お願いします」
お金を全部渡す。
入金しておけばカードでの支払いもできるようになるため、ほとんど現金が使われることはないようだ。
「ではカードを作成しますので、少々お待ちください」
提出した紙を持って席を立つ受付嬢。
特に何も言われなかったので、そのまま受付前の椅子に座って、ぼーっと待つことに。
3分ほどで受付嬢が手に銅色のカードを持って戻ってきた。
「こちらがギルドカードになります」
そういって、カードを手渡される。
カードには、商業ギルド所属であること、名前、そしてランクが記入されている。入会したばかりだとランクは1らしい。
落とさないようアイテムボックスに保管する。
「登録は以上になります。何かご質問等はありますか?」
「えっと、図書館みたいなものってありますか? あるいは書店とか。
それから、薬を扱っているお店にも行きたいのですが」
「図書館ですか。内容にもよりますが、この建物にも会員に公開している資料庫がございます。
図書館はありませんが、書店は商店街にあります。
薬屋も同じ通りですね。
場所はご存知ですか? 簡単な地図をお書きしましょうか?」
「助かります。資料庫も覗いてみます」
というわけで簡単な地図を紙に書いてもらった。
この世界では、結構紙が普及しているようだ。A4サイズの紙を受け取る。
「資料庫はあちらの通路奥の階段を上って2つ目の部屋です。すぐご利用になられますか?」
「いえ、また来ます」
ギルドは7~20時ぐらいまで開いているそうだ。
一刻も早く自分を強化しなければならないため、とりあえず薬屋を目指す。
ギルド職員さんが書いてくれた地図を頼りに、今度は商店街を目指す。
といっても、ギルドと商店街はあまり離れていない。
職員さんは親切にも、街全体の大まかな地図を書いてくれており、商店街だけでなく街の入口や宿の集まっている場所、鍛冶屋なども記入してくれている。
おのぼりさんとでも思われたのかもしれない。正直助かります。
歩いて5分ほどで、商店街に到着する。
早朝に転移してからそこそこ時間も経ち、すでに昼も近くなっている。
八百屋っぽいお店や肉屋っぽい店などが並び、人通りもにぎやかになってきた。
そのまま商店街を通り、端の方にある薬屋に到着する。
何となく怪しげなたたずまい。窓がないため中は見えないが、看板に薬屋と書いてある。
「ごめんくださ~い」
おそるおそる中をのぞき込む。
やはり薬屋だったらしく、瓶詰された薬や、よくわからない植物なんかがいくつかならんでいる。
「いらっしゃい。何がご入用だぃ?」
奥のテーブルにいかにも魔女って感じのおばあさんが座っていた。
「えっと、毒薬が欲しいんですが、できるだけ強烈なやつでお願いします」