入門編
昔から未知との遭遇というのは常に唐突に起こる。それは宇宙人だったり、あるいは幽霊だったりする。最近では『ごく普通』の少年が異世界に行くというのがはやりらしい。
彼らは『特殊能力』を使い、異世界を冒険する。
では彼、御薬袋義一はなぜ異世界に呼ばれたのだろうか。義一はただの大学生である。成績は良くはないが悪くもない。彼には分からなかった。なぜ自分が異世界に運ばれたのか。彼は道を通っている最中であった。その先には見慣れた自宅が見えるはず。しかしスマホを見ながら進んでいたらそこは森だった。
「は?」
彼の異世界での第一声はそれだった。
彼は考えた。そうだ、道を間違えたんだ。きっとそうだ。いやそうに違いない!常人の発想である。
「うあああああああああああ!」
そこにいたのは変な白い服を着た男だった。
「ど、どーも」
義一は男と接触を図ろうとする。男は義一からこけながら離れた。怯えが見える。
「き、君がこの森に棲む鬼か!」
「はあ?何言ってんだ?どっからどーみても人間だ!失礼な!」
男はよろけながら立ち上がり、指を二本立てる。
「ば、万物に宿る精霊たちよ、か、畏み、畏み申す」
「無視ですか…」
「木々に宿る精霊よ!木竜!」
周りの木々が竜の姿に変化する。
「え?」
「くらえ!あやかし!」
竜が義一に向かって襲いかかる。
「うええええええええ?!」
竜は義一を喰ら…わずに通り抜けた。義一は驚いて転んでしまったが。
「ぐあああああああああ!あ?」
「滅せよあやかし!」
男は通り抜けたことを別に何とも思っていないらしい。そのまま竜を手で操る。竜はそのまま空気を噛み砕いてスッと消えた。
「だ、大丈夫かい?」
男は義一に向かって駆け寄った。
「あ、はい…」
「ご、ごめんね。き、君についているあやかしを払うにはあれしかなかったんだ」
男は怯えながらで義一に言う。義一は戸惑いつつも笑い返した。
「君は…妖怪に操られてここまで来たのか?どこの生まれだい?」
なんだこの人は…?今のは…ヴァーチャルだよな…?でも機械はどこに?と義一は考えつつ、男に手を引かれて起き上がる。
「だ、大丈夫かい?」
「あ、いや大丈夫…です」
「そうか、よかった」
男は笑顔を浮かべた。身長は義一と同じぐらいだろうか。見た目は日本人のようだ。身に着けているのは日本で狩衣と呼ばれる衣服のようである。
「あ、自己紹介が遅れていた。ぼ、僕はおんたえあざな。恩義の恩に奇妙の妙、最後に文字の字をあざなと読む。名字で恩妙。名前が字だ」
字と名乗ったその男は気さくな笑顔を浮かべた。
「俺はみない、御薬袋義一です。御薬袋が名字で名前が義一」
字はよろしくと言わんばかりに握手を義一に求めた。義一はそれに応じた。
「さ、さて、みない君。とりあえずここを抜けようか。このままいるとまたあやかしに憑りつかれるかもしれないからね。『鬼』は『鬼』を呼ぶ。とりあえず君を町まで送るよ」
字はそんなことを言った。
「は、はあ」
ここは…もしかして…。と森を抜けつつ義一は考える。
「さ、さあ。町に着いたよ」
森を抜けるとそこは。