13――四つの淫らな誘惑に
翌日。
俺は、山茶花やマルメロと一緒に家を出た。
少し予想はしていたが、ほぼ全ての人がマルメロと同じような魔女服を着用している。
数十分歩いて、未だに女性魔女しか見かけていないということは、やはりマルメロの言う通り圧倒的に女性が多いようだ。
男がいない光景というのも、ちょっと異様だな。
木造の家が立ち並ぶ街並みは、まるで時代劇とかに出てきそうなほど昔の日本みたいに思えた。
しかし、何やら出店が多く、電飾でカラフルに街が彩られているため、お祭り中のような様相だった。
「ねぇねぇ、ホーズキくんって武器とか持ってるの?」
不意に、街中を歩きながらマルメロが訊いてきた。
この世界には怪物などもたくさんいるみたいだし、今後はそういうのと戦う場面も出てくるかもしれない。
もしそうなったとき、別の世界から来た俺たちに戦う術があるのか気になったのだろう。
「ああ。武器なら、一応短剣がある」
「へー、どんなのっ?」
興味深そうに訊ねてきたので、俺は短剣を取り出す。
マルメロはそれを見て、何やら思案顔になった。
「んー……ちょっとボロボロ、かな」
ロードさんのお下がりだし、この短剣だって何度か使用しただろうから、少し汚いのは無理もない。
すると今度は山茶花へと視線を向け、同じように問いかける。
「サザンカちゃんは?」
「わたしは、特に何も持ってませんけど」
山茶花は異世界に来てすぐに拐われてしまったため、武器を入手する暇すらなかった。
山茶花にも何か武器があれば、拐われずに済んだのだろうか。
いや、たとえ仮に武器で抵抗や応戦したところで、あの奴隷商人もなかなかの手練れだったようだし、むしろもっと危険な目に遭ってしまっていただろう。
そう思うと、逆によかったのかもしれない。
「だったらさ、今から二人の武器買いに行こうよっ!」
ふと、マルメロはそう提案してきた。
あのときの奴隷商人みたいな悪い奴や、ゼレーネと呼ばれる怪物など……この世界は、地球に比べて遥かに危険だ。
俺たちも、守られてばかりでいるわけにはいかない。
せめてもっとまともに戦えるように、強力な武器が必要となるだろう。
もちろんそれだけでは駄目だが、形から入ることも悪くないと思う。
「武器なんて売ってるのか?」
「売ってるよー。まぁ、魔術大国なだけあって杖とかが多いけど、魔法剣士もいるから剣だって置いてるんだよ」
凄いな。今更だが、ますますファンタジーっぽくなってきたと感じる。
ロードさんからの餞別で金はあるし、買っておいたほうがいいだろう。
ということで、俺たちはマルメロの案内で装備品を売っているという店へ向かう。
やがて数分ほどで到着したそこは、他の家などとあまり大差のない木造の建造物だった。
中に入ってみると、様々な杖や剣などの武器がたくさん飾られていた。
RPGでも武器屋はよくあるが……なるほど、こういう感じなのか。
まるでゲームの初期の買い物のように、俺の少年心がくすぐられてワクワクしてしまう。
もちろん、今から武器を買うのは遊びなどではなく、あくまで生きるためということは分かってるけど。
「……あら。いらっしゃい、マルメロちゃん。そっちの子は?」
「えへへー、友達だよ」
どうやら顔見知りだったらしく、マルメロは店員のお姉さんと親しげに会話を交わす。
もはや当然と言うべきか、ここの店員さんも魔女服に身を包んでいる。
みんな同じような服装だと、誰かに盗られたとしても誰が犯人なのか分からなさそうだな。
店員のお姉さんはかなり顔が整っている美人なのだが、何より目を引くのはその少し下だった。
そう――胸部である。
山茶花やマルメロと比べるのは烏滸がましく感じるほど、そこは異様な存在感を放っていらっしゃる。
簡潔に、誰にでも分かりやすく第一印象を述べるとすれば――デカい。
その一言に尽きる。
「ふぅん……美味しそうな男の子じゃない」
「でっしょー? あたしも男なんて久しぶりに見たよー」
お、美味しそうって何だ。
舌なめずりをしながら俺を見る店員さんに気づき、俺は畏怖してしまう。
「ねえ……そこの君。武器を買いに来たんでしょ?」
「あ、は、はい! そうです!」
「その前に、お姉さんといいことしない? 君の武器も見てみたいわ」
店員さんはこちらへ歩み寄り、俺の胸板を撫でる。
その優しい手つきが妙にいやらしく、少しくすぐったい。
急すぎて困惑する俺に、マルメロは楽しそうに笑いながら言ってくる。
「あははー。ホーズキくん、ここの魔女たちはみんなこういう感じだから、せっかくだしお相手してもらったらぁ?」
「ちょ、ちょっとマルメロさん! 止めてくれるって言ったじゃないですか!」
「えー、だって楽しいんだもん。あ、ホーズキくん、次はあたしね!」
「次って何ですかっ! 次も今もありませんよっ!」
何故か当の本人である俺以上に、山茶花がテンパってしまっている。
しかし店員さんは全く意に介さず、誘惑を続けてくる。
「……ね、きっと気持ちいいわよ? 挟むことも、舐めることも、挿れることも……全部ぜぇんぶ、してあげる」
「あ、いや、その……」
店員さんは俺の耳元で囁き、その豊満な胸で腕を挟む。
ぎゅむぎゅむと柔らかな胸に腕が圧迫され、気持ちよすぎて他に何も考えられなくなってしまう。
ヤバい、何だこれ。
そういう経験が一度もない俺にとって、今のこの状況はあまりにも刺激が強すぎる。
こんなことをされてしまうと、さすがに体が反応しないわけはなかった。
だけど、屈するわけにはいかない。どれだけ美人でエロくても、初対面でいきなりはダメだ、うん。
ただそれだけの思いで、俺は必死に耐える――と。
「あ、おとこのひとがいるーっ」
「ほんとだー。ねぇねぇ、なにしてうのー?」
そこへ更に加わる、二つの甲高い声。
振り向いてみれば、入口のところに魔女服を着込んだ二人の幼女の姿が。
容姿が瓜二つなので、おそらく双子だろう。
見た感じ、少なくとも山茶花より五つほど下に思える。
「ちょ、増えたんですけど!?」
「あらー、ここでは仕方ないことなんだけど……」
幼女二人が駆け寄って俺の両脚にしがみついてきたせいで、山茶花の叫びやマルメロの嘆息を気にしている暇がない。
何だこの貞操観念ぶっ壊れたハーレムは!?
俺は一体何をどうすればいいの。店員さんの胸の感触が気持ちいいし、幼女にまでくっつかれて、もう頭がおかしくなりそうだ……
「マルメロさん、そろそろ止めてくださいよっ!」
「はーい」
山茶花の言葉に頷くと、マルメロは空いていた俺の片腕に抱きついた。
店員さん、幼女二人、俺、山茶花……この場の全員が訝しむ中、マルメロは口を開く。
「ホーズキくんはあたしのなんだから、取らないでっ」
「ふぅん……?」
「へー……」
マルメロがそう叫んだことで、店員さんと幼女二人から笑みというものが完全に消え去ってしまった。
そして。
「もしそれが本当だったとしても、マルメロちゃんよりも満足させてあげられる自信があるわよ? この体、好きにしていいんだもの」
「そーだよー、ひとりじめしちゃだめー」
「あたちたちも、こどもつくりたいのー」
マルメロが介入しただけでは諦めてくれず、それどころかむしろ、俺に抱きつく力を更に強めてくる。
さっきまで以上に強く、店員さんの豊満で柔らかい胸や幼女二人のぷにぷにの体を押し付けられ、頭がくらくらしてきそうである。
「ダメだよっ! あたしのオカズなんだから、横取りしないでよっ!」
「……おい、マルメロ。オカズって何だよ。俺は食いもんじゃないぞ」
「あ、どっちかと言うと飲み物のほうだったね」
「いやそういう問題じゃないしっ!?」
飲み物って、どこの何を飲むというのでしょうかね……。
両脚にしがみつく幼女二人、両腕に抱きつく店員さんとマルメロ。
何故かその四人で俺の取り合いが始まってしまい、間に挟まれた俺はどうすればいいのか分からない。
「あー、もう! 逆効果じゃないですかっ!!」
結局。
若干顔が赤くなるほどマジギレをした山茶花が、四人の女を引き剥がした。
そして、私の兄に誘惑しないでとか色々な説教をした結果、最終的に事なきを得た。
我が妹のおかげで、何とか俺の貞操は守られたらしい。
残念だなんて思っていない。いや、本当に。




