異世界邂逅編1
「さあ、町に着いたよ」
森を抜けるとそこは。
まるで歴史の教科書のような光景に
「なんじゃこりゃ…おかしい...」
と声をもらした義一だった。
「な、何がおかしいんだい?」
不思議に思う字。
「いや、俺の知ってる町じゃない」
目の前に現れたのはありふれた町ではなく、時代劇のセットのような街並みだった。道行く人々も着物を着ていて時代劇らしさを掻き立てている。
「で、でもこの近くには他に町はないよ」
嘘には聞こえない。しかしこんな場所は俺も知らない。まさか…いやそんな馬鹿なことあるわけない!義一は自身の考えを頭を振って否定する。
「さあ行こう」
先に進む字。遠ざかる背中に不安を覚えつつも義一は追随するしかなかった。
門前には櫓があり、見張りが義一を睨むが無視して字についていく。
人の従来は多く、露天が多い。美味しそうな食べ物、野菜、果物、魚が陳列している。周りを見ていると字はすでに遠ざかって人々の波にかろうじて見える。
「おーい、字!」
字は義一に気づかずにどんどん進む。
おいおい!ここで字から離れたら俺終わりだぞ!義一は人々をかき分けて進むが、時すでに遅し。彼の姿はすでになかった。
「やべー!やべーよ!」
知らない場所に一人。現代日本人の中ではかなり恐ろしい事態である。義一はとにかく字を探さねば、と人ごみの中を行く。
人々の服装は着物なのに対し、義一は洋服なのでひどく浮いた格好である。
「なんだ?旅芸人か?」
「いや、エルフ族の方では?」
すれ違う義一に人々は囁く。そして人ごみを越えた先、路地裏のようだ、には獣の耳を持った汚い少女がいた。
「え…?こ、コスプレだよな…?」
「?!い、嫌…!来ないで!」
少女はそう言いながら後ずさりをする。怪我をしているようで足からは血が出ている。その足も人のものではなく獣である。狐に酷似していた。
「い、いやあ。別に危害を加えようとかそういうことはないよ」
少女はジロジロと見た後、
「嘘」
と言った。しかしそう言いながらため息を吐いた。安堵のようにとれるため息を。
「嘘じゃないんだけどなあ…」
「嘘よ…あなたの目には怯えが見えるもの。町の人は獣人なんて見たことないんでしょうね」
少女は警戒を緩めない。義一は警戒を解こうとするが焼け石に水だろう。
「いや俺はここの人間じゃないし…」
「そうとう身分が高い家柄なんでしょうね。服がきれいで芳香も漂ってくるもの。この戦乱の世の中でそんな人間はそうそういないわ。貴族、武将以外はね」
少女はまくし立てるように言った。反吐が出る、とでも言いたげな目線を義一に向けて。
「あーはいはい。話しかけた俺が悪かったよ。つまり君は放っておいてほしいんだな」
「そのとおりよ。この糞野郎」
と言う少女の声は先程の勢いが無い。やはり足が痛むのだろうか。義一はそんなこと関係ないと去っていく。
「やっぱり。心の底まで腐ってるわ」
「『狐』狩りは楽しいなァ、楽しいなァ」
少女がつぶやき、義一が路地裏を離れた時、『狐』狩りが歌い始めた。