翌朝
夜もいよいよ更けた真夜中の数時間だけ、アスランとハリルは見晴らしのいい木の根元で幹にもたれかかり、仮眠をとった。
一時間ずつ交代で、という取り決めだったことはハーピィも知っている。
ところが、気づけばふたりともが同時に眠り込んでいたことで、目を覚ました後、ふたりはしばらくもめていた。
しかし、その原因まではわからなかったようだ。
結局は、魔物に襲われることもなく無事だったのだから良かった、という結論に落ち着いたところが、いかにも彼ららしい。
枝の上にいたハーピィが魔物よけの役割を果たしたのかも、とも言って感謝してくれた。
もしも、原因がハーピィにあることを知ったら、彼らはどんな反応をするのだろうか。
悪いことをしたとはおもわないが、起きてあれほどもめていたのだから、いけないことだったのかもしれない。
そうおもうと一抹のうしろめたさはあったが、無事だったのだから良い、はずだ。
「あー、けど、ぐっすり寝て、元気出たな」
まだ夜明け前に、黒パンをかじりながら歩き出したハリルが、ぶんぶんと肩を回す。
「たしかに。二、三時間しか寝てないとはおもえない。というか、二、三時間もふたりして寝こけるなんて、野宿じゃとんだ命取りだよな。やっぱりおまえのおかげで無事だったのか、パルイーフ?」
「おまえも食えよ、パル。黒パンと干し肉しかねーけど」
ちぎったパンをハリルが掲げてみせる。
ハーピィは首を振った。
「人間とは食うものがちがうのかな」
「遠慮しなくていいんだぞ。おまえのおかげで、相当、干し肉が節約できたんだし」
「魔物が遠慮なんてするのか?」
さあ、とアスランが首をかしげた。
ハーピィに言わせれば、彼らがなぜ食べるのかが、よくわからないのだ。
たまに、木になっている果実が、ものすごくおいしそうにおもえることはある。
そういうときは、ハーピィだって木からもいで口に運ぶが、おいしそうとおもわないものを食べたり、わざわざ探して見つけようとまではおもわない。
ついでに言えば、人間などまったくおいしそうではないのだから、無防備に寝ていたからといって、それをあえて襲ってくる魔物がいるとは、ハーピィにはおもえなかった。
よほど臆病で、人間の外見そのものに恐怖を抱くよう進化を遂げた魔物であれば、そういうこともあるのかもしれないが。
自分に向かってくれば危険な岩も、そこにあるだけならば何の危険もないのだから、人間だって構わないだろう。
魔物にとっての人間も、言わばそれとおなじだ。
眠っている人間は、動かない岩のように、魔物の関心を引くこともない。
岩などおいしくもないし、わざわざ襲ってみても、自分が痛いおもいをするだけだとわかっている。
でも、人間たちは、魔物を、『人間を襲う生きもの』だと信じていた。
ただし、同時に、鋭い爪を持つハーピィのことを、自分たちを襲うことはないと、信じてくれてもいるようだ。
そのちがいが何なのか、人間のどこでどんなふうに区別されているのか、ハーピィにはまるでわからない。
ハーピィ自身、もうすぐ別れ、また二人で旅をする彼らに、すべての魔物を信じていいとまでは言えなかった。