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 獣顔のガンスレイブと、エルフであるアルビダのダイスボード攻略。ガンスレイブの強さは以前揺るぎない事実として、アルビダもまた、エルフ特有の高魔力、上級魔法を駆使しては、ガンスレイブに負けない働きを見せていた。


 息の合った二人の連携。そんな連携を前にして、いくら地下52階層の強力な魔物達とて、手も足も出ない。ただてさえ孤軍最強のガンスレイブに、アルビダの魔法が加わったのだから、それは至極当然とも言える。


 二人が組んで、3年の月日が流れていた。その頃、二人は地下54階層に突入していた。二人が組んだのは地下52階層、そして、その一年後が地下54階層。


 これを遅いと思う者がいるとすれば、それはその者がダイスボードというもの、何も理解していないからだろう。


 というのも、ダイスボードは進めば進むほどに、ダンジョン構造は複雑に、また広さを拡大していく。魔物も階層が深まるに連れ、強さを増していく。


 その頃のダイスボードに於いて、ダンジョンマップ(地下迷宮構造地図)が残されているのは、地下28階層まで。それより先は、ダンジョン攻略組の知恵と勇気と、そして腕っ節が試される、ということである。


 以上を踏まえ、彼らは偉業を成したと言える。何故なら彼らは、たったの二人で、しかも、たったの一年で、地下50階層クラスのダンジョンを一階層攻略したのだから。


 これが少し前までは、ガンスレイブ一人で攻略していたと言うのだから、つくづく、化け物染みた偉業、とは言い得て的を指す。


 話は戻って、二人はその頃。地下54階層に入ってからというもの、実に数ヶ月が過ぎようとしていた。未だ折り返し地点にも満たないだろうとは、二人は理解している。


「ガンスレイブ、ところであなたは今まで、一人でいて寂しいと思ったこと、なかったわけ?」


 (おもむろ)に、アルビダが尋ねた。進む足はそのままに、また近くに魔物がいない事を知っての、細やかなる会話というやつである。


 ガンスレイブはアルビダを流し見て、「当然だ」と、一言呟いた。


「どうして?」


「逆に聞きたい。一人である事の、何が寂しいというのか?」


 俺にはわからない、ガンスレイブは続けざまには、そう言った。


「分からない、か…あはは、確かにそれ、ガンスレイブらしいけど。でも、この世に存在するありとあらゆる生命体は、群れを成して生きるこそ、なんだよ?」


「群れを成して、生きる…」


「そうそう、それは人間も動物も、私達エルフだってそう。大体、生命体は独りでには、誕生できないじゃない?(おす)がいて、(めす)がいて、それでいて初めて、新たな命は育まれる。生まれた瞬間から、何者だって一人じゃないんだから」


 魔物だってそうじゃない?と、アルビダは笑う。


 ガンスレイブは頷いて、素直に「その通り」だとは思い知らされていた。


 ただ言って、ガンスレイブは魔獣。世の断りから外れた魔獣とは、この世の習わし、もといルールなどは当て嵌まらない。


 故に、疑問で仕方なかったのだ。


「それでも、お前ら生命は、肉親であっても、争う」


 そう、ガンスレイブの知る生命とは、自滅していく生き物であった。種族間の抗争ならまだ分かる、また別種の存在同士が、利益を求め奪い合うのも、まだ分かる。ただ、時に生命とは、それ以外にも、争う時があるのを、ガンスレイブは知っていた。


 親殺し、そんなものがある事を、知っていたのである。


「そこにどんな想いがあるのかは、知っている。憎しみというやつ、なのだろう?ただ憎しみを抱いて、よもや生の根幹である親を殺すとは…俺には到底理解できん」


「ああ、そういうのも、確かにあるかもね。それに関しては、私は何も言えないや。そういうの、見たこともあるし。たださ、憎しみがあるってことは、愛情もあるんだって、そうも思うの」


「愛情?」


「そう、愛だよ愛。誰かを想い、(いつく)しむ感情だよ。初めは誰だって、憎しみたかったわけじゃないと思う。むしろ、愛したかったんじゃないかって、そう思う。でも、そうはいかないのが生命だよ。愛情が憎しみに変わる瞬間なんて、ほんの一瞬」


 だけどね!と、そう続けて、アルビダは声を弾ませた。


「みんながみんな、憎しみあってるわけじゃない。誰だって、理解し合いたいって、本当はそう思ってるんだよ。ガンスレイブからすれば、一人でいる事の方が、いいのかもしれないけどさ…でもそれって、知らないからじゃないのかな?」


「知らない?」


「そう、ガンスレイブはずっと一人でいたから、誰かといる事の楽しさを、きっと理解できていないだけなんだよ!だってほら、あなたここ一年、私とずっと一緒にいるけど、前よりは少し楽しいでしょ?いや、少しって…それ何か、私がツマラナイ奴みたいで、嫌だな」


 独りで盛り上がって、独りで落ち込むアルビダ。

 確かにガンスレイブは、そんな感情豊かなアルビダを覗いて、笑みをこぼす事があった。


 それが愛情と呼べるのかは、ガンスレイブ自身よく分かっていない。ただ、何となくだが、アルビダの言う、「誰かと共生する」意味を、理解しつつあった。


「ねぇガンスレイブ!私といて、退屈?」


 不安そうに、アルビダは首を傾げる。


「退屈、ではないと思う。でも、仮にお前がいなかったとして、そこで寂しいと感じるかは、正直分からない」


「そ、そんなぁ~」


 でも、とガンスレイブは口にした。


「今は、お前と共に歩むのも悪くないと、そうは思っている」


 ガンスレイブは、恥ずかしそうに、そう言った。




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