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Another View ~転移者たち

別視点です。


後半、過激な表現や胸糞悪い表現があります。

苦手な方、ご注意ください。

後の展開を匂わせたかっただけなので、「--」の後は読み飛ばしても問題ないかもしれません。

今日の探索も無事終わった。


前衛が一人少ないため、いつもよりはるかに難易度の低いダンジョンでの探索だが、それもだいぶ慣れてきた。


転移して最初のころは、3人での探索に戸惑い、連携が上手くいかないことも多かったが、最近では、各メンバーの立ち回りも固まってきた。


探知にも気を遣うようになり、討伐するモンスターも選んでいる。危険な場面はほとんどない。


しかし、


「兄さん、遅いね…」


思わず口をついて出る。


慣れてきたとは言うものの、やはり3人での探索は、これまでずっとやってきた4人での探索に比べてとても不安定だ。

特に、これまで攻撃を引き受けてくれていた人間が外れるというのは、想像以上に影響が大きかった。


何より、唯一こちらにいる肉親だったのだ。


5年経ち、ずいぶん異世界での生活に慣れてきたとはいえ、離れているとやはり少し不安というか、落ち着かない。


「あれあれ~、優香ちゃん、ブラコンでちゅか~、さみしいんでちゅか~、よちよちしてあげまちゅね~」


「もぅ、やめてよ~」


数少ない元の世界からの友人が、ニヤニヤ笑いながらじゃれてくるのを、適当にいなす。


私たち兄弟は、特別が仲が良かったわけでも悪かったわけでもない。

特に険悪だったり、無視したりもないが、性別が違う上に歳が6つほど離れていたため、共通の話題もあまりない。

それぞれがそれぞれで勝手にやっている、まぁ普通の兄弟だった。



そして、そんなことは彼女もわかっている。

からかってはいるが、彼女もやはり落ち着かないのだろう。



「大丈夫だよ。

遅れてる、って言ってもまだほんの何日かだし。

またどっかで日本人のお世話でもしてるんじゃない?

広樹さん、お節介だし」


「うん、そうだね」


パーティメンバーは兄以外全員、私と同い年で、前の世界から一緒に転移してきた友人だ。



転移する直前、私たちは、兄の運転する車に乗っていた。

運転免許取りたての兄に、駅まで送ってもらう途中だったのだ。


その途中から記憶が途切れ、気付いたらあの、白い空間にいた。





本当は、転移などせずに元の世界に帰してほしかった。



しかし、友人の一人が、転移直前の記憶をより詳細に覚えていた。



私たち、交通事故にあった……



管理人を名乗る男の人は、困ったような顔をしていたが、他言はできるだけ無用、覚えているのであれば仕方ない、ということで教えてもらった。



転移者を選定するときの基準として、死に瀕した人間は優先して選ばれることが多い、と。

そしてやはり私たちは、転移しなかったとしても、元の世界で死ぬ可能性は高いだろう、と。




私たちは結局、異世界での生活を望んだ。




管理人さんのご厚意により、同じタイミング・同じ場所に転移することになった私たちは、お互いに相談して恩恵を決めることができた。


モンスターにおびえながら生活したくないということで、私たちは、生産ではなく戦闘寄りの構成を選んだ。

せっかくの友人と、パーティを組まない理由はない。

私たち4人は、4人でぴったりかみ合ったパーティとして、異世界での生活をスタートできた。




良いことばかりとは言わない、色々なことがあったが、それでも5年経った今では、そこそこ名の知れた冒険者となり、順調な生活だったと言えるだろう。



しかし、それもやはり、大人として兄が引っ張ってきてくれたことが大きいと、私たちは全員理解している。


何しろ、転移した直後は、まだ私たちは中学生だった。


兄は、精神的にも肉体的にも未熟な私たちの面倒を、ずいぶんと細かく見てくれた。

少なくとも、守ろう、という明確な決意を持ってくれていた。


私たちは間違いなく、その背中に支えられていた。



こちらでの生活に慣れてきた今では、兄と始終一緒に居なければ、という不安はさすがにない。

それでも、やはりどこかで兄を頼りにしているところがあるのだろう。


最近では、兄がちょくちょくパーティを抜けて活動することが出てきた。


以前から、転移者を見かけたら必ず声をかけていたし、ギルド職員から声をかけられることも増えている。

兄が頼られるのは、誇らしいような気ももちろんある。


しかしそれでも、これまではほとんどが日帰りか1日、離れても数日程度だった。

半月以上離れている今回のケースでは、私だけでなくパーティメンバーみんな、どこか落ち着かない気持ちがあるのは、お互い何となく感じている。


いい加減、兄離れしなければ、とも思っているのだけれど。




「優香!!」


依頼の報告を任せていた三人目のメンバーが、焦ったような大声で呼ぶ。


珍しい。いつも冷静で落ち着いた子なのに…


嫌な予感がする…


この後私は、人生で初めて、肉親の死、というものを経験した。



--





「さっさと食えよ、とろいな」


10代半ばと見える黒髪の少年が、鼻をつまみながらいかにも面倒そうに、不定形のぶよぶよした物体に腐肉やヘドロのような水を与えている。


ここは、目の前のモンスターのために用意された特別な場所。

直径20m、深さ5mほどの大きさのくぼみをさらに塀で囲い、外部から見えないよう小屋で覆ってある。


通常、この程度の設備ではモンスターを捕えておくことはできないが、少年の持つ特別なスキルによって、モンスターは「ここから出るな」という少年の命令に背くことができない。


生物の天敵であるモンスターを、従えるスキル


それは本来、この世界にはあり得ないスキルである。

ほんの少し前、この世界の管理者に作ってもらったこのスキルは、しかし、当時少年が願ったものとは違った未来を呼び寄せた。


こんなはずじゃなかった……

本当だったら、今頃僕は……


何度となく頭の中で繰り返された言葉。

自分の不注意やミスが引き起こした現状だが、少年の頭の中は世界から受けた自分への不当な扱いへの恨み言で埋め尽くされている。



ガチャ



ドアの開く音がし、少年はビクッ、と身体を震わせる。

少年に一切の敬意を払わず、苦痛と苦役を強いる存在に、怒りよりも恐怖が沸き立つ。


「失敗したそうだな」


ローブをまとい、頭までフードをかぶっているため、顔も背格好も判別がつかない。

しかし、その声は40代を過ぎた男性を連想させた。


「ぼ、僕はちゃんと言われたようにやったぞ!

ミスなんかしてない!!」


少年特有の、責任逃れの口答えを、一切無視して男が続ける。


「右手と右足を怪我していたそうだな。私は薬を使うと聞いていたが」


「し、仕方なかったんだ! あいつ、僕のこと警戒して、全然思うように動いてくれなかった。

だいたい、最初に言われたのは、あいつを巻き込んでドラゴンゾンビで村を襲え、ってことだけだ!

命令が悪かっ、ぎぃいやあぁーーー!!

い、痛いいたい、やめて、やめてください、ごべんなさいーー!!」


口答えを重ねようとしていた少年の言葉を遮るように男が魔道具を発動させると、少年の全身に恐ろしいほどの激痛が襲い掛かった。

堪らずうずくまり、早く痛みが去るようひたすら許しを請う少年。


30秒ほどお仕置きをした後、男は魔道具に込めていた魔力を止めた。


少年は、痛みの余韻でまだ立ち上がることすらできない。

涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を地面にこすりつけ、ヒクヒクと身体を震わせる。


「スライムは?」


かまわず男が問いかける。


「ヒッ、も、もう直径5mくらいまで成長しました……

あ、あと十日もすれば目標の大きさになります……」


少年が、お仕置きを恐れるように口早に答える。


「間に合いそうだな。

もうミスは許さんぞ」


それだけ言うと、男は少年から興味を失ったようにさっさと小屋から退出した。


後には、腐肉とヘドロを貪るモンスターと、地べたに這いつくばった少年だけが残された。

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