ヒカリソウ
山の岩場に着くのはあっという間だったが、草の採取には少々手間取ってしまった。
文字どおり、飛んで戻ったハーピィは、大岩からおよそ一キロ先に立ち往生している人間のすがたを発見する。
彼らは、体長二メートルほどもあるブラックワームに行く手を塞がれていた。
あれでは、逃げるとしたら、来た道を戻らなければならない。
そのとき、ハリルの掲げた杖から火炎が噴き出した。
体表の一部をこがされたブラックワームが、殺気立って暴れだす。
アスランが、剣の柄に手をかけるのが見えた。
『土に帰りなさい、食われたいの!?』
急降下するハーピィが発した声に、打たれたように長い体を硬直させたブラックワームは、次の瞬間、すごすごと街道の外へと退散していった。
と、風を切る翼の音に気づいたらしく、人間たちの殺気がこちらに向く。
ハーピィは止まらず、足に持っていた草の束を道に落とすと、とっさに上昇に転じた。
柄から手を離したアスランが、ぽかんと大口を開けて空を仰ぎ見る。
「ハーピィ? おまえか──」
「うおおおお! ヒカリソウだ、ヒカリソウ! どこでこんなに! すげーぞ、鳥!」
「もしかして、採ってきてくれたのか? 俺たちのために?」
蔓でしばった草の束が、六つ。
道に屈んで拾い集めるハリルのすがたとハーピィとを見比べて、アスランが意外そうな声で問う。
「採ってクレタのハ、ロックハンド。このツメで引っ張ルと、ちぎれたカラ」
根っこからひょいひょいと引き抜いて、蔓でしばってハーピィが持てるようにしてくれた上、またおいで、と手を振って見送ってくれた。
あの岩場にあんなに親切な魔物がいると知っていたら、もっと早く友だちになったのに、とおもう。
あそこ、と山を振り返って翼で指すと、ハリルがふるふると首を振った。
「草摘むためだけに、あんな山、登れるわけねー」
「ありがとう、ハーピィ。これだけあれば、かなりの金になる。おいしいものも食えるな」
「いーや、食えない! 杖を買う金にまわすに決まってるだろ、アスラン」
アスランが、とたんに暗い顔で黙り込む。
「ツエ?」
「そ。杖を買うために、金は貯めてんの」
ヒカリソウを背嚢の中に仕舞いながら、ハリルが応える。
「ナニガ出る、ツエ?」
火が出る杖はもうあるから要らないはずだ。
と、ハリルが得意顔で胸を張る。
「何も出ない。代わりに吸うんだ。魔法使いにとって、垂涎のアイテム──その名も、魔力の杖!」
何でも、魔道樹という魔力を吸う木の魔物から作られる稀少な杖、だそうだ。
その中でも、黒魔道樹から作られた魔力の杖なら、いちどに吸い取れる魔力が三倍なのだという。
ただし、値段は五倍もするらしいが。
魔道樹なら、薄羽ドラゴンが住む山のふもとにもいるので、ハーピィも見たことがある。
ただ、黒魔道樹というのは聞いたことがないので、このあたりではなく、はるか北にあるという暗黒の森にでも住んでいるのだろう。