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A・WA・I ──自然の歌をうたうもの 毒の歌をうたうもの──  作者: カノウラン
1:天才魔法使いの杖 『魔力の杖』編
19/19

約束の延長

「おい、ハリル……」

「ああ。火炎系と風系を合体させた準高等魔法、『業火ロズウェル』──もどきだな」

「この杖に、こんな使い道があったとは」

「安っ物の杖なのになー。まぁ、今の風自体が、中位の風魔法なみだったから、火がなくてもサボテンヤロウは吹っ飛んでたはず」


ハリルとアスランが、ほぼ同時にこちらを見上げてくる。


「吹き飛ばすのと消し飛ばすのじゃ、だいぶわけがちがう、よな?」

「パルのことまで攻撃したのは向こうだ。消し飛ばされたって文句は言えねーだろ」

「パルイーフ……その、戦いに巻き込んで悪かった」


旅サボテンが消し飛んだことにはたしかにおどろいたが、べつに胸が痛むわけではない。

それは、利害関係のない他の魔物を、仲間とおもうことはないからだ。

敵だともおもわないが、攻撃されれば反撃に容赦はしない。

それは、魔物同士であれば自明の理だった。

けれど、人間はそうではないのだろう。

そう自覚をすると、痛まない心がひどく、『魔物』と呼ばれるに相応しいものにおもえてくる。

何より、ハーピィにとっては消し飛んだ旅サボテンのことなどより、とっさに自分のことまで守ろうとしてくれたアスランの行動の方に、よほど心が動いた。

人間とは、ここまで情に厚い生きものなのかとおもう。

それとも、アスランだけに限ったことなのだろうか。


「向こうに、橋がアル……」


翼で西を指すと、アスランがほっとした顔をする。


「そうか、ありがとう」

「なあ、アスラン。この杖って、魔物でも使えるもんかな。パルが自分で火を出して風を起こしたら、いつでも『ロズウェル』が使い放題で、けっこうな戦力だとおもわないか?」

「何言ってるんだ、ハリル。ここで、案内のお礼をして別れるって約束だったろ」

「案内はともかく、見張りとしては役に立──こほん。とーにかく、試すだけ、な、な?」


あきれた顔をするアスランに食い下がったハリルが、ハーピィに向かって杖を振る。


「パル。これ持って、火を出してみてくれ」


放り投げられた杖を右足でつかむ。

が、振ってみても火など出ない。


「…………どうヤッテ?」

「……だよな? 言っとくけど、俺も出せないからな、ハリル。杖は、魔法を使えるやつだけが使いこなせるアイテムなんだよ。おまえがこの剣を振ったところで、羽虫一匹ブッた斬れないのといっしょだって」


ひと振りした大剣を、アスランは軽々と背中の鞘に納めた。

たしかになー、とハリルがつぶやく。


「まぁ、おれが火を出せばいいわけか。魔力の杖を手に入れるまで、『ロズウェル』が使えたら、いちいち逃げ回らなくて済むぞ」

「それはそうだけど……だからって、この先もいっしょに来てくれって言う気か? 今みたいに仲間を殺させることになるんだぞ」

「一匹殺すのも十匹殺すのも変わらないだろ。パルの力が必要なんだから、おまえが口説け、アスラン」

「口説けってな……」


困った顔をしたアスランと、目が合う。

地上でぼそぼそ小声で会話されると、ハーピィにはいまいち何を話しているのかわからない。


「ナニ?」

「ああ。えーっと──とりあえず、川までって約束は延長して、次の町まで、いっしょに来てくれないかな、パルイーフ」

「次の町ぃ?」


と返したのは、ハーピィではなくハリルだ。

アスランが、ハリルの肩に腕を回して、何事か耳打ちしている。

やがて、顔を上げてこちらを窺ったアスランに、すかさずハーピィはうなずいた。


「イク!」


断わる理由など、当然ない。

が、アスランはぎょっとした顔をした。


「いいのか? まだ、ここまで案内してもらったお礼だってあげてないっていうのに」

「……もうモラッタ」


首をかしげて返したハーピィのことばに、アスランとハリルがどちらからともなく顔を見合わせる。


「何かやったっけ?」

「…………あの杖かな?」

「は? いや、それはやってねーから。返してくれ」


ハーピィは右足の爪をぱっと開いた。

落下した杖が、ハリルのひたいを直撃する。


「いて! それで、代わりに何が欲しい?」

「? もうモラッタ」

「杖のことじゃないらしいな。何だろ」

「本人がもらったって言ってるんだからいいんじゃねーの。向こうに橋があるんだよな」


行こうぜ、と先に立ってハリルが歩き出す。


「じゃあ、行こうか、パルイーフ」


微笑を投げたアスランにハーピィも自然と浮かんだ笑みを降らせ、西南西の心地いい風に乗って川の上流へと向かったのだった。



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