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「ギィイイッ!!!!」


 ゴーストは、激しく怒っていた。

 また、どうやって二人を、ガンスレイブとヒポクリフトを亡き者にしてやろうと、画策を張り巡らせていた。


 乗っ取り不可能、でもだからといって、それがゴーストの全てではない。


 基本は生者の体に移る戦いをしているが、それが出来ないのであれば…


 空中を彷徨っていたゴーストが、地上へと降りる。そして、ゴーストの黒い霧の中から、ゾロゾロと、無数の魔物達が姿を現した。


 それはかつて、ゴーストが取り込んだ魔物達である。ゴーストは、魔物の体には移れないものの、その黒い霧の中に閉じ込めて置く事ができる。


 しかも、その数に限りはない。また、どんな魔物でも、集約しておく事ができる。


 魔物達の中には、地下深くにしか存在しない強力の魔物が多数含まれていた。その魔物とは、熟練の冒険者三人分に匹敵する程の、強力の魔物達である。しかも、そんな魔物達を無限と呼べるぐらいには貯蔵してある。


 いくらガンスレイブとて、この数を相手にしては、苦戦するに違いないーーー


 ゴーストは、そう思っていた。また、絶対に負けるはずはない、と。


 だから、驚いたのである。


「…ゴーストよ、俺はもう、貴様を封印するなど、そんな生温い考えは捨てた…」


 ガンスレイブは、静かな口調で言った。また静けさの中に、強い覚悟が込められているような、そんな口調で。


「殲滅、開始」


 その言葉を合図に、ガンスレイブが動き出した。


 右手には先程同様には大剣、ただ違いがあったとして、左手に水晶玉が握られていることぐらいだろうか?


 その水晶玉が、眩い閃光を放っていた。


『!?』


 ゴーストは、その閃光に酷く怯えていた。またこれ以上この場に居たくないと、逃げ出してしまいと、そう思っていた。


 だが、ガンスレイブはそれを許さない。


「ガァアアアアアアアアアアッ!!!」


 咆哮を上げ、地上にいる魔物達を虫ケラのようには、屠り、潰していく。水晶玉から発せられる閃光に、魔物達の動きは縛られているようだった。瞬く間に、魔物の数が減っていく。


 やばいーーー


 ゴーストは身の危険を察知していた。今のこの状況は、自分にとって、非常にまずい状況である。


 認めたくはないが、一時撤退もやむなしかーーーと、ゴーストが後退を始めようとした、


 次の瞬間。


「どこにいく?」


『!?!』


 ゴーストのすぐ側で、ガンスレイブが訊ね聞く。

 逃さないと、言っているかのような、口振りで。


「この浄化石なら、貴様を滅殺するには、充分だろう?それは思わないか?」


 ガンスレイブが、ニヤリと笑う。


「さぁ、その正体を見せてみろ」


 次に、ガンスレイブは浄化石を、ゴーストの体の、黒い霧の中へと突っ込んだ。浄化石の閃光が、より強い浄化の光となって、ゴーストの黒い霧を消し去っていく。


 そして、その正体を露わにしていた。


「ほう…」


 呟いて、ガンスレイブはゴーストの正体を、拝む。


 見下すといった方が適切か、ガンスレイブの視界先で、小さな目玉の塊が、ギョロギョロと蠢いていた。


 それこそが、ゴーストの正体。黒い霧の中にいたものとは、そんな目玉の塊でしかなかったのだった。


 ガンスレイブは、ため息を吐く。


「悍ましい…まさか貴様のようなものに…俺は今まで、苦しめられたというのか…」


『!?』


「なぁ、ゴーストよ…死が、怖いか?虚無は、嫌か?」


『!??』


「この俺が…怖いか?」


 ガンスレイブの目が、ギラリと光る。

 ゴーストはこの時、この世界に存在する事を許されて初めての、死という概念を感じ始めていた。

 

 よもやこの自分が死ぬわけない、ずっとそう思ってきたゴーストには、死が、全く持って理解できないでいたのである。


 ただこの時ばかりは、そうはいかない。それはこれまで、数多の死を見てきたゴースト自身が、よく理解していた。


 自分は、これまで葬ってきた者達のようには、苦しみ、もがき、そして、死ぬのか?


『嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…』


 ゴーストは一目散の撤退を敢行する。体は黒い霧でいたよりも、随分と軽い。また体が小さいため、仮にガンスレイブが攻撃してきたとしても、回避は容易であろう。


 ゴーストは、まだ諦めていなかった。


 まさか自分が、無様にも逃げ惑うことになるとは、想像にもしていなかった。でも、生きてさえいれば、チャンスは何度だってある。


 ゴーストは逃げる最中にも、次はどうやってガンスレイブを苦しめてやろうか、思考を張り巡らせていた。


 生きてさえいれば、生きてさえいればーー


 ゴーストは、生まれて始めての、生の有り難みを実感。生きてさえいれば、何でもできる。


 そんなもの、今更考えたって遅いとは、梅雨にも思わずに。


「さぁ、死の覚悟はできたか?」


『!??』


 ガンスレイブが、唸る。背後から伝わる、強者の気配。圧倒的、死の香り。総じて、ガンスレイブはーー


 死神。


「さぁ、泣け」


 ガンスレイブが、ゴーストの体を、目玉の塊を握り捕まえた。そのまま、ゆっくりと、力を入れたり、入れなかったり、まるでゴーストの命を(もてあそ)ぶようには、命運を左右している。


「…俺は、今、非常に怒っているんだ」


『!??』


「楽に死ねると思うなぁあ…」


 ガンスレイブは唸る。


 一切の迷いは、とうに捨てている。今はただ、このゴーストを断罪できる、唯一の者として、その罪に値する殺し方を、模索する。


 模索して、ついにはその答えは見つからなかった。


 それ程に、このゴーストに対する怒りは、重い。


 普段、生命の生き方、在り方に文句を言わないガンスレイブも、この時ばかりは、我を忘れる。ただ無情の死神と、成り果てていた。


 そして、


「潰れろ」


 グチャリッ、ガンスレイブの手の中で、目玉の塊は潰れた。

 果たしてそれが、生き物であったのか、またただの目玉に過ぎなかったのかは、誰にも分からない。故に、覚えられもしない。


 ガンスレイブだけが、覚えている。


「…哀れな」


 ただガンスレイブは、覚えておくつもりは、ないようだった。


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