『マックスレア』
「そうそう。それで、その五匹がそれぞれ、火炎系、風系、氷系、雷撃系、爆発系、っていう五種類の攻撃魔法を人間におしえたんだって。ただ、爆発系を使う魔物の必殺技だった『マックスレア』は、解放系っていう下位魔法の存在しない特殊な魔法だったから、直接おそわった人間が数人体得しただけで、のちの世には伝道されてこなかった幻の魔法なんだ」
「ハリルは、その幻の魔法をそれこそ三〇〇年以上前の文献から見つけ出して、自力で体得したという、変わった魔法使いなんだよ」
「変わった、じゃなく、天才と呼べ!」
「ハリルは、テンサイ……」
ハーピィが口にすると、ハリルは小柄な体をこれでもかと反らして胸を張る。
「はっはっは、気分いいな」
「……まあ、天才にはちがいないけど。おまえ、『マックスレア』に出会ったからいいようなものの、そうじゃなきゃ、魔法学校初等クラスの留年記録を更新しつづけてた、世界一あきらめの悪い無能な魔法使いってだけだったろ」
とたん、ガツ、と杖の先が地面を打った。
「なに言ってんだよ、アスラン。だれに言われたわけでもなく、おれ自身が、魔法使いになろう、とおもったんだぞ。なのに、使える魔法がひとつもないだなんて、ありえない! 最初っから、おれが使うべき魔法がどこかにあるのは、わかってたんだ」
足を止めて振り返ったアスランに向かって、ハリルは杖の頭を突きつける。
「学校は、多くの人間にとっていちばん通りやすい道を選んでおしえてるにすぎない。その枠にはまらない程度であきらめる必要がどこにある? 天才とは、だれもが行く道を行けない人間なんだ。──行かないんじゃなくて、行けない…………だから、だれも気づかなかった道を見つける宿命を負ってんの。もし、『マックスレア』もだめだったら、あとは自分で魔法を作るしか道はなかったな。まぁ、それでも、魔法使いにはなってたけどな!」
くるりと両腕の間をかっこよく回してから放り上げた杖が、ハーピィの足元で止まり、くるくると落下していく。
が、うまく取り損なって、杖の頭がゴツ、とハリルのあごを直撃した。
直後に、おまえらしい、とアスランが笑ったのでハリルはぷんぷん怒ってしまう。
「その魔法デ、マオウを倒ス?」
問いに、アスランとハリルは即座に顔を見合わせた。
「鳥。おまえ、魔王の手下なのか?」
「テシタ?」
「魔王の命令で人間を襲っているのかってこと、だけど──襲ってないな、どう見ても」
アスランが肩をすくめて笑う。