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地下6階層ーー
階段を降りて早々にも、ガンスレイブとヒポクリフトは濃い霧に包まれ、視界を失っていた。
果たしてその階層が、どんな構造をしているのかーー
ヒポクリフトは濃い霧の中で、そんな疑問を抱く。
ただ言って、濃い霧の正体については、あまり気にもとめてはいなかった。それがこの階層のギミックか何かだろうと、一人自己完結しては、楽観視していたのである。
だからこそ、グルルルと唸り声を上げて、警戒心を露わにするガンスレイブを、不思議に思っていた。
「どうしたのですか?」
「”あいつ”が…いる」
「あいつ?」
ヒポクリフトは途端に、小屋での話を思い出していた。
「ああ、それって、ガンスレイブさんとバードさんの話していた、”あいつ”のことですよね?結局、あいつって、誰のことだったんですか?」
結局、あの時の二人はヒポクリフトに何も教えたりはしなかった。ただ苦い顔を作っては黙り、その様は「知らない方がいい」と、無言で語っているようで…
だからこそヒポクリフトは何も聞けず、今に至る。
教えてくれないのなら、聞いちゃまずいことなのだろう、ヒポクリフトは、そう思っていたのだった。
それなのに、再びガンスレイブは口にする。あいつ、と。バードがいたのならまだしも、今はガンスレイブと二人きりだ。ヒポクリフトとはいよいよ、”あいつ”の事が気になって仕方がなかった。
故にヒポクリフトは、尋ねる。”あいつ”は誰なのか、と。
ただガンスレイブは、黙ったままであった。唸り声は、そのままに。
「ガンスレイブ、さん?」
「ヒポクリフト、少し黙っていろ」
「えっ?」
「…あいつが、俺たちの事を探っている…」
「……」
無音。二人の会話が途絶えると、迷宮内は嫌に静寂である。
誰もいない、何もない、だからこそ無音。
音を立てる者がいないからこそ、静寂は二人を包み込んでいる。そうに違いない。
その時のヒポクリフトは、そう思っていた。
その時が訪れるまでは。
「キィィィギィヤァアアアアッ!!」
それは金切声。耳を覆いたくなる程の、そんな金切声が、唐突にはガンスレイブとヒポクリフトの耳に、響き渡っていた。
「ヒポクリフトッ!!」
ガンスレイブは焦るように、ヒポクリフトに呼び掛けた。また彼女の体を持ち抱えた。そして瞬時に、霧の中へと突入、猛スピードでは駆ける。
「ガ、ガンスレイブさん!いきなり、どうしたんですか!?」
「話は後だ!とにかく、耳を塞いでおけ!喰われるぞ!」
「く、喰われる!?」
いきなり過ぎて、ヒポクリフトの理解は追い付かない。それでも、ガンスレイブの様子があまりにも異常そうに見えるから、ヒポクリフトは素直に従うしかない。
ヒポクリフトは耳を塞ぐ。視界は霧で見えない、また耳は塞いだ状態、事の状況を確認するのは、些か無理かあるというものだろう。ただ塞いだ耳越しに、未だ金切声は、薄っすら聞こえてきていた。
絶叫。人間のものでは決してない。また魔物にしたって、あのガンスレイブが、逃走する説明がつかない。
一体何だ、何なのだーーガンスレイブに身を任せたヒポクリフトの思考とは、かき乱されたままである。
以前として、ガンスレイブからの説明はなかった。




