18
かつての記憶の中で、アルビダはその命を散らした。
薄れゆく意識の中で、ガンスレイブはかつてのアルビダと、今まさに自分を殺そうとしているゴーストとを、見比べる。
やはり、中身は違うとしても、アルビダはアルビダであった。
「ア、アルビダ…」
「……ふふ、ふふふ…ガンスレイブ、やっと…見つけたよ…死ぬよ…君、死ぬよ…」
声はアルビダのもの。でも、やはり中身はゴーストだ。
どうしてゴーストが、ガンスレイブを付け狙い、始めて出逢った100年も前から、執拗に狙ってくるかは分かっていない。
ただ、ガンスレイブはこれこそが、自身をこの迷宮ダンジョン[ダイスボード]へと閉じ込めた、神の企みか何かなのではないか、と、薄々にも感じ始めていた。
仮にそうだとするならばーー
ガンスレイブの眉間に、皺が寄る。またその眼の奥に、憎悪の炎が灯っていた。
「許さない…」
「…ギィ…許、さない?何で?どうして?」
「お前は…俺ならまだしも、アルビダまでを巻き込んだ。仮に貴様が神の使いだとして…最早貴様は…外道以外の、何者でも、ないッ!!」
ガンスレイブは咆哮を上げる。そして、胸に刺さって長刀を引き抜き、またゴーストから取り上げる。そのままゴーストに向け、渾身の回し蹴りをぶつけていた。
ガンスレイブの追撃は、止まらない。
「その魂に、恒久なる死を与えるッ!!」
ガンスレイブは奪った長刀を、勢い任せにはゴーストに投げつけた。それはまるで投射された槍のように、ゴーストの眉間へと突き刺さる。
「ギィッ!?」
「まだまだ、こんなものじゃ終わらせないッ!!」
ガンスレイブはすぐ様、ゴーストに向け特攻した。
胸のダメージなどなかった、そうとでも言いたげな、そんな素早い動作で、また力強い体捌きで。大剣を振り回し、ゴーストの体を斬り刻む。
「ギィッ!ギィッ!」
「五月蝿い声だ。でも、それも時期に聞かずに、終わる」
ガンスレイブは、ゴーストを斬り刻む事に、躊躇いを捨てていた。いくらアルビダの姿形をしていたところで、それは最早、アルビダでも何でもない。憎っくき、報復すべき敵でしかない。
「やめ、て…ガンスレイブ…痛いよ…苦しいよ…」
途端に、また先程同様の、アルビダの声を使うゴースト。そうしてガンスレイブを翻弄させては、殺してやろうとは画策しているのだろう。
先程のガンスレイブとは、見事にその餌に食いつき、痛烈なダメージを受けてしまった。だからこそ、二の轍を踏むガンスレイブではない。
ガンスレイブはゴーストの首を掴み上げると、握力のみで、メキメキと、ゴーストの首をへし折る。
「五月蝿い無駄口は、これで叩けまい…」
「ッ!??」
「さぁゴーストよ、審判の時だ…貴様の下劣にも、我が友アルビダを亡き者にし、また、あろうことかその体と、魂までを穢した。だったら、断罪するしかなかろう…」
掴んだゴーストを、勢いよく地面と叩きつける。
「さぁ、封印の時だ。ゴーストよ…」
ガンスレイブのその言葉と同時に、地面に散乱したホーリークラフトとは、再び輝きを放ち始めていた。一度封印に失敗はしたが、まだホーリークラフトは枯れていない。だが、それも3度目はないだろう。次に失敗すれば、完全にホーリークラフトはその花弁を散らし、枯れ果てる。
だったら、失敗は許されない。
ガンスレイブは封印の祝詞を唱え始め、ゴーストが逃げ出さないよう、掴んだゴーストの首元を、更には締め上げた。
その時だった。
「ガンスレイブさん!封印はッ!?大丈夫ですかッ!?」
霧の向こう側から、声は鳴り伝わる。あどけなく、甲高いそんな声。
それは間違いなく、冒険者ヒポクリフトの声だった。
「ヒポクリフトッ!!下がっておけ!!」
この時、ガンスレイブは油断していた。またそれは、誤算とも呼べるだろう。ゴーストの事を、甘く見ていたのだ。
突然、ゴーストが口を開き、またケタケタと邪悪な笑みを浮かべ、ゆっくりとは喋り始めた。
「…ギィ…ガンスレイブ…あれは…お前の、大事なものか?」
「き、貴様ッ!」
「奪ってやる…お前の大事なものは…全てッ!!」
次の瞬間、ゴーストの体が黒い霧へと変わった。ガンスレイブの手を、すり抜け、離れる。地面にはアルビダの体、あの頃と変わりない、刹那にも目を覚まし笑いかけてくるような、そんな綺麗な姿をした、アルビダであった。
「…ま、まさか!?」
黒い霧が、宙を舞う。そして、霧の中へと消えていく。その先に、ヒポクリフトはいる。つまり、ゴーストの次の標的は、ヒポクリフト。
ヒポクリフトの体を、乗っ取るつもりなのだろう。
「やめろぉおおおおおッ!!!」
ガンスレイブの咆哮が、虚しく響き渡っていた。




