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また、私しかいない世界で  作者: 井土側安藤/果実夢想
第七章――I forever with you.
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69――危険な我儘、その名はファーメリ

「ここがサーヴァリアか……」


 サーヴァリアの北端にあるちょっと尖った半島、その港に到着した。

 俺がいた世界にもありそうな至って普通の湾港だ。

 俺達が客船から降りると、早速船の前にはお堅い服装のSSみたいな人達が出迎えてくれた。事務口調で必要最低限の言葉で国際会議場まで案内する旨を俺達に伝えスタスタと歩き出した。

 そもそも客船には俺達を含めたギルドに所属するパーティしか乗っていなかった。なので周囲には強面の怖い人が沢山いる。流石に委縮していた俺の背中をバルサミナが軽く叩いた。


「……気にするな。お前は強い」

「――ああ」


 それで十分。

 今の俺にとって、それだけで自分に自信を持つには十分すぎた。


「山茶花も、大丈夫か」

「は、はい! 問題ありません!」


 流石に緊張していたのか体が強張っていた。しかしその眼に宿る意思は堅い。俺が野暮にかける言葉はなさそうだ。

 徒歩で数分歩けばすぐそこにはデカいドーム状の建物があった。

 これが彼らの言う『国際会議場』か。元の世界でも同じ言葉を聞いたことがある。この中には、各国の首脳がいるとかいないとか。アザミさんやルドベキアさん、そしてリコリスとは顔見知りなのでともかく、他はまだ未知だ。その中でも特に恐ろしいのがこのサーヴァリアの首相。

 ルピナスは見れば分かる、の一点張りで詳細を教えてくれなかった。

 いったいどんな奴なんだ……?


 ――ふと、突然肩を後ろから掴まれた。


「オイ、お前らが最近調子乗ってるっつーアレか?」

「なんすか。これから難しい話しようって時に、頭悪くなるような事やめてくださいよ」


 ふっと思わず口がすべる。

 これもまたバルサミナ直伝の煽りだが、つい口に出してしまった。どう見てもヤベェごっついパンクな装飾でクソデカい剣背負った強そうで怖い兄ちゃんなのに思いきりお会ってしまった。


「テメェ……一回や二回英雄になったからって図に乗んじゃねぇぞ。女侍らせてへらへらしてるだけで生きてけると思――」


 乾いた銃声と同時に今度はなんだと振り返る。

 するとそこには既に発砲したレディースの拳銃を持ったロリがいた。

 怖い兄ちゃんの方に振り返ると、肩から血を流して、信じられないものを見る目でロリを見ていた。


 このロリが撃ったのか。


「お、お前……何やったか分かってんのか!?」

「アンタこそ、自分が何やってるか理解してないの? これだから脳みそ詰まってないクズは困るのよねぇ~。ここは私の国よ。私の国で汚い口から汚いゴミ垂れ流すってのがどれほどの重罪か分かってる? 分かってないからやってるのよねはぁ……」


 私の国って、まさか――


「首相だからってやっていい事と――ガ、ァ……?」

「貴重な肉壁を私に殺させないで。ギルドは万年人手不足なの。アンタみたいな虫ですら壁として扱ってあげてるんだから感謝してよね? それと、喋るなって言ったのが分からなかったの? 人の言葉理解できないとかやっぱり虫? 今日のディナーは特別にゼリーでも食べさせてあげようかしら? 勿論、虫用のね」


 そう言いながらまた2、3発腹と足に打ち込んでからやってしまった、みたいな顔をしたと思えば手を二回ほど叩く。するとさっきのSSっぽい人達が血を流す男を担架に乗せて運んで行った。


「ち、治療しないと……!」


 追いかけようとする山茶花を、ロリが遮った。

 その表情にさっきの行動を悪びれるような色はない。むしろ、五月蠅い羽虫をはらっただけのように、何事もなかったかのように俺達に向き直った。


「さ、ゴミはゴミ箱に。これでまたこの国が綺麗になったわね」


 あまりの出来事に声は出ない。

 大体の事に慣れたと思ったが、今までのとは別のベクトルのヤバさを感じている。ただのサイコパスならいざ知らず、このロリは恐らく――


「……サーヴァリア首相、ファーメリか。噂には聞いていたが、まさか本当に年端も行かぬ少女とはな」

「あら? そんなに驚く事かしら? どっかの国には小っちゃい女王様がいるじゃない。ま、そんな事はどうでもいいの。アナタがホーズキでしょ?」

「あ、は、はい!」

「感謝してるのよ。エリーマイルを救い、ヴァイタルを命がけで調査し有益な情報も持ち帰り、死神姫を処理した上で未知のゼレーネさえ倒してみせたのでしょう? アザミから聴いたわ」

「お、お褒めの言葉――

「そういうのいいの。とにかくこれからも精々死なないように働いてね。あ、会議に遅れたら死刑だから」


 後ろ手を振りながら建物に入っていくファーメリ。

 よくよく見ると護衛の一人も見当たらない。それなのにあの常軌を逸した傍若無人さと自信に満ちた態度。その底知れぬ何かに、心の底で恐れているような気がした。


「な、なんなんですかあの人。おにーちゃんが頑張って喋ろうとしてるのに遮って。自分の事しか考えてなさそうです」

「ま、実際そうなんじゃねぇの。なんか、サーヴァリアの首相って言われると納得するよ」

「……腕はいいが口と手が悪い、か。一番面倒なタイプだな」


 アイツがいるせいで、ゼレノイドが不当な扱いを受けている。

 アレをなんとかしない限りどうにもならなさそうだ。

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