9.強敵討伐 ~チートの片鱗
「お騒がせしました」
「お、おう。大丈夫か?
……
それで、どうした? 知り合いか?」
「はい。
ヒロキ カツマタという冒険者です。普段はスニアという街で活動していると聞きました。
一度だけ、一緒に狩りをしたことがあります。片手剣と火魔法を使ってました」
知っている情報を話しながら、自分のステータスを確認する。
名前:ソール・フモーケ
種族:人
状態:毒(反転)、疲労(反転)、睡眠(反転)、麻痺(反転)、混乱(反転)、発狂(反転)
HP:724
MP:700
SP:720
STR:23+334
VIT:28+334
DEX:32+334
MAG:8+334
MND:24+334
SPD:30+334
ATK:334
DEF:334
全属性攻撃60%、全属性防御60%
装備:変幻自在(ユニーク装備)
スキル:槍(Lv.1)、剣(Lv.1)、短剣(Lv.1)、鈍器(Lv.1)、投擲(Lv.2)、体術(Lv.2)、弓(Lv.2)、探知(Lv.1)、隠密(Lv.1)、望遠(Lv.1)採取(Lv.2)、地図(Lv.1)、解体(Lv.1)、栽培(Lv.1)、交渉(Lv.1)、計算(Lv.1)、掃除(Lv.1)、魔力操作(Lv.1)、水魔法(Lv.1)、火魔法(Lv.1)、土魔法(Lv.1)、風魔法(Lv.1)、光魔法(Lv.1)、回復魔法(Lv.1)、アイテムボックス(Lv.6)
ユニークスキル:状態異常反転、成長促進、状態異常付与
状態異常が2つ増えたため、装備の性能がかなり上昇している。スキルこそ初心者レベルだが、ステータスはなかなかだ。
「カツマタか。聞いたことがあるな。
確か2、3年前に低ランクの若い奴らが集まったパーティが、キルギス近くのダンジョンを制覇したとかで話題になってた。その中にカツマタってやつがいたはずだ。
やっかいだな。
撤退するぞ」
「ちょっと待ってください」
カツマタゾンビを観察する。
さっきは気付かなかったが、どうやら勝俣さんはゾンビになる前に右手と右足をケガしたようだ。
利き手だった右手ではなく、剣は左手に持ち替えられ、兜と盾はない。
道中での、ハロルドさんのゾンビ講座を思い出す。
人間がアンデット化した場合、ゾンビというモンスターに変化するが、その特徴は下記の通り。
・ステータスは生前から強化される
・スキルの使い方は下手になる
・生前のケガは、ゾンビ化しても引き継がれる(出血は止まる)
・思考力は低下し、戦術や連携はなく、得意な武器で単調な攻撃を繰り返す
ざっくりいうと、戦闘力のない一般人は強化されるが、スキルや戦術が巧みな高ランクの冒険者なんかは弱体化されるらしい。
今回の場合で言えば、転移者である勝俣さんは高レベルのスキルを持っていた可能性があるが、ゾンビ化によって弱体化している、と考えられる。
ステータスが上がっていることは厄介だが、ケガしていることもあり、付け入るスキはあるだろう。
「ここで討伐しましょう。彼が優秀な冒険者であるなら、汚染が進んでランクが上がった場合、手が付けられなくなります」
ゾンビ化が進むと、次はグールと呼ばれるようになる。
ゾンビの時より強化がすすみ、損傷は修復され、より高度な思考力を持つという。
そうなると簡単には討伐できないだろう。
「いや、情報を持ち帰ることが最優先だ。ここで我々が死んでしまうことの方がよっぽどまずい」
「彼は右手と右足をケガしていますから、ステータスほど素早い動きはできないはずです。
また、魔法より剣を使う方が得意だと言っていました。
ゾンビ化していることから、左手に持った剣による接近戦を狙ってくるはずですから、距離を離して弓や魔法で削れば十分勝機があります。むしろ絶好の機会です」
「足か……
なんか考えがあるのか?」
話している間も、勝俣さんはこちらに身体を向け、じっとしている。
いつ襲い掛かってくてもおかしくない。
手早く作戦を話す。
「……
いいだろう。撤退の判断は俺がする。くれぐれも無茶はするなよ」
「はい」
作戦の説明を終えたと同時に、カツマタゾンビがこちらに向かって歩き始める。
俺は、両手を前に出し、大量の水をイメージしながら手のひらから魔力を放出する。
ドドドドドッ
消防車の放水のような勢いで大量の水が放出される。
スキルレベル1にしてはずいぶんと派手なことになっている。
おそらく、装備によって魔力が上がったおかげだろう。
数十m先まで水が届いている。
こちらに近づいてくる前に、カツマタゾンビとの間を出来るだけ水浸しにする。
カツマタゾンビが走り始めた。片足を引きずるように走っているため、その速度は遅い。
もう水は十分だろう。
水浸しにした地面に、今度は土魔法でくぼみを付ける。
こちらも、スキルレベルが低いにもかかわらず、想定通りのくぼみができた。
まぁ、深い穴は必要ない。ほんの数cmをまばらに配置。
これまで使ったことが無い規模の水魔法を使ったため、少しめまいがある。
MPを使い過ぎたせいかもしれない。
「OKです。あのあたりを中心にして立ち回ります」
「よし。危なくなったら迷わず撤退しろよ。いくぞ」
作戦は単純だ。カツマタゾンビをドロドロぼこぼこ地帯に釘付けにするよう、周りをまわるように立ち回る。
ゾンビは頭が悪いから、目標に向かって走るばかり。
しかし、ぬかるんだ地面は意外と走りにくい。土の状態によっては、雪道と同じくらい滑りやすくなったりする。
ドロドロぼこぼこの地面に加え、片足をケガした状態では思うように速度が出ず、ステータスで劣る我々でも接近させずに立ち回ることができるだろう。
2人のうち、余裕がある方は後ろからチクチク弓や魔法で足を攻撃する。
両足をつぶした時点で勝ちは確定する。
さらに、ハロルドさんには話していないが、俺には状態異常付与のユニークスキルがある。
アンデットとはいえ元人間であれば、睡眠や麻痺は効くかもしれない。
威力よりも手数を重視して攻撃を当てていく。
ズデッ
ドロドロぼこぼこ地帯に入った瞬間、カツマタゾンビがずっこける。
じたばたもがきながらなんとか立ち上がるが、数m全力疾走して再びずっこける。
よし。これなら何とかなりそうだ。
それからの数分間は、ただの作業だった。
前情報通りゾンビは思考力が乏しいらしく、ずっと同じようなことを繰り返すだけだった。
回避して、攻撃して、回り込んで、攻撃して。
想定よりずいぶん短い時間で、カツマタゾンビは地面に倒れ込み、もがいたまま立ち上がらくなった。
万が一を警戒して、弓を構えながらゆっくりカツマタゾンビに近づいていく。
「ガ、アガァ……」
どうやら、両足をつぶす前に麻痺になったようだ。よだれをまき散らしながら全身を痙攣させている。
「上手く作戦がハマったな。ずいぶん楽に終わった。
……
こりゃ麻痺か? すげぇ弓だな」
「ええ、ちょっとした伝手で…
自慢の一品です」
「……
お前がやるか?」
「はい。やらせてください」
一日とはいえ、世話になった。
知り合いのいない異世界で、同郷の人間に声をかけてもらったのは、やはり安心できたし、うれしかった。
恩返しどころか、もう二度と話も出来ないと思うとさみしさを感じる。
どんな事情があったかわからないが、アンデット化するというのはやはり無念だろう。
せめてこれ以上苦しまないよう、一撃で済ませる。
ビュッ
至近距離からこめかみに矢を撃ち込む。
一瞬身体が痙攣し、すぐに動かなくなる。
発狂(反転)のおかげか、動揺することはない。
黙って手を合わせる。
お世話になりました。
せめて、あなたの来世が幸せであることを願います。




