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告白もさせてくれない

 夕焼け。生徒のはしゃぐ声がそこかしこに聞こえる。


 校内放送のアナウンスが、用のない生徒は早々に帰宅してほしいと催促してきた。私は思わず舌打ちする。こちとらさっさと帰りたいんだっつーの。


 明日から夏休み。たぶん先生たちも忙しいんだろう。今日ばかりはいつもの吹奏楽の騒音も聞こえないし、野球部がグラウンドで走っている姿も見られない。きっとみんな、明日からの楽しい日々を思い描きながら帰途に着いたんだろう。


 なのに私は……

 ため息をついて、私は自分の席に額を当てた。


 ――放課後、教室で待ってて。


 勇気を振り絞って翼くんに告げたのはつい二時間前のことだ。午後の授業が始まる前に、こっそり耳打ちした。確かに返事もあったし、聞こえなかったということはないはずだ。

 来ないってことは、そういうことかな……

 六時限目が終わってから、もう一時間が経つ。翼くんは野球部だけれど、彼らが今日活動していないことは窓の外を覗けばわかる。


 告白して、振られればそれまでだと思っていた。けれど、まさか告白すらさせてくれないなんて……

 憂鬱な思いを振りほどき、私は鞄を手にとってから立ち上がった。明日から楽しい夏休みだ。暗いことは忘れてしまおう。

 教室を出て、とぼとぼと廊下を歩く。


「前からずっと好きでした――付き合ってください、翼くん」

 

 そんな声が聞こえてきたのは、私の教室から数歩先、別のクラスからだった。

 ちょっと待って。翼くんって、まさか……

 高鳴る鼓動を感じる。かあっと顔が熱くなる。

 私は無意識のうちに、その教室のドアに耳を摺り寄せていた。


「ありがとう。俺もずっと、君のことが好きだった……」

「……ほんと?」

「ああ。いますっげー嬉しいよ」

「でも大丈夫? 翼くん、葵ちゃんにも呼ばれてなかった?」

「うん……いまから謝ってくるよ。だって……」


 思わず私は数歩遠ざかった。

 この声は、間違いなく翼くんと、クラスメイトの茜ちゃんだ。まさか茜ちゃんも翼くんを呼び出していたなんて……

 いや、と私は思った。重要なのはそこじゃない。翼くんはなんと言った? 好きなのは茜ちゃんで、私のことは……


 気づいたとき、私は走り出していた。途中先生とすれ違ったけれど、構わず全力で疾走した。

 明日から夏休みだ。暗いことは、忘れてしまおう――

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