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 かつての記憶の中で、アルビダはその命を散らした。


 薄れゆく意識の中で、ガンスレイブはかつてのアルビダと、今まさに自分を殺そうとしているゴーストとを、見比べる。


 やはり、中身は違うとしても、アルビダはアルビダであった。


「ア、アルビダ…」


「……ふふ、ふふふ…ガンスレイブ、やっと…見つけたよ…死ぬよ…君、死ぬよ…」


 声はアルビダのもの。でも、やはり中身はゴーストだ。

 どうしてゴーストが、ガンスレイブを付け狙い、始めて出逢った100年も前から、執拗に狙ってくるかは分かっていない。


 ただ、ガンスレイブはこれこそが、自身をこの迷宮ダンジョン[ダイスボード]へと閉じ込めた、神の企みか何かなのではないか、と、薄々にも感じ始めていた。

 

 仮にそうだとするならばーー


 ガンスレイブの眉間に、皺が寄る。またその眼の奥に、憎悪の炎が灯っていた。


「許さない…」


「…ギィ…許、さない?何で?どうして?」


「お前は…俺ならまだしも、アルビダまでを巻き込んだ。仮に貴様が神の使いだとして…最早貴様は…外道以外の、何者でも、ないッ!!」


 ガンスレイブは咆哮を上げる。そして、胸に刺さって長刀を引き抜き、またゴーストから取り上げる。そのままゴーストに向け、渾身の回し蹴りをぶつけていた。


 ガンスレイブの追撃は、止まらない。


「その魂に、恒久なる死を与えるッ!!」


 ガンスレイブは奪った長刀を、勢い任せにはゴーストに投げつけた。それはまるで投射された槍のように、ゴーストの眉間へと突き刺さる。


「ギィッ!?」


「まだまだ、こんなものじゃ終わらせないッ!!」


 ガンスレイブはすぐ様、ゴーストに向け特攻した。

 胸のダメージなどなかった、そうとでも言いたげな、そんな素早い動作で、また力強い体捌きで。大剣を振り回し、ゴーストの体を斬り刻む。


「ギィッ!ギィッ!」


「五月蝿い声だ。でも、それも時期に聞かずに、終わる」


 ガンスレイブは、ゴーストを斬り刻む事に、躊躇いを捨てていた。いくらアルビダの姿形をしていたところで、それは最早、アルビダでも何でもない。憎っくき、報復すべき敵でしかない。


「やめ、て…ガンスレイブ…痛いよ…苦しいよ…」


 途端に、また先程同様の、アルビダの声を使うゴースト。そうしてガンスレイブを翻弄させては、殺してやろうとは画策しているのだろう。


 先程のガンスレイブとは、見事にその餌に食いつき、痛烈なダメージを受けてしまった。だからこそ、二の(てつ)を踏むガンスレイブではない。


 ガンスレイブはゴーストの首を掴み上げると、握力のみで、メキメキと、ゴーストの首をへし折る。


「五月蝿い無駄口は、これで叩けまい…」


「ッ!??」


「さぁゴーストよ、審判の時だ…貴様の下劣にも、我が友アルビダを亡き者にし、また、あろうことかその体と、魂までを(けが)した。だったら、断罪するしかなかろう…」


 掴んだゴーストを、勢いよく地面と叩きつける。

 

「さぁ、封印の時だ。ゴーストよ…」


 ガンスレイブのその言葉と同時に、地面に散乱したホーリークラフトとは、再び輝きを放ち始めていた。一度封印に失敗はしたが、まだホーリークラフトは枯れていない。だが、それも3度目はないだろう。次に失敗すれば、完全にホーリークラフトはその花弁を散らし、枯れ果てる。


 だったら、失敗は許されない。


 ガンスレイブは封印の祝詞を唱え始め、ゴーストが逃げ出さないよう、掴んだゴーストの首元を、更には締め上げた。


 その時だった。


「ガンスレイブさん!封印はッ!?大丈夫ですかッ!?」


 霧の向こう側から、声は鳴り伝わる。あどけなく、甲高いそんな声。


 それは間違いなく、冒険者ヒポクリフトの声だった。


「ヒポクリフトッ!!下がっておけ!!」


 この時、ガンスレイブは油断していた。またそれは、誤算とも呼べるだろう。ゴーストの事を、甘く見ていたのだ。


 突然、ゴーストが口を開き、またケタケタと邪悪な笑みを浮かべ、ゆっくりとは喋り始めた。


「…ギィ…ガンスレイブ…あれは…お前の、大事なものか?」


「き、貴様ッ!」


「奪ってやる…お前の大事なものは…全てッ!!」


 次の瞬間、ゴーストの体が黒い霧へと変わった。ガンスレイブの手を、すり抜け、離れる。地面にはアルビダの体、あの頃と変わりない、刹那にも目を覚まし笑いかけてくるような、そんな綺麗な姿をした、アルビダであった。


「…ま、まさか!?」


 黒い霧が、宙を舞う。そして、霧の中へと消えていく。その先に、ヒポクリフトはいる。つまり、ゴーストの次の標的は、ヒポクリフト。


 ヒポクリフトの体を、乗っ取るつもりなのだろう。


「やめろぉおおおおおッ!!!」


 ガンスレイブの咆哮が、虚しく響き渡っていた。


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