魔物情報
しばらくすると、ローブの男はおもいだしたように、背嚢をどさりと地面に下ろす。
「とりあえず、今のうちに、肉の補充をしとこう。アスランはこっちからこっちを見張れ。おい、鳥女、おまえはそっちから向こうだ」
『夜のとまり木』がある後方を指さしながら、地面に腰を下ろした男が命令する。
「ミハレ?」
「あー。魔物がいたら、おしえて欲しい」
「ワカッタ」
ハーピィは大剣の男に向かってうなずいた。
「あっちの木ハ、メガスズメバチの巣。百匹くらい、まわりを飛んでイル。そのまわりハ、おばけうさぎのなわばり。見えるダケで、二十匹くらいイル。西の草むらニハ、グンタイイヌが十匹くらい。街道に出てくるとシタラ、グンタイイヌと、ブラックワームと、それを食べるヤタツバメだけ。ブラックワームは、鳥がキライ。ダカラ、今は出ナイ。ヤタツバメも、ブラックワームがいないカラ飛んでこない。デモ、夜ハ、ブラックワームがイッパイ出る」
このあたりにいる魔物のことはぜんぶおしえたつもりだったが、人間からこれといって反応はない。
ことばが通じなかったのだろうかと視線を落とす。
すると、あっけにとられた顔がふたつともハーピィを見上げていた。
「ブラックナントカが出ないって、もしかして、鳥女のおまえがここにいるおかげ?」
「ハリル、ハーピィって呼べよ。……で、もしかして、この先にいる魔物のこともわかる?」
「川よりこっち側ナラ」
「川? ハリル、地図くれ」
手渡された地図をばさりと広げると、大剣の男は指で南から街道をたどっていく。
「ここが『夜のとまり木』だろ。で、ここが次の町。川は、川はと…………これか? ここから五〇キロくらい行ったところだな」
「は? マジ? 五〇キロ? 鳥すげー!」
スゲー、とはどういう意味だろう。
わからないが、ローブの男の視線には、ハーピィの胸をほっこりとさせる感情がこもっていた。
「さて、と。問題は──」
地図をたたみながらつぶやいた大剣の男が、ローブの男の肩に腕を回す。
その身長差は、二十センチほど。
いくどか、囁きに対してローブの男がうなずく。
耳打ちを受けた彼は、ハーピィを振り仰ぎ、びっし、と指をさした。
「おい、鳥女……じゃなかった、ハーピィ。おまえの要求を言え。言っとくけど、おれたちの血肉、とかはなしな。ついでに、はっきり言っておれたちは、おまえが欲しがるようなものも、全然持ってない。金も食料も、おれたちが欲しいくらいだ!」
いまいちわからないが、木の実でも取って来い、と催促されているのだろうか。
ハーピィは、首をかしげた。