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A・WA・I ──自然の歌をうたうもの 毒の歌をうたうもの──  作者: カノウラン
1:天才魔法使いの杖 『魔力の杖』編
16/19

突風(パルイーフ)

「ふうん、じゃあ言うけど。ぶっちゃけ、おれたちは魔王を殺しに行くんだ。そして、勇者アスランによって、囚われのお姫様は無事救出されるってすんぽーよ」

「まあ、そのつもりなんだけど……とりあえず、僧侶を仲間にしないことには、おちおち北にも行けないよな」

「ソウリョ?」

「おれ様みたいな攻撃魔法の使い手が魔法使い。で、ケガを癒したり身を守ったりする魔法の使い手を、僧侶っていうんだ。攻撃魔法は魔物由来だけど、守護魔法は聖職者によって編み出された精霊の業──なんで、基本的に魔法を学ぶ機関も別なわけ」

「困ったことに、ここまで、三つの大きな街と七つの町で仲間になってくれる僧侶をさがしたんだけど、だれひとり居ないんだよ」


アスランのことばに、ハーピィはおもわず納得した。

こんな危なっかしい二人組とともに旅をしようという人間はそうそう居ないにちがいない。

と、ハリルが杖をぶんぶんと振る。


「おい鳥、誤解するなよ! おれたちの仲間になるやつが居ないんじゃなくて、僧侶そのものが、どの街にもいねーの! それっぽい格好をしてるやつもたまに居るけど、下位の回復魔法を数回唱えただけで魔力が底をつくようなへっぽこじゃ、近くの村に行くくらいでないと使えない。まだ、素人に癒しの杖を持たせてる方が使い物になるよ。あれ、高ぇーから買えないけどな」

「僧侶狩りでもあってるんじゃないか、とか言われてたけど、まさかな?」


このところ、めっきり旅人のすがたを見なくなったのは、その僧侶不足が関係しているのかもしれない、とハーピィはおもった。

すこし前なら、数人の護衛をつけた荷馬車なども見られたが、今ではまったくお目にかかれないのもそのせいなのだろう。


「ところでハリル。さっきから、ハーピィのこと、鳥、鳥って呼ぶのはよせよ」

「ハーピィって、呼びにくいんだよ。それに、こいつの名前ってわけじゃないんだから、鳥って呼ぶのと大して変わらないだろ」

「それはそうだな。じゃあ、何かあだ名をつけるとか? たとえば…………『突風パルイーフ』とか、どうだ?」


闇が迫る空にあっても、アスランと目が合ったことがはっきりとわかった。


「いいじゃねーか、パルイーフ! よし、おれはパルって呼ぶことにする」

「おまえじゃなく、ハーピィに訊いてるんだけどな」


ハーピィはおもわずまたたいた。


「パルイーフ?」

「そう。おまえの呼び名だ。これから、俺たちはおまえをそう呼ぶことにする。いいか?」


いいも悪いも、あと半日も歩けば約束の川には着いてしまう。

あと、たった半日しか呼ばれることのない呼び名に、どんな意味があるというのだろうか──

そうおもう反面、雲の上まで舞い上がりたいほどに心が踊る。

自分を呼ぶ、自分のための名前……!

欲しいものを問われたときには何ひとつ浮かばなかったが、もらってこれほどうれしくなるものがあるなど、ハーピィ自身、今の今までまったくおもいも寄らなかった。


うれしい。

うれしいっ。

しばらくそのきもちで胸がいっぱいだったハーピィは、かなり経ってから、そういうとき口にすることばこそが、『ありがとう』なのではないだろうかとおもい至った。

アリガトウ────

言いそびれてしまったそのことばが、胸にひっかかる。

今言おうか、と幾度もおもうが、アスランとハリルの会話は、とっくにべつの話題に移ってしまっていた。

そうこうしているうちに、街道の行く手に這い出てきたブラックワームを見つけて、追い払いに行く。


「ありがとう、パルイーフ!」


すごすごと草原に戻って行ったブラックワームに気づいたらしく、アスランが手を振りながら笑顔を投げた。

とたんに、また、くるくると踊り出したいほど、うれしくなる。

ありがとう、がうれしいのか、パルイーフと呼ばれたことがうれしいのか、自分でもよくわからない。

わかることは、そのどちらにも、ほっこりと胸があたたかくなる感情がこもっているということだけ。

『魔物』の自分が、相手なのに──


ハーピィはふと、彼の目に自分がどんなふうに見えているのか、知りたいような、知りたくないような、複雑なきもちになった。

もしも、空を飛ぶ翼の代わりに、大地を踏みしめる二本の足があったなら、どこまでも彼らとともに行くことができるのだろうか、とおもう。

ずっと、彼らとともに行けたらいいのに。

仲間に、なれたらいいのに──そうおもわずにはいられない。

大地の先に泰然と横たわっていた川のすがたをいつしか闇が隠してくれていたことに気づいて、ハーピィは夜のおとずれに感謝せずにはいられなかった。



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