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16.お姫様にご挨拶 〜ああ、それなら持ってますよ

「えっと……」


勝俣妹さんパーティからの、突然の加入のお誘い。


かわいらしい娘ばかりのパーティで、正直、願ったり叶ったりではあるが、初対面でパーティに誘われるとは思ってなかった。


意図が読めず警戒心が湧くし、逆に、初対面の人間を誘う彼女たちの警戒心の無さも心配になる。



「うれしいお話ですが、ずいぶんいきなりですね。

何か、事情がおありですか?」



「……

そうですね、まずは説明させてください。


今、うちのパーティは兄が抜けて3人になりました。

特に、兄は前衛を受け持ってくれていたので、その兄が抜けたことで、同じく前衛をやってくれているメンバーの負担が大きくなりました。

他のメンバーのどちらかが前衛スキルを鍛えなおす手もありますが、出来れば新しく前衛を加えて4人でやっていけたら、と思ってます」



長髪ポニーテールが坂上 明日香(さかがみ あすか)さん、ショートカットが柏木 友(かしわぎ とも)さん、というらしい。



確かに、今まで同郷の人間で集まって、ずっとやってきたのだ。

ここで解散するのはさみしいだろうし、かといってどこかのクランに加入するのも不安なのかもしれない。


「私たちは、転移の時に頂いたスキルや装備のおかげで、そこそこのランクの冒険者として活動しています。

つまり、新しくメンバーを加えるにしても、同じくらいの実力者でなければ、依頼や探索のときにその方を危険にさらすことになります。


しかし、実力のある方が、都合よくソロで活動していることは、極めて稀です。


というか、パーティやクランに加入して、難易度の高い依頼や探索を行わないとで実力が付きませんから、基本的に実力のある冒険者は単独で行動しません」



確かに、ソロで活動しているのなんて、商業ギルドの冒険者くらいのものだと聞く。

彼らは実力者とは言えないか。



「そうなると、この世界に来たばかりの転移者の方に声を掛けるのが一番だと考えました」



そこで、俺に白羽の矢が立ったと。



「それに……

富毛受さんは、兄に、ご自身のスキルや年齢について、少しお話してくださってますよね?」


……


「ごめんなさい。

兄は別に、言いふらしたりはしてないと思います。

私は、兄の日記を読んで知ることが出来たんです」


そう言って、妹さんは、見覚えのある手帳サイズの本をチラリと見せてくれる。


「ああ、その手帳、無事届いてよかったです。

それと、スキルや年齢に関しては気にしないでください。

何で知ってるのか、ちょっとびっくりしただけで、困るわけではありませんから」



勝俣さんが、転移者とギルドの橋渡しをしていることも、本人から聞いている。


その際、当たり障りのない情報だけを流すように、気を遣っているとも言っていた。

きっと、あの本には、ギルドに伝えたものより詳細な情報を記したのだろう。


目的は、たぶん、こんな時のために。



「……

この日記には、他の転移者さんたちの情報も書いてありました。

スキルや武器だけでなく、その……

性格とか、信用できるどうか、とか……


その点、富毛受さんについて、兄はとても信頼を寄せていました。

困ったら声を掛けてみろ、と」



ギルドにも同じような報告をしている、と言っていた。


特に、反社会的かどうかについて、ギルドは転移者に対してとても敏感だとか。

もしかしたら、一人で活動している他の転移者たちは、勝俣さんのお眼鏡にかなわなかったのかもしれない。



「……

そうですか。


そういうことでしたら、出来る限りお力になりたいと思います」


おそらく、まだまだすべての事情を話してくれているわけではないのだろう。


本人たちは隠しているようだが、妹さんの探るような目や、他のメンバーの子たちの少し不自然な沈黙は、完全に俺に心を許していないことを示している。


もしかしたら、彼女らと行動することは、何らかの面倒ごとやリスクを伴うことなのかもしれない。



それでも、俺は、パーティに加入することにした。


もちろん、俺自身、パーティでの活動を希望している、という事情もあるが、それ以上に、妹さんのちょっと危なげな様子が気にかかる。


向こう見ず、というか、やけっぱち、というか、事前に勝俣さんに聞いていた性格とは、受ける印象がずいぶん違う。



ただ、どんな事情があるにせよ、手助けできるならしてあげたかった。



一緒に狩りをした日、勝俣さんは笑いながら言っていた。


妹はポヤポヤと抜けてるところがあるから、もし俺に何かあったら、気にかけてやってくれないか、と。



勝俣さんも、そう言った数日後に自分が死ぬとは思っていなかったはずだ。

きっとその言葉も、兄としての決まり文句のようなもので、軽い気持ちで言ったのだろう。


しかし、どんなつもりで言ったにせよ、今となっては遺言のようなものだ。

出来るだけかなえてあげたい。



「ただ、お互い初対面ですし、パーティとして上手く機能するか、まだはっきりとはわかりません。

仮の参加、ということでどうでしょう?


もし、パーティとして今後もやっていけそうだ、という確信が持てたら、その時は改めて本参加、ということにしてみては?」




「……

そうですね。その方が良いかもしれません。


短い期間であっても、ご一緒していただけるのは心強いです。

なにとぞよろしくお願いします」



他の2人のメンバーも、よろしくお願いします、と頭を下げてくれる。


どうやら先ほどの提案は、彼女達の事情にも沿うものだったらしい。



こちらとしても、冒険者ギルドのギルド員とパーティを組み続けることを想定していなかったので、即本参加じゃないのはありがたい。


商業ギルドに所属した意味が無くなっちゃうかもしれないしね。


しばらく一緒に行動してみて、それから、良いか悪いか判断しよう。




その後、改めてお互いの自己紹介やスキルや装備、最近どんな活動をしているか、などについて簡単に打ち合わせた。


その時に聞いたのだが、驚いたことに、彼女らはルーズの街まで、この国のお姫様の護衛依頼を受けてきたらしい。


王族から指名されるということは、彼女らの実力や名声は相当のものなのかもしれない。


また、王都までの帰路についても護衛を依頼されており、お姫様がこの街での用事が終えると同時に出発することになっているらしい。


それを聞いて俺は、依頼の途中でパーティメンバーが増えるのは、依頼人としては不安だろうと思い、別途王都で合流しよう、と提案したが、どうやら、お姫様の了承はもらっている、とのことで、王都まで同行することに。


俺が不心得者だったらどうするつもりなのか、この国の危機管理意識が心配になるね。



というわけでそのまま、お姫様に事前に顔見せすることに。


事前のアポは必要ないのかと心配したが、お姫様に事前に話しているらしく、今日は日が暮れる前に帰ってくることは確認済みだとか。



商業ギルドを出て、高級な宿が集まる一帯に案内される。


俺もこの街に二月以上住んでいるが、このあたりは、普段あまり用事がないため、ほとんど来たことが無い。


黙って彼女らの案内についていく。



ギルドから10分ほど歩いたところで、目的地に到着。


彼女らが泊っている宿は、大き過ぎず、煌びやか過ぎない、けれど、高級感がにじみ出る、いかにもハイグレードな宿だった。


慣れた様子で入っていく3人娘の後ろを、内心ビクビクしながら追いかけ、いかにも高そうなお部屋の前に到着。


部屋の前で待機している護衛らしき人にあいさつし、ノックして入室。


どうやら中はスイートルームになっているらしく、お姫様は奥の個室にいるようだ。


妹さんが呼びに行き、残りはリビングで待機。


数分後、お姫様と妹さんがリビングに入室。

お姫様は、勝俣妹さんたちより少し年下、15、6歳といったところか。



きれいな銀髪を背中まで伸ばした、びっくりするような美人さんだった。


作法は気にしなくていい、というので立ったまま挨拶。


「初めまして、この度、新しくパーティメンバーに加えさせていただくことになりました、ソール=フモーケと申します」


頭を下げる。


「初めまして。リーゼリットと申します」


笑顔で返してくれる。

それほど堅苦しくない人のようだ。



「聞けば、あなたも優香たちと同じく、違う世界からいらっしゃったとか。

異世界からの来訪者であれば、実力については疑いようもありません。

今後ともお付き合いがあるかと思いますが、よろしくお願いしますね」



事前に聞いていた情報だが、彼女のフルネームは、リーゼリット=イトー=リンブルグ、といい、ミドルネームのイトーが示す通り、ご先祖様に伊藤性の転移者を持つらしい。


そのため、転移者たちの特異性についてはある程度伝え聞いているらしく、積極的に接触・交流を持とうとしているとか。


今回の俺の加入も、転移者ならOK、みたいな判断も少なからずあるらしい。



その後、簡単な自己紹介や、他のメンバーも交えた雑談を5分ほど続ける。


どうやら、以前からかなりの交流があるらしく、お互い気安い様子で会話している。


俺はその仲良さげな会話に適当に相槌を打ちながら、時々飛んで来る質問に答えていた。


そして話は、そのまま今後の予定の打ち合わせに。



「それから、予定していた作業なんだけど、少し厄介なことになっていてね」


聞くところによると、この国の王族は、魔道具を作ることに高い適性のある血筋らしく、その腕によって国を建てたようなものらしい。


現在でも、彼らの作る魔道具は、他に再現出来る者がいないほどで、国の運営にも深くかかわっているとか。


今回、お姫様がこの街を訪れたのも、街のインフラを維持・管理する「シティコア」と呼ばれる魔道具の調整作業を行うためらしい。



「長引きそうですか?」


「うーん、逆ね。

正直、私にはやれることが無いわ。

この街のコアの魔力が、予定より大きく減っているらしく、どうやら少し調整したくらいでは修正できなさそうなの。


交換用の魔石があれば良いのだけれど、最近、同じようなことが他の街でも頻出していて、使える魔石のストックが無いのよね。


こうなると、私の一存ではどうしようもないわ。

他の都市のをまわすか、輸入するか……

持ち帰って陛下の判断を仰がないと。

ダンジョン踏破を依頼して、数日で達成できるわけでもないですしね。」


そういって、お姫様はほとほと困り果てた、という顔で苦笑した。


どうやら、今から交換用の魔石を用意しても、シティコアの魔力が切れる方が先だろう、という感じらしい。


魔力が切れると、街の防衛や運営に支障が出て、割と大問題だとか。


にしても、ダンジョン踏破?


「ええ、シティコアに使う魔石となると、ダンジョンコアくらいのサイズになりますから。

そもそも、シティコアは、ダンジョンコアを参考に作ったようなものですし」


へぇ、知らなかった。

というか、ダンジョンコアがあれば解決するのね。


「だったら、これ、使ってください」


そう言って俺は、今日採れたてのダンジョンコアをアイテムボックスから取り出し、お姫様に差し出した。

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