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 先に動いたのはガンスレイブだった。

 ガンスレイブは大剣を振り上げ、真上へと跳躍する。そのまま一気に、地上にいるゴーストに向け、大剣を振り下ろした。


 ガンッと、金属と金属がぶつかり合うような、そんな音が空間を木霊する。つまりは、そういうことなのだろう。


「ギィッ……」


 ガンスレイブの視界先で、黒塗りの長刀を構えたゴーストはいる。ガンスレイブの大剣を、軽々しい様子では受け止めていた。またその眼に、狂気が満ち満ちている。


「…やはり、その姿なのか?」


 ガンスレイブは呟いた。

 その姿と、ガンスレイブは言う。というのも、ガンスレイブはゴーストのその姿形、容姿を、よく知っていたのである。


 華奢な身体つきに、背は高い。腰につく長いブロンドの髪に、透き通るようには白い肌、藍色のマントに、中は銀色の鎧と、黒いロングスカートを履いている。エルフ。それは見るものをウットリさせるような、美しいエルフであった。


 それこそがゴーストの正体。ガンスレイブが、ゴーストとして邪険にする者とは、そんな美しいエルフの姿をしていたのだった。


「アルビダよ…許せ」


 ガンスレイブは、ゴーストのみぞおちを蹴り上げた。アルビダという、誰かの名前を口にして。


「ギィィィッ!?」


 ゴーストは悲鳴を上げる。効いているのか、その声はどこか苦しそうであった。


 ただ、ガンスレイブには分かっていた。こんなものでは、ゴーストに何らダメージを与えているとは言えない。また、物理的干渉では、ゴーストを破れないと、理解している。


 ガンスレイブは、物理的干渉によるダメージなど、鼻から期待はしていなかった。ガンスレイブの狙いとは、別のところにある。その狙いとは、一時の隙を作る事。いくら物理的干渉の薄いゴーストとて、大剣で切り刻めば、少しは動きを止めるだろう。

その瞬間こそ、ゴーストを封印できる唯一の機会だとは、そう画策している。


 故に、ガンスレイブの猛攻は続く。


 殴る蹴る、大剣でブッタ斬る、美しいエルフの姿をしたゴーストの素肌が、血色に染まっていく。それは一方的過ぎる戦闘。見る人によれば、獣顔の化け物が無力なエルフを傷つける、そんな惨事とでしか映らないことだろう。


 無常なる獣顔に、無力なるエルフの女、まさにその光景は、地獄絵図と言っても過言ではない、悲惨な絵面であった。


 そう、次の瞬間が訪れるまでは。


「ギィッ…」


 ゴーストの声が鳴った。悲鳴ではない。また金切声ではない。言うなれば、それは怒りに満ちた声である。


 次の瞬間、ゴーストの反撃は始まった。


 ガンスレイブの大剣を、黒塗りの長剣にて弾くと、そのまま黒々とした魔力弾を掌に溜めて、それをガンスレイブの懐へとぶつける。


「!??」


 ガンスレイブは危険を察知した。ただ察知したところで、既に遅い。


 ガンスレイブの体が、けたたましい炸裂音と共に、弾け飛んだ。ガンスレイブの体は勢いよく宙を舞い、ゴーストはそんなガンスレイブを追撃する。


「ギィィィィィィィィィィィッ!!」


 金切声を発して、ガンスレイブの足首を掴むと、そのまま地面に向けて、力任せには投げ飛ばした。ズドンッと、地面が揺れる。揺れる地面の、めくれ上がった地面の上で、ガンスレイブは呻き声を漏らす。


「ぐぅ…」


 余裕はない。いつものようにはいかない歯痒さに、ガンスレイブは舌打ちを鳴らす。また頭上から、長剣を突き出して迫り来るゴーストを見て、最悪の未来を想像していた。


「調子に、乗るなぁあああッ!!」


 咆哮を上げ、ガンスレイブはすぐ様立ち上がる。そして大剣を振り構えると、迫り来るゴーストを睨んだ。


 距離は充分、で、あるならばーーー


 ガンスレイブの大剣が白い輝きを放ち始める。それは聖なる魔法、白魔法と呼ばれる、邪を祓う魔法である。そんな魔法を、ガンスレイブは例の薬草、ホーリークラフトを媒介には発動させていた。


 ガンスレイブの懐の中にはある、ホーリークラフトの数束が、その瞬間にも枯れ果てる。封印に必要だった筈のホーリークラフトの束が、減りなくなっていく。


『白魔法は使えて、この一回のみ。残りのホーリークラフトは、封印に必要不可決なのだから…ならば!』


 次で決めるーーガンスレイブは渾身の思いで、ゴーストを待ち構える。失敗は許されない、この一撃を外せば、最悪な未来がやってきてしまう。それが分かっているからこそ、ガンスレイブに油断、躊躇い、恐れ、総じて迷いはなかった。


 そして、


「うぉおおッ!!!!」


 ガンスレイブは雄叫びを上げて、大剣を振り抜いた。大剣がゴーストに届くまで、まだまだ距離はある。だが、それは別にどうだっていい。問題は、大剣に纏わせた白魔法が、ゴーストに届くか否か、ただそれだけであった。


 ガンスレイブは、確信を持って白魔法が当たる、そんな距離までゴーストを引き寄せていた。故に、ガンスレイブの振り抜いた大剣の、その大剣に纏われた白魔法は、真空波のような斬撃となって、ゴーストへと接撃する。


「ギィヤァアアアアアアアアアッ!!!」


 これには堪らず、ゴーストも今まで上げたこともない悲鳴を漏らしていた。また体勢を著しく崩して、地面へと落下した。バタバタと暴れ出す。白魔法の斬撃を受けた、肩から脇腹にかけての箇所から、黒い煙が噴き出していた。


『よし、行ける』


 そして遂に、その時はやってきた。ガンスレイブはゴーストを封印をするべく、動き出した。瞬時にゴーストの手前まで距離を詰めると、懐からホーリークラフトを取り出し、それを辺り一帯に投げ、ばら撒いた。


 次に、封印祝詞を口にする。ガンスレイブの祝詞に反応して、地面に散らばったホーリークラフトが、白い輝きを放ち初めて、霧を、そしてゴーストの体を浄化、封印していく。


「ギィッ!ギィィィィィィィィィィッ!!」


「終わりだ、ゴースト。今度は早々に解除できぬよう、重い封印を施しておく。最早、貴様と合間見えることもあるまい」


 これで終わり、ガンスレイブはその事に対して、何ら不安に思う事はなかった。


 抜かりはなく、やる事は全てやった、これで暫くは、このゴーストをこの階層に縛り付けて置くことができるだろう。また、こんな階層にやってくる低級冒険者には、決して解除出来ない程の重い封印、何重にも何重にも張り巡らせてーーーそれで、終わりだ。


 ガンスレイブは封印祝詞の、最後の一節へと入る。ホーリークラフトは、より一層の輝きを放つ。ゴーストの金切声、もとい悲鳴はより一層に鳴り響くーーー


 その時だった。


「ガンスレイブ」


「!?」


 不意の事だった。ガンスレイブを呼ぶ誰かの、声が聞こえた。か細く、そして優しそうには聞こえる、そんな声。かつてのガンスレイブにとって、その声は特別なものだった。また、大切な誰かの、声であった。


「ア、アルビダ?」


 ガンスレイブが呟いた。その呟きに、声は返ってくる。


「ガンスレイブ、痛いよ。やめて」


 それはゴーストである、エルフより発せられた声であった。金切声はそのままに、どういったことか、エルフの女性の声が混じり、ガンスレイブへ語りかけてくる。やめて、と。


「ふざけるなッ!貴様は、アルビダではない!」


「どうして、そんな事を言うの?私はアルビダ、ガンスレイブ、あなたの仲間、そうでしょう?」


「ち、違う!だって、だってお前は、」


 ゴーストはムクリと、顔だけをガンスレイブに向けて、悲しそうな眼差しを送る。そして、


「また、殺すの?」


「!?」


 ガンスレイブの封印祝詞が、一瞬止まった。その瞬間が訪れた次にも、ゴーストの体が瞬時に動き出す。そのまま黒塗りの長剣をガンスレイブへと突き出して、ニタリと、悪い顔をして、笑っていた。


「ふふふ、あんた、やっぱ馬鹿だね?」


 ゴーストの突き出して刃先が、ガンスレイブの胸元を、貫いていた。




 

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