風と炎
日が昇るまではひんやりとしていた空気が、時間が経つにつれ熱気をおびていく。
からりとしたこんな天気のいい日に、よく出没する魔物がいることを、ハーピィは知っていた。
周囲に警戒を払っているうちに、いつの間にやら、川の近くまでやってきてしまう。
昨夜に比べて足どりが軽かったせいか、予想以上に早く着いてしまった。
彼らふたりは、次の町に早く着けるに越したことはないだろうが、ハーピィは残念におもわずにはいられない。
川までとは、はたして川のこちら側までなのか、それとも川を渡ったところだろうか。
そんならちもないことまで考えてしまう。
「けっこう広い川だな。橋がないところをみると、浅そうではあるけど」
「水に住んでる魔物はやっかいだから戦いたくねー。橋を渡った方がいいって」
「そうだな。──悪いけど、パルイーフ。近くに橋がかかっていないか、探してくれないか」
「ワカッタ!」
まだ役に立てることがうれしくて、ハーピィは高く羽ばたいた。
大きく旋回すれば、西に一キロほどのところに、橋らしきものが見える。
大きくはないが、馬車で通るわけでもないので、渡れないことはないだろう。
あったことを知らせよう、と地面に人影を探せば、ふたりのそばにこつぜんと緑色の物体が出現していた。
ハーピィが警戒していた例の魔物だ。
その名も、旅サボテン──
「気をつけテ、トゲに毒がアルノ!」
急ぎ降下したハーピィの声に、アスランがすかさず大剣を抜く。
ギラッ、と陽光を反射する太い刀身に、ぞわりと鳥肌が立った。
その剣で薙ぎ払うのだろうと反射的に目を閉じたが、旅サボテンのトゲから身を守る盾にしただけで、アスランは剣を振るいはしなかった。
ハリルの方に飛んだトゲは、杖から出てきた火炎がいっしゅんで炭にしてしまう。
旅サボテンのトゲ攻撃は逃げるにはやっかいだが、トゲが尽きれば自ら退散していくので、耐えしのぐだけで済むはずだ。
と、ふたりの頭上で羽ばたくハーピィの存在に、旅サボテンが気づいた。
はた、と目が合う。
──殺気。
トゲが来る、と直感した。
魔物同士、ではなく人間の仲間だ、と認識されたようで、何だかうれしくなる。
ハーピィには、盾にする剣もなければ火が出る杖もないが──空を切る翼がある。
「危ない!」
アスランの声がしたときには、ハーピィは広げた翼をおもいきり胸の前に寄せていた。
生まれた旋風に、トゲごときが逆行できるはずもない。
ところが、アスランがハリルの腕を引っ掴んで突き出した杖から火炎が噴き出し、トゲを燃やしにかかったのも、同時のできごとだった。
ゴオオオオオ────
ハーピィの起こした風と杖の火炎がぶつかり、音を立てて渦巻く。
なにが起きたのか、とっさにハーピィにはわからなかった。
アスランとハリルもあっけにとられた顔で、地面と、上空のハーピィとを見比べている。
地面にいた旅サボテンは、ぼろぼろの炭となり、風に流れて跡形もなくなった。