15話
いつかの獣顔とは、やはり迷宮ダンジョンの攻略に精を出していた。それはヒポクリフトという冒険者と出会う、100年以上も前の話であり、もちろんヒポクリフトはまだ世界には生まれていない。
そんな迷宮ダンジョン[ダイスボード]で、丁度、ガンスレイブが地下52階層に差し掛かった時であった。
ガンスレイブの隣には、一人の冒険者の姿があった。
「ねぇ、どこまで行くつもり?」
一人の冒険者は、ガンスレイブに尋ねる。艶やかなブロンドの髪を靡かせ、ただ黙々とは歩くガンスレイブに歩調を合わせ、疑問職を浮かべるのであった。
「このダイスボードが続く限りだ。それと、アルビダ、お前はいつまでついて来る気だ?」
重たいため息まじりに、ガンスレイブは呆れ声を発した。もちろん、それは隣を歩くその冒険者へ向けてであり、その冒険者を、ガンスレイブはアルビダと呼ぶ。
「あなたが進む限りよ。全く、こっちの身にもなってよね?」
その冒険者ーーアルビダは、眉を顰め、ガンスレイブの横顔を覗く。アルビダの目に、いつも変わりない様子の、ガンスレイブの横顔とは映る。
まるで、自身の存在など気にもとめてないような、そんなガンスレイブの様子一切とは、いつもと変わりない。アルビダはそれを、快く思っていなかった。
ガンスレイブはいつもそうだ。孤高の存在として、一人ズカズカと先へと進んでいく。冒険者達が数をなして、必死辛辛には攻略するダイスボードを、平然とした様子では攻略していく。
冒険者達の中で、そんなガンスレイブは[キング]と呼ばれていた。それは言葉通りの意味で、ダイスボードの奥地の、地下深くを一人で進撃していく様は、ダンジョン攻略の王と言っても過言ではない。
ただ言って、彼に秘密があるのは、この時はアルビダしか知り得ない事である。というのも、ガンスレイブは冒険者達の前では、いつも黒い羽衣を見に纏い、底の深いフードを被り、姿一切を露わにしていなかったからである。
故に皆は、ガンスレイブが獣顔をしているとは、知らない。ガンスレイブ自身、明かすつもりもないようだった。
アルビダは知っていた。この迷宮ダンジョン[ダイスボード]には、獣顔をした存在がいて、彼が古い伝承に伝わる、獣顔のダンジョン攻略者であることを。
このダイスボードの存在が発見されたとされる、推定500年前の文献にも、ガンスレイブらしき存在の事は記されていた。
四体の魔獣が世界を食い散らかしていた、そんな時代に、神が現れ、魔獣に神罰を下したと。それと同時期に、この獣顔の、ガンスレイブとは地下迷宮ダンジョンに現れ、ダンジョン攻略を始めたと、そう記されていた。
つまり、アルビダはこう考えていた。その四体の魔獣の内の、その一体が、この地下迷宮ダンジョンに押し込められたのではないか、と。
確証はない。
また文献には、その獣顔は、ダイスボードで命を堕としかけた、数多くの冒険者達を救ったとされる。なればこそ、人々に災いを齎した、かの魔獣とは真逆の存在。
果たしてガンスレイブとは、何者なのかーーアルビダはガンスレイブを、魔獣が転生した事実を推奨するも、彼の行い聖闘士のそれだ。
「どうした、アルビダ?」
黙り込むアルビダを見て、ガンスレイブが訊いた。
アルビダは、あわあわと取り乱して、何もない!、と声を張り上げる。
「そ、それより!ガンスレイブ、私はあなたに着いて行くと決めたの。別にいいでしょう?」
話題を逸らすように、アルビダは訊ね聞いた。
ガンスレイブは困った顔を作る。むう、とは呟いて。
「…邪魔にならなければ、別に構わんのだが」
「邪魔?あなたねぇ…この階層まで進んできた私が、邪魔になるとでも思ってるわけ!?」
アルビダはコケにされたと、頰を膨らませた。
確かにガンスレイブは孤高にして、最強。ただ言って、ダイスボード地下52階層まで進んできた自分だって、冒険者の中ではかなりの実力者だと自負している。
「それに、魔法に関して言えば、エルフである私の方が長けてる、違う?」
「……ま、まぁ…否定はしないが」
「そうでしょ?だったらいいじゃない。ガンスレイブと私、これからは二人で、ダイスボードを攻略するの。そもそも二人の方が、何かと効率がいいでしょう?」
アルビダの言っていることに、何ら間違いはなかった。そもそもダンジョン攻略とは、其れ相応の人数を成してこそ、攻略が可能というもんである。それを、この獣顔は今まで一人でやって退けてきた。そんな事実の方が、間違っているのだ。
「この話はこれでお終い!ガンスレイブ、これからよろしくね?」
アルビダは、ガンスレイブの腕にしがみつき、楽しそうには笑う。ガンスレイブは嫌そうな顔で、アルビダの振り解く。
それはかつての、ダイスボードで起きた実際の話。
この時の二人は、これから待ち受けているだろう最悪の結末について、知る由はなかったのだった。




