勇者のつくった王国
「ドウシテ…………」
姫を助けたいのか。
アスランまでもが旅に出たのか。
おなじ魔物である自分を恐れないのか。
ハーピィには、わからないことだらけだ。
わからなすぎて、問うべきことが何かも、よくわからない。
それでも口をついて出たことばは、ハーピィの心に湧き出す、彼を知りたいというきもちの現われ。
問えば答えてもらえることも、もちろんうれしかった。
でも、答えてもらえることよりも、おしえてもらえることの方が、ずっとうれしい。
知りたい心に、明確で、嘘のない、彼の真実が返ってくる。
分けてくれているものが何なのか、ハーピィにはうまく言い表せないけれど。
それはきっと、魔物が人間から得られるようなものではないはず。
あるはずの種の壁を、なぜか素通りして行き交う、とてもあたたかなもの。
人間同士ならば当然のやりとりなのかもしれないが、ハーピィには、彼らも、彼らのことばも、返る心も、みな奇跡に他ならなかった。
「それは、もちろん──ステラ姫を、お助けしないと」
アスランが真っ先に語ったのは、どうやら、死にかけた兄を見てなお、自分も旅に出た理由のようだ。
「世界一美しいお姫様だっていうしな?」
ハリルのことばに、アスランはわたわたと両手を上下させる。
「そっ、そうらしいけど、そうじゃなくて。父上のひいおばあさんがリオレラ王家の出身で、俺と姫とは、多少なりとも血縁があるというか」
なぜか、アスランの視線がハーピィをまっすぐに見据えた。
間もなく地平に沈みきる太陽に、その横顔は赤く照らされている。
「──魔物を恐れるべからず、っていうのがリオレラ王家の、古くからの家訓らしい。俺たち兄弟もそう言われて育ったし、ステラ姫もきっとそうだったんだとおもう」
どうして姫をたすけたいのか、どうして魔物の自分を恐れないのか──その答えまでも、ハーピィは期せずして知ることができた。
「ソルパーニャ島は、魔王の復活までは人間と魔物が比較的平和に共存している、めずらしい土地だった。というのも、四〇〇年ほど前にリオレラ王国を興した初代国王が、時の魔王を倒した勇者で──彼は五人の……いや五匹の魔物を従えていたといわれているんだ」
「マモノを、シタガエ……?」
従えていた、という関係性がハーピィには理解できなかった。
ただ、勇者の仲間だった、とは言わなかった。
だから、仲間とはべつの何かだったのだ、ということだけはわかる。