プロローグ
はじめまして。
過去作は現代超現実モノばかりなのに、なぜか勇者モノを魔物を主人公にして書く気になりました。
途中でテーマを変えたので、結末は……神のみぞ知る。
少女の華奢な指が、古ぼけた羊皮紙をめくった。
それは、王宮の書庫で見つけた、題のない奇妙な本だった。
『魔物とは、自然界の──である』
冒頭の一文で、どうやら魔物について書かれた書物らしいことが、少女にも伝わる。
ただし、古語は読めたが、『──』の部分は少女の知らない単語だった。
その一語の意味を王宮のあらゆる大人たちに聞いてまわったものの、知るものはだれひとりとしていなかった。
学者も、将軍も、神官も、宰相すらも。
『悪』、『塵』、『恐怖』────
当てはまりそうな語句のいずれでもないことが、わかっただけだった。
魔物は、悪ではない。
魔物は、塵でもない。
魔物は、恐怖でもない。
ならば、魔物とは何なのだろう?
少女は、その奇妙な本を、一年ほどかけて読んでいった。
すべての単語はわからず、意味のつかめない部分も多々あった。
けれど、魔物とはどんな生きものなのか──
それだけは、はっきりとわかった気がした。
その本を記した人物が、少女の遠き祖先──いにしえの魔王を倒した勇者と言われる、初代国王であったことも。
彼は、本をこう締めくくっていた。
『魔物は鏡に過ぎない。何が映ろうとも破壊するな。その像が増すだけなのだから』────と。