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Another View ~王様とお姫様

「陛下、見張り台で兵が死亡しているのを発見しました。4つの見張り台すべてに2名ずつ、当番の兵士で間違いないようです。容疑者は特定できていません」


「そうか……

現場の調査を頼む。何かしらの痕跡があれば報告を。

それから、リーゼリットを呼んでくれ」


「かしこまりました」



すでに時刻は深夜をまわっているが、昼間の騒動の後始末で、城内はいつもより少し騒がしい。


昼間の騒動、呪われたスライムによる襲撃だ。



この国は、王家の血脈に受け継がれる魔道具作成スキルにより樹立・繁栄してきた歴史があり、それは今も変わらない。

そのため、王家の保身というよりは国家の実益という意味で、王族の住む王城にはかなり厳重な防備が敷かれている。

城内にモンスターの侵入を許したケースなど、ここ百年無い。どころか、国家成立して初めてのことかもしれない。

それだけに、今回の騒動については、徹底した犯人究明と再発防止の対策が取られることになる。

そのため、真夜中をまわったこの時間も、多くの人間が事件の調査や各所への連絡などで忙しくしているというわけだ。



「陛下、リーゼリット様がいらっしゃいました」


「通してくれ、それから、私がいいというまで誰も中に通すな」


……


「失礼します。お父様、お待たせいたしました」


「座ってくれ」



王族に受け継がれると言っても、すべての子供に高レベルの魔道具作成スキルが宿るわけではなく、一人だけだ。また、それもある程度成長してからじゃなければ判別がつかない。


現在、私には血を受け継ぐ3人の子供がいるが、結局スキルを発現したのは一番年下のこのリーゼリットだった。

つまり、この子は次代の王、ということになる。



「昼間の件ですね。メンテナンス中のわずかな時間を狙った犯行と聞いています。」


「ああ、かなり内部情報が洩れている。手引きした人間も相当数いるはずだ。調査は徹底してやるが、まさか、ここまで入り込まれているとは……」



王都や主要な都市は、シティコアを中心に街を作っているが、その主な恩恵は水と結界だ。


水は言わずもがなだが、モンスターの跋扈する世界では、その侵入を防ぎ、モンスターを遠ざける結界は、大きな街を運営していくうえで必要不可欠だ。


しかし、シティコアの力も万能ではないため、稀にだがモンスターの接近や襲撃を許すこともある。


そのため、街は防壁で囲み、門番を用意する。

王城はそれに加えて、さらに強固な城壁と特殊な結界を作成して防備をさらに固めている。


今回のスライム襲撃については、上空からスライムが落下してきたものと予想しているが、通常時であれば、上空からの襲撃であっても、城の上空を覆っている結界によって侵入を防ぐことができたはずだ。


しかし、今日は結界を発生する魔道具のメンテナンスを行う日だった。

これは、半年置きにどうしても行わなければならないもので、その作業の数十分間、結界の効果が著しく弱まるため、非常に危険な時間となる。

そのため、安全上の問題から、メンテナンスのスケジュールや詳細については機密として扱われる。

また、そのタイミングは一定周期ではなく、ある程度のランダム性を持って設定されるため、ピンポイントで日時を特定され襲撃を受けた今回の事件は、間違いなく情報の洩れがあったはずだ。

さらに言えば、王族2人がそろった場所をめがけて落ちてきたことを考えると、事態はさらに深刻といえる。



「それでだな、ユートピアの関連性について再度話を聞きたい。

今回のルーズへの護衛任務の件や、お前の考えを聞かせてくれ」


冒険者パーティ『ユートピア』


異世界からの転移者のみで結成された冒険者のパーティで、5年前の立ち上げ当初からリーゼリットが気にかけているパーティだ。


昼間の騒動の時にちょうど会談していた人間ということで、犯人のターゲット、あるいは犯人やその関係者である可能性は無視できない。



「……

お父様も、やはり異世界人による犯行だと?」


「各地の事件の情報を見るに、おそらく間違いないだろう。

少なくとも、実行犯のうち何名かには含まれるはずだ」



いるはずのない場所にいるモンスター、めったに起きないはずなのに起きた襲撃、国内各地から多様な事件の情報は集まってくるが、そのうちいくつかについては、通常のスキルだけでは起こしえない騒動もいくつか含まれる。

たとえば、今回のスライム落下についても、はるか上空から狙った場所にスライムを落下させるというのは、普通の人間には至難の業だ。モンスターは人間の言う通りになど行動しない。


つまり、神からの恩恵として賜った特殊なスキルを使った犯行である可能性は高い。



「報告はある程度聞いている。

彼らが無関係であろう、というお前の予測について私も同意見だ。


しかし、一連の事件は、国家存亡にかかわる重大事となりうる。

次の一手を間違えないためにも、詳細を聞かせてくれ」



「……

いえ、お気遣い無用です。

それに、私も少々気になることがあり、お父様のご意見を聞きたいと思っていたところです」



リーゼリットから、これまでのユートピアの活動実績や各人の性格、スキルや装備に関する情報を聞く。

設立当初からリーゼリットが目をかけていたこともあり、何度か報告は受けている。そのあたりは簡単な確認程度で済ませ、自然と話のメインは、報告を受けていないここ数か月の活動について、となる。


メンバーの死亡、新人の加入、その実力。


「あれで転移して数か月か………

潔白を判断するために加入させるとは………」


「当初は、他に手掛かりもなく、何か手掛かりがあれば、と念のため同行させている、といった様子でした。

実際、人間的に怪しい印象は受けませんでしたし……

しかし……」


「転移数か月とは思えないほどの実力があり、その能力の詳細がほとんど判明していない、か……」


昼間の騒動について思い出す。


スライム程度に後れを取る兵士は城内にいないが、相手が強力な呪い持ちとなると、一気に対応が難しくなる。


あの襲撃だけで、普段であればかなりの被害者を出したはずだ。

また、スライムの落下に合わせて別の場所に襲撃でもあれば、事態はもっとひどいことになっていたはず。


それを、短時間に、たった一人で解決した。


スライムに頭から飛び込んでいったときは、気でも狂ったのかと思ったが、呪いなど気にかける様子もなく飲まれた兵士の身体を引っ張り出し、鮮やかな土魔法と風魔法でスライムを中庭に誘導し、見事核を破壊して見せた。


ドロドロの身体で近づいてきたときには、呪いに侵されたのではないかと心配したが、そんな様子もなく、むしろ風呂上りは元気一杯な様子だった。



「味方であればこれほど心強いことはないが、これが謀(はかりごと)であれば厄介だな。

ギルドからの報告は?」


「冒険者ギルドから上がってきたのがこちらです。

ですが………」


「………

あてにならないな。


性格はともかく、戦闘技能については先ほどの印象とずいぶん違う。商業ギルドからは?」



「まだ。任務実績などは開示されましたが、戦闘に関連したスキルなどの詳細はそもそも専門外だ、と」


商業ギルドは、国の枠組みにとらわれない大きな組織で、ある程度国の中枢と距離を置いている。

もちろん必要であれば互いに協力し合う関係を形成できているが、決して言い成りとはいかない。


そのため、商業ギルドに加入して冒険者をするというのは、国や貴族とのつながりを嫌う転移者にまれにあることだ。


彼からはそれほどあからさまな態度は感じなかったが、しかし、人間の内心まではわからない。


腹を割って打ち明け味方に引き込むか、敵か味方か判断できるまで泳がせるか。


頭が痛い問題だ。


「………

さて、どうするか………」

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