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また、私しかいない世界で  作者: 井土側安藤/果実夢想
第二章――I need you.
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16――根も葉も居場所もない

 ――滞在三日目。

 俺たちは、マルメロの部屋でのんびり寛いでいた。

 どうやら今晩辺りでようやく船が来るらしく、俺たちが〈サマギ〉にいる時間は今日が最後となる。

 とはいえ、特にやることもないので適当に駄弁ったりしているだけなのだが。


「よかったね、ホーズキくん。〈サマギ〉に来ても、まだ童貞を守り抜くことができるなんて凄いよー」

「……うるせえ」


 何やらマルメロが感心したように言ってくるが、全く褒められている気がしない。

 ちくしょう。こっちだって、好きで童貞でいるわけじゃないのに。

 外に出れば、途中ですれ違った魔女たちの視線を感じたり、あのときの店員さんや幼女二人みたいに誘惑してきたりと大変だった。

 ……が、何とか貞操を守り切ることができたのである。

 残念ながら、山茶花がいなければどうなっていたか分からないけども。


 などと、三人で他愛のない会話をしていると。

 ドタドタという荒々しい足音とともに、三人の女性が押しかけてきた。

 マルメロたちと同じく、やはり魔女のような装束を身に纏っている。

 誰なのかは知らないが、俺たちを見る目は他の魔女とは異なっていた。

 そこに、好意なんてものは微塵も存在していない。

 警戒、敵意……そういったものが滲み出ているように感じられた。

 訝しむ俺たちに構わず、魔女はゆっくりと歩み寄ってくる。

 そして――。


「……来い」


 たったそれだけを発して、俺と山茶花の腕をがしっと強く掴んだ。

 ゲームでの魔法使いといえば大抵は力が弱いというイメージが染み付いてしまっているが、この目の前の魔女はそんなイメージとは正反対だ。

 女性だとは思えないほど、予想以上に力は強かった。

 マルメロは喫驚して俺たちの名を呼んだり止めようとしてくれていたが、一人の魔女に阻まれてどうすることもできない。

 抵抗も空しく、俺と山茶花は二人の魔女にどこかへ連れて行かれてしまった――。


     §


 強制連行され、俺たちは途轍もなく大きな屋敷へ到着した。

 マルメロの家や他の民家、店などと比べてみても、敷地の広さからして明らかに何倍も違う。

 この様子だと、おそらく〈サマギ〉の中では一番大きい建物だろう。

 しかし長い間そうやって外観を眺め続けることは許されず、すぐさま中へ入らされてしまう。

 思っていた以上の豪華な内部に驚く暇も感心する暇すらもなく、魔女に連れられてどんどん奥へ進む。

 やがて、深奥と思しき部屋に入ると、玉座のような豪奢な椅子に一人の女性が腰かけていた。

 もはや当然と言うべきか、魔女服を着用している。

 俺と山茶花を見るその眼差しは、何だかとても眠たそうに見えた。


「……〈サマギ〉の女王であらせられる、ランプランサス様だ」


 ふと、俺の隣に立つ魔女がそう教えてくれた。

 ――女王。

 それはつまり、ここ〈サマギ〉に於いて最も偉い人物だということか。


「うちはランプランサス。とりあえずまあ、よろしく?」


 どこか気だるげに、女王は俺たちに挨拶をした。

 何だろう。眠そうな目といい、喋り方や声色といい気だるげなのだが、どこか覇気を漂わせている……ような気がする。

 さすがは女王といったところだろうか。

 でも、そんな人が俺たちに何の用があるというのか。

 怪訝に思っていたら、ランプランサスは続ける。


「見たことない顔だけど……あんたたち、〈エリシオニア〉から送られたテロ組織の一員っしょ?」

「……え?」


 あまりにもあっさりと、何てことのない話のように言われてしまい、数瞬遅れてそんな素っ頓狂な声が漏れてしまった。

 数日前、マルメロから聞かされていたこと。

 そのときは、知っていても特に自分とは関係ないだろうって思っていたけど。

 ここ〈サマギ〉は、長い間〈エリシオニア〉と戦争が続いており――部外者には敏感になっている。

 そう。俺たち部外者を見て、戦争相手と間違えてしまってもおかしくはないのかもしれなかった。


「ち、違います! 俺たちは、そんなんじゃ――」

「……ま、素直に認めるわけもないし? あんたらがそういう反応すんのも、ある程度は分かりきってたよ?」


 慌てて無実を訴えようとしてみても、この女王からは全く信じてくれる気配が感じられなかった。


「だから、あんたらを国に返すわけにもいかないし? そうなると、やっぱこの国にずっと捕まえておかないといけないっしょ?」


 まずい。このままだと濡れ衣を着せられた挙句、国から出ることができなくなってしまう。

 このあと、どうしても〈ネルセット〉に行かないといけないのに。

 いつかは元の世界に帰らないといけないのに。


「……てことで、その二人を捕らえといて?」

「はっ」


 ランプランサスが発した指示――もとい命令に、魔女は短く返す。

 そして、すぐに俺たちを捕まえようと手を伸ばしてくる。

 この様子なら、俺たちがいくら言ったところで信じてくれないだろう。

 でも、捕まるわけにはいかない。やりたいこと――いや、やらなくてはいけないことがいっぱいあるのだから。


「行くぞ、山茶花」

「えっ、あ、はい!」


 俺は山茶花の手を取り、すぐさま一目散に逃げ出す。

 背後から「待て!」などと叫びながら魔女が追いかけてくるが、気にしている余裕なんて疾うにない。

 周りを見渡して、〈サマギ〉に住まう魔女の俺たちを見る視線が変わっていることに気づいた。

 好意の視線から――忌諱の視線へと。

 どうやら、俺たちが〈エリシオニア〉から派遣されたテロ組織であるという情報が、〈サマギ〉全体に知れ渡ってしまっているらしい。

 それは当然誤りだが、部外者であるということは紛れもない事実だ。

 そんな俺たちに、居場所なんてものはない。だから、逃げるべき場所もない。

 逃げるために足を動かしながらも、そうやって途方に暮れていると。


「ホーズキくん、サザンカちゃんっ!」


 不意に、そんな叫びが聞こえた。

 足を止めて声のしたほうを見やると、建物の陰に隠れるようにしているマルメロの姿が。

 ここまで追いかけてくれたということは、マルメロもある程度は現状を把握しているのだろう。


「とりあえず、こっちに!」

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