64――姦しさMAX
「あれ!? マスク取っちゃったの!?」
「ゼレーネに襲われましてね……マルメロの魔術で無事でした。ゼレーネはなんとか倒しましたが、仲間が来るかもしれません。とりあえず街に戻りましょう」
「あ、ああ。それはいいけど……」
適当な嘘を吐きながらいそいそと装甲車に乗り込む。
バルサミナが足で運転席をげしげし蹴りながら早く発車しろとけしかけていた。段々と扱いが適当になってきているな。マジでパシリじゃないか。
「はいはい分かったよ。行けばいいんでしょ行けば」
車は再び動き出す。
低く唸るようなエンジン音と共に巨体が動き出した。舗装されていない獣道に車体が揺れる。
森に入り、極彩色に染まる視界に気を付けながら運転するルドベキアさんが後部座席に声をかけた。
「で、探し物とやらは見つかったのかい? どこか嬉しそうな顔してたけど、ホーズキ君」
「ゲッ、気持ち悪いですよ普通に」
「気持ち悪いってなんだよ! 人の表情くらい読めなくて女が誑かせますか……いやいや口が滑った、アレアレ、やっぱり首相だしそれくらいはできないとね。ね」
やっぱりサイテーです(山茶花)とか、死ね(バルサミナ)とか、サマギに放り込もう(マルメロ)とか色々言われていたが慣れてきたらしく華麗にスルー。
ここまで来ると俺達を和ませる為にわざとやっていると思っても過言ではないだろう。
ま、探し物は見つかった。これが元の世界に戻る手掛かりになるかまではともかく、こんな代物、放っておくわけにはいかない。
「秘密ですよ。そこまで言う義理はありません」
「だよねー」
隣に座る山茶花の肩をちょんちょん叩く。
眠りかけていたところを起こすのは気が引けたが、さっきのノートの中身をもう一度確認したい。見つけた時は軽いパニックで訳が分からなくなっていたのでよく覚えていなかった。
山茶花はカバンから件のノートを取り出した。
――何故、俺達の世界にあって、この世界にないはずの”ノート”があるのか。
世界中の人が集まる『ネルセット』。その本屋にはこのノートは売っていなかった。バルサミナ達に訊いても見たことはないと言う。
つまりこれは……
「やっぱり、俺達の前にこの世界に来た誰かのもの……」
「中、見ますか?」
「ああ。開けてくれ」
反対側の隣に座るマルメロが覗き込んでくる。
ノートを開いた。
あんな場所に落ちていたせいか外側は土で汚れていたが、中は案外綺麗だった。落とされてから一度も開かれていないのだろう。
「なんだこれ……」
「文字、ですかねこれは。何かの象形文字のようにも見えますけど、それにしては一切意味を読み取れません」
「どれ、我にも見せてみろ」
ルピナスに手渡す。ふむ……と唸りながらぺらぺらと捲るその表情はいつになく真面目だった。
「なんじゃこれは、ただの落書きにしか見えんぞ。暗号の類かのう」
「やっぱそうなるよな。誰か暗号解読できたりするか?」
しーん、と車内。
流石にこの面子にはいないか。かく言う俺も分かるはずもなく、ナーシセスさん達の中にも……パッと見いなさそうだな。見た目で判断するのはあれだが。
と、ルピナスが何かを思い出したように手を叩いた。
「お、そうじゃ。この前エリシオニアに行った時あったじゃろ」
「……お前は密航だろ」
「それはもういいのじゃ。とにかく、あの国にはな、国立博物館みたいなのがあってじゃな、一般人が持ち込んだ出土品とかを調べてもらえるんじゃよ」
「ああ、そこで見て貰えば何か分かるかもな。暗号解読なんてお手の物だろうし」
となると次の行き先は再びエリシオニアか。
リコリス女王もいるし、次行く時は安心だな。
「ノートもいいけど疲れたよ~」
「おいコラマルメロ。勝手に膝枕すんじゃねーよ」
「えっへへ~ホーズキくんの膝あったかーい」
山茶花の目が怖い。
もう一度言おう、山茶花の目が怖い。
「山茶花も、するか?」
「します……からどいて、くださいっ! マルメロさん重っ……!」
「太腿一つずつ分ければいいじゃろ」
言い方ちょっと怖えな!
それを聞いた山茶花はマルメロをちょっと押しのけて俺の太腿に頭を置いた。年端も行かない小さい少女とは言え、両脚に頭を置かれると正直重たい。だがやはり、悪い気はしないな!
ぽんぽんと頭を叩いているとバルサミナからの視線が痛いが仕方がない。そう、こんな状況を前にして手を動かさんなどと腑抜けたことができようはずもない。
「……ただでさえ狭いのに、二人も寝転んだら余計狭くなるんだけど。ホーズキ」
「なんで俺なんだよ!」
「……二人の保護者だろ」
なんて理不尽だ!
それにしてもバルサミナは妙に不機嫌だな。さっきのアレか……? いや、俺に膝枕してもら――
不意に飛来した脳天を狙うクナイを剣の柄で弾き飛ばした。
「サイコメトリーに磨きがかってきたんじゃねぇか……?」
「……やっぱり変なこと考えてたな殺す!」
「うぉぉぉぉぉ狭いのになんか尖ったやつ投げんなよ! しかも俺の顔にのみ的確に!?」
「もう……うるさいの二人とも……眠れないの……むにゃむにゃ」
そう言いながらダウニーがおもむろに俺に近付いては開かれた足の間、ひいてはそのちょっと上の下腹部を枕にしてご就寝。
まて それはまずいぞ!
「うわ、ホーズキ……それは引くのじゃ」
「待て! それはおかしい! どう考えても俺が責められる謂れがない!」
「むにゃむにゃ……ソーセージもう食べられないの……」
「ちょっと待って下ネタはあたしの専売特許なんだけど!?」
「おにーちゃんサイテーです!」
「今おじさん頑張って運転してるんだけど黙っててくれるかなキミ達!?」
@
色々あったがなんとかエスティパに戻れた!
町はすっかり夕焼け色に染まっており、人の通りも多くなってきていた。
「はぁ……はぁ……マジ疲れた……」
「いやぁホーズキくん。一応同じ男として同情しておくよ。おじさんもアレはちょっとキツイかな」
こいつ他人事だと思って……しかもあの後山茶花マルメロダウニーはすやすや寝やがって俺はバルサミナとルピナスからのなんとも言えない視線に苦しまされながら微妙にしんどい体勢で身動き一つとれない地獄を味わったとと言うのに。
「あぁ~よく寝たー」
「車の中ってすぐに寝ちゃいますよねー」
「お前ら……バルサミナがいなかったらどうしてやったことか……!」
ナニ!? ナニするの!? キャー! ホーズキくんにおーかさーれるー! サザンカちゃんどうする!? 体洗っとかないと!
とか大声で言っている変態は放っておいて、まずはアザミさんに挨拶でもしてホテルに戻ろう。
わざわざ足を用意してくれたのだから、成果があったことくらいは伝えておきたい。
と、思ったのだが、
「あー、アザミは今ちょっと手が離せなくてね、おじさんとは違って首相様は忙しいから……っておじさんも同じなんだけど!?」
「あ、そうですか」
「相手にされないノリツッコみほど寒いものはないのじゃ」
何はともあれ、これと言った大事件はなかったのだから良しとしよう。
今日はさっさと部屋に戻って寝たい気分だが、そう言えばと思い出す。
そう、今朝会った自称酒場の看板娘のいる店に行かねばな。
「なあ、ちょっと行きたい所があるんだけど」




