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Another View ~クランリーダー

無事、マルーナ村の調査を終え、クランハウスに帰還。



今回の任務、出発前はどうなることかと心配していたが、ずいぶん楽に終わった。


事態が想定より悪かったにもかかわらず、だ。


間違いなく同行者の存在が大きいだろう。




最初、あいつに会った時には、足手まといは勘弁してくれ、なんて思っていたが、任務を通して認識を改めた。


あいつは、あの年齢にしては異常なくらいの実力者だ。


しかも、若い奴特有の傲慢さや無鉄砲さが無い。


常に俺の動きや話から何かを学んでいた。


気付くと俺は、あいつに冒険者としてのイロハやノウハウを教えてしまっていた。


飯のタネとも言える貴重なものだが、後悔はない。


まぁ、うちのクランに入って欲しい、とは思うが。




それに比べて、



「リーダーが任務で離れていた2日間に、ケンカなどの軽いいざこざが3件ありました。


クランに入ってからの3か月で、すでに1度衛兵からの事情聴取も受けています。


指導係も手を焼いていますし、何らかの対処は必要かと」



任務から帰った次の日の朝、クランの事務担当から、報告を受ける。


内容は、最近入った新人の傍若無人な振る舞いについてだ。


冒険者には荒っぽいものも多く、多少は目をつぶるつもりだった。


自分にも経験があるしな。




しかしどうやら、この2人については、少々度が過ぎるようだ。


若くしてうちのクランに入るくらいなので、確かに実力は申し分ない。


磨けば今後の活躍が期待できる、と声をかけたのだが、その高い実力が傲慢を生み、逆に問題を起こしている。


さらに悪いことに、大手クランという評判の我がクランに入ったことで、その傲慢さに拍車をかけているようだ。



俺は一人、今後の対応について悩む。


若く、実力があるだけに、ここで除名するのも惜しい。


しかし、俺が注意したところで、改善しないだろう。


むしろ、その傲慢さを内に秘めたまま隠すようになってしまっては、さらに酷い問題を起こしかねない。


一度、大きな挫折や失敗、余計なプライドがポッキリ折れるような経験をしてくれれば、一皮むけていい冒険者になるのだろうが。




良い解決策は、数日経ったある日、冒険者ギルドの掲示板で見つかった。



内容:


ダンジョン内への護衛任務。

依頼人(1名)はダンジョン探索の経験がないため、道中の安全と、ダンジョン探索についての指導、実演を求む。


依頼人:


ソール=フモーケ  商業ギルド所属冒険者



そのあとにも、依頼人についてや報酬など、依頼内容の詳細が記述されていた。


どうやら、ついさっき張り出されたばかりのようだ。


聞いたこともない、商業ギルドのメンバーで、しかも冒険者ともなれば、普通、見向きもされないだろう。


報酬はかなり奮発したようだが、冒険者ギルドの冒険者は、商業ギルドの冒険者に対して、心底見下したような態度をとる。


この報酬でも受ける奴がいるか微妙なところだろう。



しかし、俺はこの名前に覚えがあった。


数日前の任務を思い出す。


野営中、ニコニコしながら、いろんな経験をしてみたい、ダンジョンにもいつか行ってみたい、そんなことを言っていた。


あのときは、変な奴だと思っていたが、この依頼を見て閃いた。


早速、依頼を受ける手続きをしに、受付に向かった。




次の日、朝早くから商業ギルドの入り口前で待つ。


新人二人は、朝早くに起こされたことと依頼の内容に、かなり不満そうな様子だった。


実力ではかなわないと思っている俺に対してはあからさまな態度はとらないが、ブツブツと二人集まって文句を言っている。



すると、いくらも待たずに、黒髪の青年がやってくる。



「あれ、ハロルドさんじゃないですか。


おはようございます。


どうしました、こんなところで」



相変わらず、冒険に出かけるとは思えない装備と、のんきそうな笑顔。


こいつが依頼人だとわかると、連れてきた新人2人の不満がさらに大きくなる。



「……


ふん、雑魚がいきがりやがって。


邪魔すんじゃねぇぞ」



依頼人に向けたとは思えないような言葉に、さすがに注意する。



しかし、そんな態度をとられても、こいつはのんきに笑って挨拶してやがる。


そして、今の俺は、こいつが何を言われても笑っていられる理由が、何となくわかる。


雑魚はどっちか、邪魔するのはどっちか、この後じっくり見せつけるのだ。


この場で言い返す必要など、ないのだろう。





ダンジョンに向かう途中、数時間もしないうちに、明らかな実力の差が出始める。


俺にとってのいつもの速さは、新人にとってはかなり速い移動速度らしく、早々に根を上げ始める。


武器や鎧を重たそうにガチャガチャと鳴らし、息もずいぶん荒い。


そんな2人を後目に、俺はソールに対し、ダンジョンについての基礎知識や立ち回り方などの指導を口頭で進める。


ソールは、ふんふん、と興味深そうに何度もうなずきながら、次々と質問を投げかけてくる。


こいつは相変わらず聞き上手というか、気付いたら俺も、これまでの経験や失敗談など、言うつもりのなかったことまでしゃべり始める。


当然、ガチャガチャとうるさい新人どもの耳には入っていなかった。




実力差は、モンスターとの戦闘でも示される。


ソールはどうやら、武器もいろいろ手を出しているらしく、今日は短めの剣を使っている。


モンスターを察知すると静かに忍び寄り、気付かれる前に急所を一撃。


なかなか堂に入ったものだ。



「やるな。


弓もそうだったが、短剣もかなりの腕じゃないか」



思わず漏れた俺の称賛も、笑って流す。


こいつにとっては、この程度、大したことではないのだろう。



それに比べて、新人2人は、疲れもあってずいぶん苦戦しているようだ。


フォレストベアという小さめの熊型のモンスターと対峙するも、手や足に阻まれて的確に急所を付けず、逆に反撃を受けている。


手数が増えれば、その分毛皮が痛む。


大型で耐久力のあるモンスターならともかく、このサイズなら一撃とは言わないまでも、もっと上手くやってほしいものだ。




その後も出来るだけペースを落とさず、目的のダンジョンに到着。


新人2人が疲れているのは十分わかっていたが、追い込むために無視して走ってきた。


そろそろ、上には上がいることが理解出来てきただろうか。




今日探索するダンジョンは、発生してからの時間も短く、敵も戦いやすいモンスターが多いことから、街の新人冒険者が一番最初に探索するダンジョンとして使われている。


この2人も指導を担当しているメンバーと過去に一度、別々に探索しているらしい。


過去の経験と休憩をとったおかげだろう、ソールが初めての探索だということもあり、ダンジョン探索なら負けない、と、またでかい態度を取り始めた新人2人。


この後のダンジョン探索で、しっかりプライドを折ってやろう。




ダンジョンでも俺は、新人がいることなど考慮していないかのように、いつものペースで探索を進める。


新人向けのダンジョンということもあり、かなりのハイペースだ。


モンスター、罠、モンスター、罠。


1時間もしないうちに、4人のうち2人は疲れて戦力にならなくなった。


戦闘でのミスも増え、とてもじゃないが罠解除を任せる気にはならない。


ただついてきているだけのお荷物だ。



「後ろやります。上のコウモリお願いします」



その一方、歳も大して変わらないソールは、元気一杯だ。


すでに、ダンジョンでの探索に対応し始めている。


出来たばかりのパーティでは、連携が甘いのは当たり前。


その点こいつは、周りの状況をよく見て、声掛けも積極的にしており、安心してパーティを組んでいられる。


最初は戸惑っていた罠もすぐに対応し始め、このダンジョン程度の罠なら、俺と変わらないくらいの速さで解除出来るようになった。


自分の指導で、若い奴がどんどん成長していく様は、見ていて気持ちがいい。


そのあとも、ほとんど2人パーティのような感じで探索を進めていく。




結局、2時間ほどで最初の休憩をとる。


ダンジョンでは、休憩中も安心できないため、出来るだけMPやSPを温存しながら、じわじわと長く探索するほうが、結局は効率が良かったりする。


まぁ、そのためには、十分な攻撃力や耐久力が必要なのだが。


本来なら、夜まで休憩する予定ではなかったのだが、さすがに無理をさせてケガをされては大変だ。


この後は、ペースを落とし、こまめに休憩をはさむことにする。




休憩中も、相変わらず元気そうなソールは、俺にいろいろな質問を投げかけながら、楽しそうに初めてらしい採掘作業を行っている。


こいつは教えた分だけ、結果で返してくる。


俺も自然と、笑みを浮かべながらいろいろ話して聞かせる。



新人2人は、さすがに実力が把握できたのか、相当な落ち込みようだった。


きっと内心は、驚愕、焦り、怒り、悔しさなどで、えらいことになっているだろう。


まだこれが1日近く続く。


帰るころには、余計なプライドなど粉々になっているだろう。




その後、予定通りダンジョン内で一晩過ごし、次の日の昼前にはダンジョンから脱出。


広場で今回の探索の分け前を相談し、そのまま街に帰還する。




出発前はあれほど粋がっていた新人は、今日は朝からずいぶんと大人しい。


落ち込んでいる様子はなく、一晩経っていろいろ整理がついたようだ。


焦らず、自分のできる仕事を最大限しよう、という姿勢が見える。


どうやら、しっかり反省できたようだな。


帰りは出来るだけモンスターとの接触を避け、ペースを落としてやろう。




街には、日暮れ前に帰還できた。


商人ギルドでソールと別れる。



「ソール、昨日はずいぶん失礼な態度をとってしまった。


本当にすまなかった。


それから、今回、依頼を出してくれてありがとう。


いい勉強になった」



帰りの休憩中、何かとソールに話しかけていた新人2人が、ソールに向かって頭を下げた。


さっぱりした顔をしている。


どうやら、尊敬できる存在として敬意を払う、ということを覚えたようだ。



「いえいえ、こちらこそ、依頼を受けてもらえて助かりました」



ソールは相変わらず、笑っている。



いろいろと謎の多い奴だが、いい奴だ。


これからも、若い奴の良い目標として、でっかくなってほしいものだ。



ただ、クランに勧誘しちゃいるが、あいつは来ないだろう。


そんな気がする。



けど、まぁ、いいか。


うちにはすでに、将来有望な新人が2人、いることだしな。



今日は久しぶりに、クランメンバーで飲みに行くか。


当然、酒を覚えたばかりのこいつらも連れて。

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