10.報告 ~あいつ、思った以上にやりますぜ
タイトルを変更しました。
混乱させてしまい、申し訳ありません。
いくつか持ち物や髪の毛なんかを遺品として預かった後、勝俣さんの遺体は燃やして土に埋めた。
家の廃材の木の板を地面に突き立てて目印にしておく。
妹さんと一緒に転移してきた、と聞いているので、どうにか見つけて遺品を届けようと思う。
あるいは、ギルドに預ければ届けてくれるだろうか。帰って確認してみよう。
それからも30分ほど調査を継続し、ハロルドさんの号令で街に帰還することに。
行きと同じ経路をたどったため、帰りはそれほどゾンビに襲われなかった。
道中、今回の調査結果について、ハロルドさんが簡単に語ってくれた。
どうやら、今回村を襲撃したモンスターは、このあたりでは見ないような大型で強力なモンスターである可能性が高いらしい。ただ、数はそう多くないだろうとのこと。
これは、村に残った足跡や破壊の痕跡、何より勝俣さんという凄腕の冒険者が被害に合っていることから判断したそうだ。
また、村の襲撃から被害者のアンデット化までの期間が通常よりはるかに早かったらしく、襲撃したモンスター自体も汚染をまき散らす強力なアンデット系モンスターだったことが考えられるとか。
ただ、そのモンスターがどこから来て、どこに行ったのかが分からなかったらしい。
これ以上の調査は、冒険者ギルドからの応援を待って、アンデットモンスターの殲滅が終わってからになるだろうとのこと。
事態が想定より悪く、また、俺の実力をハロルドさんが多少認めてくれたこともあり、帰りは野営なしの強行軍で帰ることになった。
モンスターは探知スキルで何とかなるし、ハロルドさんは暗視というスキルもあり、このあたりのモンスターなら何とかなるだろう、という判断だ。
想定外のことが起きている以上、安全に帰った方がいいような気もするが、ベテラン冒険者が言うなら大丈夫なんだろう。まぁ、疲労(反転)と睡眠(反転)のおかげで全く問題ないしね。
暗視スキルにも興味があったので、文句を言わずついていく。
そんなこんなで、出発した次の日の朝には街に帰還した。
ちなみに夜の行軍1時間くらいで暗視スキルが習得できた。
状態異常が2つも増え、成長促進のユニークスキルは、より一層の仕事ぶりです。
とりあえず、任務完了の報告をしに、ハロルドさんは冒険者ギルドへ、俺は商業ギルドへ向かった。
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コンコン
「副ギルド長、ハロルドさんが面会を希望されています」
「すぐに通してください」
自室で仕事をしていると、ハロルド帰還の連絡が。
一昨日の朝、商業ギルドに行って商業ギルドの協力を仰ぎ、そのまま調査に出発したのを見送った。
帰還は明日になるかと思っていたが、予定より早い。何かあったのか。
コンコン
「失礼します」
職員に連れ添われて、ハロルドが入室する。
「お茶はいい。取り次ぎもしないでください」
職員は頭を下げて退室する。
「ご苦労様でした。早速だが報告をお願いします」
ハロルドからの報告を聞く。
今回のマルーナ村の襲撃は、かなり不自然な点が多い。
襲撃の連絡からゾンビ発見までが異常に短時間に起きている。
報告の内容を聞く限り、やはり厄介な問題のようだ。
「モンスターだが、なんだと思う?」
「確実ではありませんが、竜種の可能性が高い。
過去に一度足跡を見たことがありますが、それに類似していた」
「となるとドラゴンゾンビか…」
ドラゴンと言っても、その大きさや強さはピンからキリまで様々だ。
しかし、弱いドラゴンであっても人間にとっては大きな脅威となる。
ましてゾンビ化したドラゴンとなると、対処できる戦力は限られてくる。
「ただ、近くを捜索しましたが、すでにあのあたりにはいないようです。
襲撃を終えてすぐどこかに行ったものと思われます」
「ふむ……」
あのあたりのフィールドで見かけるモンスターは小さく、弱いものがほとんどだ。
ドラゴンのような大型のモンスターが住み着いたという情報は上がってないし、ましてドラゴンゾンビが移動してきたのなら目撃証言や痕跡が残るはずだ。
マルーナ村に突然現れ、襲撃を終えすぐに煙のように消えた。
何者かによる手引きがあった可能性が高い。
「不可解な点が多いが、少なくとも現在脅威となるモンスターがいないというのは安心材料だ。
現在向かっている戦力だけでゾンビのせん滅は可能だろう。
しかし、ヒロキ カツマタか。
名の通った冒険者だ。グール化の前に討てたのは大きい。
良く討伐出来たな」
「運が良かった。足に重傷を負っていたし、何より坊主が上手くやった。
商業ギルドの奴だと思って舐めてたが、ありゃ相当やるぜ」
ソール=フモーケといったか。
転移者らしいが、報告では戦闘能力に関しては警戒の必要なしとあったはずだが…
「どんな事情があったか知らんが、向こうに置いとくのはもったいない。
事情を聴いてこっちに戻してやるべきだ。何ならうちで引き取ってもいい」
冒険者ギルドの冒険者は、商業ギルドの冒険者を軽んじる傾向にある。
いや、はっきりと見下している。
農家や鍛冶屋など生産活動従事者のことではない。商業ギルドで冒険者を生業としている者たちのことだ。
冒険者ギルドは一部、国の管理下にあり、有事の際は戦力としての働きを期待されている。
そのため、国は冒険者育成に資金を投入しているし、高ランクの冒険者にはある程度の優遇措置もとられている。
しかし、だからこそ、誰でも彼でも冒険者ギルドに所属していることを良しとしていない。
入口は広く、誰でもギルドに入ることができるが、ある程度の期間が経つと篩いにかけられる。
ノルマだったり試験だったりを設け、功績の少ないもの、戦力としての伸びが期待できないもの、素行の悪いものに関しては、脱退を命じることもある。
ステータスが高く、スキルレベルが高いものに対して、低ランクのものは何の脅威にもならない。
戦力は、量より圧倒的に質が大事なのだ。
そして、冒険者ギルドにいることができなくなった冒険者は、商業ギルドに入り、冒険者を続けていくことになる。
むろん、一部のものは冒険者としての自分に見切りを付け、商会や工房の門をたたき、弟子入りを目指す場合もある。
しかし、若いうちはいいが、年を取ってから稼業を変えるのは、スキルにより成果が大きく左右されるこの世界では多大な苦労を伴う。
スキルが成長するまでに長い時間がかかるからだ。
自然と雇う側は、将来に期待が持てる若者を雇うことになる。
結果、ほとんどの者が冒険者を続けざるを得なくなる。
以前より、はるかに苦しい冒険を。
冒険者ギルドから脱退させられた、という評判はパーティへの加入を遠ざけ、安全だが実入りの少ない狩場以外の選択肢を奪う。
補助が出ないことも合わさって、以前より収入は激減。
装備を整える余裕もなく、ボロボロの装備で、休みなく作業のような狩りを繰り返す。
それは、名誉、金、達成感や未知との遭遇、刺激的な冒険を生業とする冒険者ギルドの冒険者から見れば、ひどくみすぼらしい様だ。
「あなたがそこまで言うとは、珍しいですね。
そこまでの実力者だとは思っていませんでした」
この街の冒険者達は、国全体で見ても決して弱い方ではない。
町周辺のフィールドには弱いモンスターばかりだが、南の方にダンジョン群があり、冒険者たちの実入りは良く、そこそこの実力者たちが集まる地域と言える。
中でもハロルドはこの街でもトップクラスの冒険者で、いくつかのパーティーが集まったクランのリーダーでもある。
彼にここまで言わせるというのは、かなりの才能、実力を持った人物だろう。
「今回は、うちの若い奴でも根を上げるようなきつい行程だったが、平気な顔してついてきてた。
それに、防具はひでぇもんだが、武器はずいぶん良いのを持ってるな。
弓の腕も、あの年にしちゃ上出来だ。
何より、ありゃとんでもないステータスだぜ。下手すりゃ魔力なんかは俺より高いんじゃないか」
以前の報告とずいぶん差異がある。これは調査員にも連絡して、追加調査を行う必要がありそうだ。
「彼が以前に冒険者ギルドに所属していた、という記録は残っていません。
おそらく、最初から商業ギルドに登録したのでしょう。
ただ、何らかの行き違いや情報の誤認があってのことかもしれません。
こちらへの勧誘含めて、事情を聴いてみましょう。
さて、マルーナ村に関しては、状況はわかりました。
今回の調査のおかげで、当初の予定通りで問題なしと判断できました。
あなたには、応援が到着後、ゾンビの掃討に同行して頂くことになりますので、十分な休息と準備をお願いします。
今回は、ご苦労様でした」
ハロルドを十分にねぎらい、報告を終える。
退室するハロルドを見送り、報告の前まで手を付けていた仕事を再開する。
手を動かしながら、頭はマルーナ村の件について考える。
不自然に現れたドラゴンゾンビ、アンデット化した転移者。
嫌な予感がする。
何か、重大な何かが起こっているような…




