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15.パーティへのお誘い ~ようやく女の子ですよ

はぁ……



なんだか、何もやる気が起きない。



ここ最近は、何もせず一日中、部屋でボーっとしている。





ギルドで、兄さんが死んだと聞いてから四日が経った。





不思議と、一度も涙は出なかった。



驚き、悲しみや混乱があったような気もするけれど、でもそれ以上に、あっけないな、と思った。



この世界に来て5年間、スキルやステータスを鍛え、装備を整え、そこそこ名前が知られるほど強くなったのに、ほんの半月会わない間に、どこか遠くで死んでしまった。



アンデット化した、と聞いたから、もう遺体は焼かれて埋められているだろう。



仰々しいお葬式どころか、遺骨や仏壇だってない。



まるで、兄さんがいた、という事実が、突然、世界から消えてしまったみたいで。



現実感の伴わない、他人事のように感じられて、結局一度も泣けなかった。




コンコン




「優香、起きてるか?」




ドアの向こうから、パーティメンバーの一人、坂上 明日香(さかがみ あすか)ちゃんの声が聞こえる。




ガチャ




「……


起きてたか。


おはよう。


朝ごはん、食べに行かないか?」




「おはよう。


……


お腹空いてないから、いいや」




「そ、そうか……」




パーティメンバーには、ずいぶんと、気を遣わせている。



あれから、部屋は一人で使わせてくれているし、時々、こうやって声をかけてくれる。



しかし、そんな彼女たちも、いつか、どこかで、あっけなく死んでしまうのだろうか。



なんの痕跡も残さずに、ここにいることが、まるで夢だったみたいに。




夢……



実は、そうなのだろうか……




異世界なんて、実は私が見ている夢みたいなもので。



ゲームみたいなこの世界のことも、死んでしまえば、全部無かったことになって。



案外兄さんも、夢から醒めたみたいに、元の世界に居たりして。



死んでしまえば……




「……


優香っ?」




「…… え?


ごめん、聞いてなかった」





「そうか。


実は昨日の夜、ギルドの人が広樹さんの荷物を届けてくれたんだ。


発見した人が、わざわざ手配してくれてたみたいで。


遺髪と装備、あと手帳。


手帳はロックがかかってるみたいだけど、優香なら開けられるかもしれないし、どうする?


ここに置いておいていいか?


もちろん、私が預かっておいてもいい」




そう言って、明日香ちゃんが手帳サイズの本を三冊ほどアイテムボックスから取り出した。



特殊なブックカバーがかかっている。



あれは魔力を検知する魔道具で、事前に登録した人間しか開けられないようになっている。



確かに昔、兄さんに言われて登録したような気がする。



兄さんは、日記みたいなもんだ、って言ってたっけ。



なんで私も登録するのか、とは思ったけど、そのときはあまり気にしなかった。




「……


ありがとう。


そこに置いておいて。


あとで見てみるよ」




「……


うん。


じゃあ、リビングにいるから。


お昼になったらまた来るよ」




荷物を置いて、明日香ちゃんは部屋を出ていった。



一人にしてくれたのだろう。



彼女が置いていった、兄さんの遺品を眺める。



使っていた剣や封筒、手帳などが置いてある。



遺髪、と言っていたから、封筒の中は髪かな。



何とはなしに、手帳を手に取る。



人の日記を覗き見るのは気が引けるが、すでに故人のものだ。



それに、生前、兄さん自身が私を登録したのだから、私が見ても良いものなのだろう。



何もする気が起きないが、かといって、部屋に一人でボーっとするのも退屈だ。



もしかしたら、この手帳を読めば、兄さんとの思い出を振り返りながら、心の整理もつくかもしれない。



私はブックカバーに少し魔力を流し、手帳のロックを外した。





-----





「……


うん。


じゃあ、リビングにいるから。


お昼になったらまた来るよ」




優香に声をかけながら、部屋を出る。



優香はあの日から変わらず、感情の抜け落ちたような顔で、ただベッドに腰かけていた。



きっと、普段の彼女なら、ほにゃほにゃとした気の抜けるような笑顔で手を振り返してくれただろう。



肉親の死に、大きなショックを受けた彼女の心境を思うと、胸が痛い。



私は、幸せなことに、これまで、肉親の死、というものを体験したことが無い。



そのため、彼女が今感じている喪失感や悲しみは、きっと私の想像もつかない。



私がもっと、彼女の悲しみに共感してあげられたなら。



あるいは、彼女の心を癒すように、もっと上手に話が出来たなら。



親友を元気付けてあげられない自分のふがいなさが、たまらなく悔しい。






「ただいま」




朝食を済ませ、リビングでお茶を飲んでいると、外出していたもう一人の親友が帰ってきた。



昨日、荷物を届けてくれたギルド職員は、広樹さんの遺品とは別件で、ギルドからの連絡を届けてきた。



彼女はその対応で、朝からギルドに出かけてくれていたのだ。




「おかえり。

ギルドはなんて?」




「うん。

急な呼び出しで何かと思ったけど、お姫様だった。

護衛を依頼したいんだって」




「……

こっちの事情は説明したのか?」




「うん。

ていうか、知ってた。

それでもあたしらにお願いしたいんだってさ。

一応、みんなに相談するとは言っておいたけど……


……


優香は?」




「……

起きてはいた。

けど、おなかは空いてないって。

広樹さんの遺品は届けたから、今はそっとしておこう。


それで、護衛って、場所は?」


「そか……

目的地はルーズだって。

マルーナ村の隣だからねぇ……

優香の気持ちの整理も付いてないだろうし、姫様の依頼とはいえ、さすがに今回は断ろうか」



「そうだな、今回は……」




「受けよう」




断ろう、と続けようとした私の言葉を遮るように、優香の声が被る。


振り返ると、いつの間に部屋から出ていたのか、リビングの入口に優香が立っていた。


手には、先ほど届けた、広樹さんの手帳が握られている。



「優香。

もう大丈夫なのか?」



「うん、心配かけてごめんね。もう大丈夫。

それより、ルーズ行きの件、受けよう。

私もちょうど行きたいと思ってたの」



どうしたんだろう。

ずいぶんと依頼に前向きだ。



依頼に、というよりは、ルーズの街に用があるようだ。


理由は何であれ、活動する気になったのは良いことだ。

先ほどとは打って変わって、活力のみなぎった顔をしている。


しかし、なんだろう……


優香の目の奥に、何となく、危ういような、暗い感情が見え隠れするような気がする……


私の気のせいならいいが……




---




3日間に及ぶ探索を終え、街に帰ってきた。



商業ギルドまでの道のりを、のんびりと歩く。



今回の探索では、ようやく目標に区切りがついたこともあり、ここ最近では珍しいくらいの達成感や充実感で、今日はとても気分が良かったりする。



というのも、ここ最近はダンジョン探索にかかりきりだった。



街では、戦利品の清算や食料品の補充、ギルドへの報告くらいしかやっておらず、ほとんど宿にも帰ってない。



あとはずっとダンジョンで過ごしていた。



そのおかげで、探索の経験はどんどん積めたし、スキル周りもずいぶん充実した。



現在探索しているダンジョンは、冒険者ギルドの資料では全部で3階層だと報告されていたが、どうやらだいぶ昔の資料だったようだ。



実際は、最下層は5階層だった。


そのため、当初の予定よりも、ずいぶん探索に時間がかかっていた。


ダンジョンは、1階層進むごとに、罠もモンスターも難易度がグンと上がる。

5階層ともなると、もはや1階層とは別世界。


階層を進めるごとに、新しい罠やモンスターに出会い、その度に、何度か危険な目にも合った……


しかし、それも地道に探索し、空白の地図を埋め、着実に攻略を進めて……


そして、ようやく、ようやくだ……


ふっふっふ……


こうなってくると、そろそろ、次のステップに進む頃かもしれない。



そんな風に、ここ最近のことを回想しながら歩いていると、いつの間にか商業ギルドの前に到着していた。


裏に回り、買取カウンターに向かう。



「おう、帰ったか。


……

またダンジョンか?気を付けろよ?」



「はい、気を付けます。査定お願いしま~す」



気にかけてくれていることにお礼を言いつつ、今回の成果をテーブルに並べていく。


ダンジョン探索を始めた当初は、テレーゼさんにばれると怒られると思ったので、ダンジョン探索のことは内緒にしていた。


査定をお願いする素材も、フィールドでも採れるような無難なものしかお願いしていなかった。


しかし、今後もダンジョン探索をすることを考えると、さすがに秘密にしたまま、というわけにはいかない。


獲得した素材でアイテムボックスが圧迫されるし、何より、素材を活用できない現状、現金化しないともったいない。


頃合いを見てトハリギさんには秘密を打ち明けた。


これまで、テレーゼさんからのお説教は頂いてないので、どうやらトハリギさんは秘密にしてくれているようだ。



「……


よし、こんなもんか。

しかし今回は、このあたりじゃ見ないような奴もいくつかあったな。場所変えたのか?」



「ふっふっふ~。

聞いてくださいよ、トハリギさん。実は……」


「ソール君?ああ、やっぱりいた。帰ってたのね」



「別にいつもの探索と何も変わりありませんでしたよ、ええ。

……

やぁ、テレーゼさん、こんにちは。どうかしました?」



「……


なんか隠してる?」


「いえいえ、別に?」


隠したのはテーブルに載せていた大物の素材くらいですよ。



「……」


「それより何か御用があったのでは?」


「……


まぁ、いいわ。お客さんが待ってるわよ。

今日帰る予定だ、って言ったら、朝から1部屋借り切って、ずっとね。

さすがに邪魔だから、さっさと話済ませてくれる?」



客?


テレーゼさんの話し方がトゲトゲしい。


心当たりはないけど、また冒険者ギルドの人かな。


買取の金額を受け取り、テレーゼさんが教えてくれた、お客さんの待つ部屋に向かう。



コンコン


「失礼しまーす」


「どうぞ」


返事があったので、部屋に入る。


中では、大学入りたてくらいの年齢の女の子が三人、椅子に腰かけていた。


全員黒髪で、日本風の顔立ちをしている。

転移者だろうか。


恰好は、やはり冒険者風だ。

革製の鎧を身に着け、それぞれ武器を持っている。



「こんにちは、フモーケです。

私に御用だと聞きましたが……」



「……

初めまして、富毛受さん。

お約束もなく、突然お訪ねしてしまい、申し訳ありません。

私は、勝俣優香と申します。

以前、勝俣広樹、という冒険者とお会いしたことがあるかと思いますが、覚えておいででしょうか?」



勝俣優香さん、というと、



「もしかして、勝俣さんの妹さん、ですか?」


「……

そうです。

兄がとてもお世話になったと聞きました。

遺品を届けてくださったのも、富毛受さんだとか。

その節は、本当にありがとうございました」



そういって、妹さんは立ち上がり、深々と頭を下げてきた。

周りの子たちも口々にお礼を言いながら、頭を下げてくれている。


おそらく、一緒に転移してきた、というパーティメンバーだろう。



「……

いえ、大したことはできませんでした。

結局は間に合いませんでしたし」


「いえ、そんなことはありません。

グールになっていれば、もっと被害が広がっていた可能性もあります。

人様に迷惑をかける前に倒してもらえて、兄も安らかに逝けたと思います」



「……

そう言ってもらえると、助かります」



勝俣さんには、短時間とは言え、お世話になった。


それを、アンデット化していたとはいえ殺めてしまったことで、何となく心にしこりが残っていた。

だから今回、こうしてご家族に挨拶できたのはいい機会だった。


少し、心が軽くなった気がする。



しかし、妹さんの顔を見ると、今回の要件はそれだけではないようだ。


「今回、お伺いしたのは、もちろんお礼を申し上げるためでもありますが、それだけじゃないんです」


「何でしょうか?私に出来ることであればいいのですが」



どことなく、警戒したような、挑むような顔をしている。

他のメンバーの子たちは、妹さんに任せるつもりなのか、口を開かず、じっとやり取りを見つめている。



「実は、富毛受さんに折り入ってお願いしたいことがあります。


……

兄の代わりに、パーティに入ってもらえないでしょうか?」


……

何かと思ったら、ハーレムパーティへのお誘いだった。

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