ふーたのラクガキ
ごうごうと、風の音がひびいていました。
「あぶないから、お外でちゃダメよ」
ママのいいつけをまもって、二人のこどもがへやであそんでいます。
「ね~、なにかいてるの~?」
「ん~、なんでもないよ~」
「え~、じゃあラクガキ~?」
「ん~、そ~かもっ!」
おんなのこは、おはなしがしたくてしかたありませんでした。
でも、おとこのこは、おえかきにむちゅうになっています。
クレヨンをにぎったまま、がようしとにらめっこをしていました。
まどからは、まぶしいくらいの光がさしこんでいました。
あかるいにわは、かけ回るのにはきもちよさそうです。
外へでられないおんなのこは、すこしつまらなくなってきました。
「ね~、おにいちゃん、あそんでよ~」
「ん~、いまはダメ~」
「え~、なんで~?」
「……」
あいかわらず、おとこのこはうわの空になっていました。
こんどはまどの外をみつめて、ポカンと口をあけています。
たいくつなおんなのこは、おきにいりのえほんをみることにしました。
ひらいたページには、キラキラの宝石がのっています。
まだ字があまりよめないおんなのこは、このページがだいすきでした。
ひらくたびに、うっとりみとれてしまいます。
ふいに、おとこのこが立ちあがりました。
パタパタと、まどのほうにはしっていきます。
そして、おもむろにカギへと手をのばしました。
ブワッ! と、つよい風がふきこみました。
おとこのこが、まどをあけてまったのです。
カーテンがまいあがり、タンスがガタガタと音をたてながらゆれました。
ガシャンッ!
へやの中に、おおきな音がひびきました。
タンスの上から、花びんがおちてしまったのです。
とうめいなガラスの花びんは、おばあちゃんのおきにいりでした。
かざる花をさがしに、おばあちゃんは今でかけていたのです。
くだけてしまったガラスは、日ざしをあびてキラキラとかがやいていました。
おんなのこは、しらなかったのです。
このキラキラは、じつはナイフよりもあぶないものだということを。
だから、みつけてしまったキラキラに、つい手をのばしてしまい――
「ダメぇっ!」
そうさけんだのは、そうじをしていたママでした。
とぶようにかけてきて、おんなのこをだきあげます。
「ふーたっ! あんた、なにしてんのよっ!」
今にもなきそうなママの声は、ふるえていました。
おんなのこがケガをしてしまったら、そう思うと、こわくてしかたがなかったのです。
「うわぁんっ!」、ママにおこられたおとこのこは、なきだしてしまいました。
「うわぁんっ!」、ビックリしたおんなのこも、つられてなきだします。
それからしばらく、家には二人のなき声がこだましていました。
おばあちゃんがもってかえってきたのは、まっ赤なチューリップでした。
「ごめんなさい、おばあちゃん……、花びん、われちゃって……」
あやまるおとこのこの目には、まだなみだがこぼれそうなほどたまっています。
うつむいたおとこのこのあしもとには、クレヨンとがようしがおちていました。
そのがようしには、いちめんにあざやかな色がぬられています。
そのえをそっと手にとって、おばあちゃんはおとこのこにはなしかけました。
「ねぇ、これ、ふーたがかいたの? え~と、なんのえかしら?」
「う~ん? わかんない。でもなんか、なんかかいたの!」
「そう。ねぇ、ふーた。じゃあ、花びんのかわりにこれ、くれないかしら?」
しょうじには、西日がさしていました。
タンスの上の花びんには、すこししおれた花がかざってあります。
もう、かえどきかしら? と、おばあちゃんはぼんやり花をながめていました。
こわれてしまったものは、もとにはもどりません。
すぎたじかんもおなじで、さいきんでは二人のまごたちもめっきりこなくなりました。
でも、のこったものもちゃんとあるのです。
むすめがかってくれたあたらしい花びん。
あざやかなふりそでを着た、おんなのこのしゃしん。
それにもう一つ、おばあちゃんにはたいせつな宝ものがあります。
あの日のふーたのラクガキは、今でもタンスの中にしまわれているのです。




