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14.孤児院の少年少女 ~神様はいつも見てます

俺が誰にも告げずに単独でダンジョン探索していた数日間、テレーゼさんは知り合いを回ったり、冒険者ギルドに突撃したりと、大変だったようだ。


かなり心配させてしまったらしい。


悪いことをした気分になったので、素直に謝る。


落ち着かせるのに苦労したが、あやうく、毎朝予定をテレーゼさんに連絡、探索は日帰りのみ、というルールを課せられそうになった。


日帰りだとできることが急激に少なくなるため、何とか説き伏せて、日を跨ぐ探索の時には事前に連絡、くらいで納得してもらえた。



また、その時に聞いたのだが、俺のいない間に、冒険者ギルドの副ギルド長さんが俺を訪ねてきたそうだ。


何の心当たりもなかったので、明日直接聞きに行ってみよう。




というわけで次の日、冒険者ギルドを訪れ、副ギルド長さんへの面会を希望。



すぐ部屋に案内してもらった。



「ああ、ソールさん、お久しぶりです」



マルーナ村の依頼を持ってきたおじさんだった。


彼は冒険者ギルドの副ギルド長だったらしい。



話自体はすぐ終わった。


マルーナ村の件について、応援が到着し、ゾンビの駆除と浄化に向かったということで、わざわざ直接教えに来てくれたらしい。


ハロルドさんも同行したようだ。


その後少しだけ雑談し、副ギルド長の部屋を退出。



思いのほか、用事がすぐ終わった。


昨日は結局、テレーゼさんの相手で物資の補給ができなかったため、先に買い物かなぁ。


今日の予定を考えながら、冒険者ギルドの出口に向かう。


と、



「今日も入ってないよ。そうそう取れるもんじゃない、って言ってるだろ?」



「じゃ、じゃあ依頼出させてくれよ!


お金、持ってきたから!」



「はぁ……


昨日も言ったけど、なんでもかんでも依頼できるわけじゃないんだ。


金も全然足りないし、もうあきらめな」



小学校低学年くらいの少年が、受付のおじさんにあしらわれている。


おじさんは少年に同情しつつも、ちょっとめんどくさそうだ。



少年はあきらめきれないのか、まだ食い下がろうとしていたが、後ろに並んでいた冒険者風の男に無理矢理追い出されていた。


ふむ、どうしたのかな?




ギルドを出た後、少年を捕まえて話を聞いてみることに。



--




「俺、外れの教会に住まわしてもらってるんだ。


他にも親のいない子供が集まって、街で仕事もらいながら生活してる」



「子供たちだけで?」



「んーん、神父先生も」


少年テオというらしいは、いわゆる孤児というやつみたいだ。

どうやら、この街の教会は孤児院のような役割もあるらしい。



「一緒に住んでるお姉ちゃんが、病気になっちゃったんだ。


珍しい病気らしくて、薬も材料も無くて……


毎朝、冒険者ギルドに材料がないか聞きに行ってるんだけど、全然手に入んなくて……」



それがさっきのやり取りだったらしい。


少年がこれから教会に帰るというので、とりあえず様子を見に行ってみることにする。



少年の足に合わせてゆっくり30分ほど歩いた場所に、古い教会があった。


裏の建物が住居になっているらしく、そっちに案内してもらった。



「テオ、おかえり。


またギルドに行ってたのかい?」



中に入ると、40歳くらいの人の好さそうな神父さんが出迎えてくれた。



「おや、もしかしてギルドの方ですか?


うちの子がご迷惑をおかけしてようで、大変申し訳ありません」



「いえ、私は」



とりあえず、誤解を解き、突然お邪魔したことを詫びる。


神父さんは快く受け入れてくれて、朝ごはんでも一緒にどうだ、と誘ってくれた。


食材を余計に使わせるのは申し訳なかったので、席だけ借りて、自分の朝ごはんはアイテムボックスに残っていた食材を食べることに。


果物なんかもあったので提供して、子供たち10人くらいと神父さんと一緒にご飯を食べた。


久しぶりのにぎやかな食事で楽しかった。



「そうですか、テオが……」



食事の後、ギルドでの話について神父さんと少し話ができた。



「その姉、というのは、ミルのことですね。


ええ、先ほどのあの子です。


スロース病と言われる、子供特有の病気で、もうひと月もあの状態です」



食事の時、神父さんに食事の手伝いをしてもらっている女の子がいた。


気だるげで食欲もあまりなく、視力も弱くなっているらしい。



「何とかしてあげたいのですが、ご覧の通り余裕のない生活ですから、医者にも連れて行けず、薬を取り寄せることもできないのです。


情けない話ですが……」



この世界にも、医者は存在する。


彼らは、高レベルな回復魔法、製薬、診断などのスキルと深い知識を所持する、治療のスペシャリストだ。


スキルだけ、薬だけでは癒すことができないケガや病気を癒すことのできる存在で、優秀な医者は部位欠損や失明すら治療してしまうとか。


しかし、医者に必要とされる技術や知識は生半可なものではないため、数がとても少ないらしい。


治療費も高額で、庶民では治療を受けるのは難しいようだ。


残念ながら、俺では治療してあげられない。


お暇しよう。




教会を出た後、当初の予定通り、物資の調達に向かうことに。



「いらっしゃい、おぉ、ソール、久しぶりじゃないか。


テレーザちゃん泣かしちゃったんだって?


あんまり無茶したらいかんよ」



「こんにちは~。


あはは、また怒られてしまいました」



「それから、この前はありがとね。


材料採ってきてくれたおかげで、薬切らさずにすんだよ。


この年になると、うっかりが増えていけないねぇ」



最初は薬屋に来た。


ここの薬屋には、伝説のポーション(毒薬)を買ってからも、ちょくちょく顔を出している。


おばあさん(マチルダさんという)は1人暮らしでさみしいのだろう、顔を出すと、ガンガン話しかけてくる。


適当に雑談に付き合う。



「……っとと、つい話し込んじまったね。


それで、今日はどうしたの?」



「えっと、スロース病の薬について、教えてもらいたくて」



「スロース病か……


もしかして、教会の子かい?


かわいそうにねぇ。


うちにも何度か神父さんや男の子が来たよ」



知っているようだったが、一応、俺が聞いたことを伝える。



「スロース病の薬は、保存がきかなくてねぇ。


薬そのものだけじゃなく、素材もなんだ。


採ってきても、半日もすりゃ使えなくなっちまう。


王都くらい人が多けりゃどっかの薬屋に置いてることもあるかもしれんが、ここはもともと冒険者の多い街だからねぇ。


残念ながら、うちでも普段から在庫はしてないんだ」



子供特有の珍しい病気のため、そうそう薬が必要とされることもないらしい。


作ってもすぐ悪くなって無駄になるのなら、在庫は難しいだろう。



「盲目や疲労は慢性化すると、失明や虚弱体質に進んじまう。


そうなるともう、簡単には治せなくなるんだ。


子供には、つらいよねぇ……」



マチルダさんは、とても悲しそうな顔をした。



「素材があったら作ることはできますか?」



「ああ、できるよ。


何度か作ったことはあるからね」



材料を聞いてみる。



「うちにないのは……


アサ草の葉と」



根から丸々あるな。



「タク木の樹皮と」



採ってるね。



「あと、光の力は……


手に入りやすいのはヒカリゴケなんかかねぇ」



ダンジョンにありました。



「けど、どれも採取レベルが2くらいないと採れないし、鮮度保つためにアイテムボックスのレベルも高くなきゃいけない。


このあたりには、採取専門の冒険者は少ないからねぇ。


ほとんど手に入らないんだよ」


アイテムボックスは、レベルが高いほど、中身の時間の進み具合が遅くなる。


ちなみに俺のアイテムボックスはLv.6だ。

10日前の宿屋のスープが、今朝まだ熱々だった。


というわけで、ボックス内の素材をずらっとテーブルに並べる。



「何とか作ってもらえないですか?」



マチルダさんは驚いていたが、快く作ってくれることに。


料金も払うつもりだったのだが、要らない、というので、今日一日話し相手になりながら店番と掃除をさせてもらうことになった。




夕方になった。


この時間になるとほとんど客が来ない、ということでお店を閉めた。


薬のお礼を言って、教会に向かう。




2度目だったが、迷うことなく、10分ほどで無事教会に到着。


晩御飯の用意など、何かと忙しい時間なのか、裏の住居から慌ただしい様子が漏れ聞こえてきた。


時間が悪かったかなぁ。


少し時間をずらそうと、表の教会のほうで時間をつぶすことに。



中に入ると、祭壇近くの長椅子の端に腰かけている女の子が見えた。


声をかけてみる。



「こんばんわ。お隣いいかい?」



「え?


あ、はい、どうぞ」



出ていこうとするので、引き留めて少し話をすることに。


1人でどうしたのか聞いてみると、



「みんな忙しいのに、お手伝い出来ないから、せめて邪魔にならないように……」



ミルちゃんは少し寂しそうに言った。


もしかしたら、みんなの傍にいるのは、少し居心地が悪かったのかもしれない。



それからポツポツと、とりとめのない話をする。


これまでの思い出や、教会のみんなのことも話してくれた。


どうやらミルちゃんは、物心ついた時から教会に住んでいるらしい。


神父さんや子供たちを、本当の家族のように大切に思っていることがよくわかった。




話は続き、病気になった時の話になった。


「……


神様って、いるのかなぁ……


小さいころから、ずっと、お祈りしてきたのになぁ……」



病気の話を聞いていると、ミルちゃんが悲しそうに、悔しそうにそんなことを言った。


なんで自分が病気に……


どうして助けてくれないの……


やり場のない怒りを、誰かに聞いてほしかったのかもしれない。




祭壇の後ろ、ここから真正面に、見たことない女性の像が、優しそうな顔で笑っている。


この女性が、この世界で一般的に信じられている神様なのだろう。



「……


神様は、いるよ。


ちゃんと、ミルちゃんのこと見てくれてる。


この神様じゃないけど、おじさん、会ったことあるし」



気付いたら、口を開いていた。


子供だましにもならない、胡散臭い話。


この世界の誰にも話してない、前世と来世の間の話。



「え?


会ったことあるの?」



「うん、金髪のお姉さんで、おさげを二つ結んでて、白い服着てて、ちょっと怒りっぽくて、すごーく心配性だった」



神様らしき人は4人いたけど、何となく思い浮かんだのは、最初にスキルをくれた彼女だった。



「みんなのこと見なきゃいけないから、なんかすごーく忙しそうで」



俺の無茶ぶりも聞いてくれて、ちょっとでも良くなるようにって、一生懸命、



「でも、絶対、ミルちゃんのことも見守ってくれてるよ」



今もきっと、プリプリ怒りながらも、うーん、うーん、と、みんなのために頭を抱えてくれてるはずだ。



「……」



「だからさ、神様に言ってあげよう。


病気に負けずに頑張るから、神様も頑張れ、って」



「……


…… わかった」



ミルちゃんは、よくわからない顔をしながらも、最後にはうなずいてくれた。



「そか。


……


あ、そういえば、おじさん、美味しいジュース持ってたんだ。


おじさんおなかいっぱいで飲めないから、ミルちゃん飲んでくれるかい?」



マチルダさん特製のジュースを渡す。


スロース病の特効薬は苦みがあって飲みにくいらしく、子供向けに果汁を混ぜて飲みやすくしてくれている。


他にも、栄養剤や軽い睡眠薬を混ぜてあり、これを飲めば一晩で良くなる、とマチルダさん渾身の一本だ。


……


実は彼女は、すごい薬師さんなのかもしれない。



この十数分で警戒心も薄れたのか、ためらいなくジュースを飲んでくれる。



「ンク、ンク……


はぁ、美味しい!!」



一気に飲み干していた。


これで大丈夫だろう。



睡眠薬の効き目なのか、すぐにミルちゃんは眠そうに目をこすりだす。



「さて、おじさんそろそろお家に帰るよ。


ミルちゃんも、疲れてるみたいだ。


晩御飯まで、お部屋でお休みしたらどうかな?」



「……うん。


そうする……


じゃあね、おじさん」



住居の前までミルちゃんを連れていき、中に入るのを見送る。


神父さんに挨拶でもしようかと思ったけど、まぁいいや。



そろそろ日が暮れて暗くなる時間だ。


そのまままっすぐ宿に向かう。



そういえば、買い物も途中だったな。


それも、明日でいいか。


今日は俺も気持ちよく寝れそうだ。

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