魔王とお姫様
「ハリルの使う『マックスレア』っていう魔法は、ありったけの魔力を解放して大爆発を起こすんだ。一撃で魔力は空っぽになるから、魔力を回復させるアイテムがないとおちおち使えないという、困った大技なんだけど……」
魔力を吸う杖があれば、魔物から奪った魔力で、またその魔法を使えるのだろう。
「困ったって何だ。解放する魔力の量に魔法の威力も比例するという、唯一、効果に上限のない究極の大技だぞ!」
「スゴイ魔法?」
「最強の攻撃魔法だ。そして、その魔法が使えるおれ様も、最強の魔法使いってわけ!」
「まあ、そうだな。ただし、魔力の杖がないと、旅路のおまえは経験値ゼロの魔法使いよりも役に立たないけど……」
「うるさーい! この杖があれば火は出せるから、経験値ゼロの魔法使いくらいなら負けてない。負けてないったら、負けてない!」
「言っとくけど、その杖の火で倒せたのって、剣士の俺が素手で倒せるような弱い魔物だけだったぞ。さっきの、ブラックワームとかって魔物にも大して効いてなかったし」
「だから、一刻も早く魔力の杖を手に入れるべく、金を貯めんの! 文句あるかー!」
ありません、とアスランが小声で返した。
日暮れ前に戻ることを優先せずに、一帯のヒカリソウを根こそぎ採ってくるべきだったかもしれない、とハーピィは何だか気の毒におもう。
「まぁ、おれは干し肉と黒パンだって食えりゃいいけど。領主様の家に育った御曹司に、それで満足しろって言っても無理なはなしか」
とたん、アスランの顔つきが強張った。
「ハリル、無くなった家のはなしはしないでくれ。──それに、魔王にさらわれた姫をおもえば、こうして外の空気を自由に吸えるだけで、満足しなければとおもう」
歩きだしたアスランを見て、ハリルが肩をすくめる。
ハーピィは首をかしげた。
「ヒメ?」
「ソルパーニャ島を治める、リオレラ王国のお姫様だよ。な?」
背中で、アスランがうなずく。
「三年前、復活したばかりの魔王によって王宮からさらわれたんだそうだ。以来、多くの勇者が、魔王を倒してステラ姫を奪還すべく北へ向かったが、未だにお救いできてはいないらしい」
魔王、というのがどういうものか、ハーピィにはよくわからない。
が、三年前といえば、街道から人間のすがたが消えたころと重なる。
一方、代わって増えた魔物たちが活発に活動するようになったのも、そのころからだ。
「この剣を持って姫の救出に向かったジェミル兄上は、北の──レオングラーゾという街の手前で、魔物に襲われて左腕と右足を失った。父上が、かならず生きて戻れと家宝の壺を売って持たせた緊急避難アイテム、片道の羽衣がなければ、そこで命を落としていたそうだ」
しらない単語ばかりで、ハーピィにはほとんど理解できなかった。
ただ、アスランの心に、ふくざつな感情があることは、なんとなくわかる。
兄を慕うきもちも伝わってきたが、兄の復讐のため旅に出たわけではないらしい。
その心にあるのは──かなしみ、だろうか。