表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンドの異世界徒然の日々  作者: 腹グロひつじ
5/5

検証事案:魔術の理念

 俺の名前は、モンド。日本のサラリーマンだった。

 異世界転生――俺はそれに巻き揉まれた。

 彼女は、ラインさん。

 俺が巻き込んでしまった、俺の相棒みたいな人……人じゃないけど。

 人工の……いや、神工の存在。手足を機械化した人型の何か。誰もが振り返る至高の造形美を持つモノ。

 グラスファイバーを思わせる光沢ある長い髪に。悪魔のような鋭く長い大きなきな機械の手。つま先立ちを強制するゴツゴツしたブーツと呼べないそれは、なぜか地面から少し浮いている。

 機械的で無い部位は、ボディペイントじゃないのか思わせるほど、体のラインを惜しみなくエロい……本能が溢れた。知らしめている。

 何一つ、特別な能力を持てなかった俺だが、ラインさんの能力ちからを借りて、何とか毎日を生き抜いている。

 そんな俺たちは今――



 ――戦場にいます。



「ブラディ・インフェルノ・エクストラ!」

 

 遠くで、あのチート野郎が声を張り上げた。

 

「骸骨の丸焼きって……ただの火葬じゃね?」

 

 なんでも、この国のどこぞのエリート様。要は、頭でっかちの貴族様なのだが。そのお方が、国に反旗を翻したとよ。

 

「くっ、“禁断の魔骨まこつ”。これ程とは!? スケルトンだけでなく、スケルトンドラゴンや、巨大な骨のキメラまで! 今ので千・二千焼いたが、まだまだくるぞ!」

 

 はい、説明ありがとう。

 そのエリート様が、召喚系のマジックアイテムを手に入れた事で、調子づいたらしい。

 

「だが、俺達にはあの英雄がいる。今のを見ただろう! あんな広域魔術を使っても、息一つ乱していないぞ!」

 

 はい。戦場の兵士さんからのレポートでした。

 俺にどうにか出来るわけも無く、さっさと逃げたいのだが、

 

「街門、開けてくれないよな」

 

 まあ、外が戦場となれば、大抵の『街』と呼ばれる都市は、防衛として外壁に設けられた門を閉ざす。その横には“くぐり戸”などあるはずも無く。一度閉ざされてしまえば、出れるが入れない。

 どうやって出るかって? 飛び降りる。正確には、外壁上から途中までロープを垂らし、それで降りる。だな。

 

「さあ、どんどん来い! 焼いてやるぜ!」

 

 チート野郎は、いい空気吸ってやがんなあ。

 いいぞ~。がんばれ~。

 野郎のハーレム要員が、黄色い声を上げてるから、俺が心の中で投げやりに応援する必要はないんだけどな。

 

「今度はコレだ! トゥルーフレイム! ヴァージョン、ブルー」

 

 さっきのが、真っ赤な炎だったのに対し、今回は、青い炎。ただ火の背丈は先の半分。“燃やす”というより“燃え移す”という感じで、地面を這うように広がっていく。

 焼畑みてえだな。

 

 「おー! 凄い! 凄いぞ!」

 

 兵士さん達は、思い思いに驚愕の声を上げて、賞賛の嵐。

 本当にチートだな。

 

「モンドさんじゃないですか」

 

 鬼気迫る対岸の火事な俺に、いったい誰だ?

 

「何でモンドさんが、戦わないんですか?」

 

 何を言い出してるのかね、君は? 僕は一般人だよ? あんなのチート野郎か、数で押せる兵士さんに任せるしかないしょうが?

 

「そうですか? 絶対にモンドさんの方が、上位者だと思うんですけど?」

「お前がそれを言うのかよ!」

 

 パッと見、ふんわりイケメン。マジマジ見ても、ふんわりイケメンなこの男は、“本当の魔術士”。

 高身長。痩せ型。脚長。白い歯。効果音が付く笑顔。本当に、

 

「嫌味な奴だ」

 

 しまいに、性格に好感がもてるのがムカつく。

 

「一番しまうべき部分の本音が、漏れてますよ」

「だから、出したんだよ。イケメン」

「え? モンドさんも十分カッコいいですよ」

「慰めはいらねえよ。大体、俺に敬語は要らないって言わなかったか? お前のほうが年上なんだからよ」

「モンドさんにはこれが自然というか、落ち着くんですよ。諦めて下さい」

 

 そうかよ。

 イケメンとの、自虐的精神修養を兼ねた世間話の間に、三度目の大きな歓声。

 なんか、今度はまたカラフルな火だな。

 

「そんな顔するなよ」

「あ、済みません。そんなつもりじゃなかったんですけど」

 

 やっぱり本当の魔術士としては、見るに耐えんのかね。

 

「あんな間違ったものを得意満面に見せられると、どうしても」

「お前には、そうだろうな。あいつはチートだが、お前は、ピュア、だからな」

「やめて下さいよ。『ピュア』なんて」

 

 以前、こいつから聞いた昔話。

 ある時、ある村に一人の不思議な者がいました。

 雨が降らないと嘆けば、雨を。病に倒れたと言われれば、病を。寒いと聞けば、寒さを。何を使うでもなく、大地を潤わせ、病を無くし、寒さを和らげました。

 ただ、その力を持つものは一人しか居なかった為、いつも急がしく、ゆっくりしている姿を見たことがありません。

 それを大変に思った村の優しい青年は、なんとか助けになろう思いました。

 優しい青年は、鍋の水を沸かそうと見よう見真似でやってみましたが、上手くいきません。

 青年は、「どうやったら沸かせるんだろう?」と、こぼしたその時、女が戸口から顔を出して、こう言いました。

 

 「火で温めれば良いじゃない」

 

 なるほどと、火を出そうとします。

 今度は、火がでました。ただ、直ぐに消えてしまいます。

 どうしたものかと考えていると、また女がこう言ってきました。

 

「釜戸の薪に、火をつければいいじゃない」

 

 ああ、と気をよくした青年は、釜戸の薪に火をつけます。

 今度は、鍋の水を沸かすことが出来ました。

 以来、優しい青年は、雨が降らないと、雨雲を作り。病に倒れれば、癒しやり。寒ければ、暖かな風を送りました。

 優しい青年は、そのやり方を請われるままに、他の人々にも教えてあげました。

 こうして村は、より豊かになりました。

 めでたし、めでたし。

 

「『歪められた魔術』だったか」

「ええ。あんなの、ただの“火”です」

 

 さっきから、チート野郎がやっているのは、結局でっかい火を作っているだけだ。

 こいつの話では、魔術とは“結果”ではなく、“結局”を成すモノなのだそうだ。

 鍋の水を沸かすなら、火であぶろうが、電子レンジでチンしようが、気圧を下げて沸点を下げようが、どれも意味合いは一緒だ。

 ただどれも、“沸いた”という結果のために、工程が必要になる。

 これは、魔術の本質からしたら無駄なのだそうだ。

 工程の結果ではなく、欲する結局だけを成す。これこそが魔術の本質なのだと。

 まあ、たしに不思議現象に、科学的な工程を踏まえるナンセンスはあるよな。

 

「力の足りないさを、自然の摂理を借りて補っているだけです。鍋の水を沸かしたければ、素直に火を越せばいいんです」

 

 そう。

 目新しさ。

 特別さ。

 万人には無い技術。

 そうしたものが、魔術の本質を歪めてしまった。と、俺は考えている。

 

「モンドさんは、この戦場をどうしたいですか?」

「お、やる気じゃん。見るに耐えなくなったか?」

 

 さて、こいつのこの質問はちと厄介だぞ。返答を誤ると、結果がズレちまう。

 骸骨軍団を消してくれ? またマジックアイテムで呼ばれても意味は無いし。

 首謀者を此処に連れてきてくれ。あ、駄目だ首謀者をここに連れて来ても、ここの人間じゃ罪人確定できない。

 じゃあ、王城へ? 今そこに首脳陣が、揃っているかわからないしな。

 

「じゃあ、この召喚の核を、消滅してくれ」

「『召喚の核を、消滅』で、いいんですね」

 

 封印は、しても直ぐ開封されちゃ意味はないし。無効化は、どういう結果になるか想像が出来ない。

 俺の肯定に、手を軽く打ちつけて答えた。

 

「終わりました」

 

 あっけないな、本当に。

 見れば、骸骨軍団がチリと消えていっている。

 消滅とは言ったが、分解したのか、とも他の世界や次元に転移させたのか。まあ、こいつも結果どうなったかは、解らないだろうしな。

 ただ願った。ではないだろう。

 たぶん、召喚の核を確定して、それを消滅させたという二つの魔術をつかったと思うんだが。

 向こうでは、チート野郎を英雄との歓声が上がっている。

 

「いいのか? 本当の魔術士さんよ」

「知られれば、僕は殺されてしまいます。この世界に」

 

 まあな。ちゃんとした技術なんだろうけど、神の奇跡にも写りかねない。それこそ世界の敵とか言われかねないよな。

 思っただけで、事を成しているようにしか見えないし。

 

「まあ、なんだ。もう直ぐ門が開くだろう。中で飯でも奢るぜ。お礼だ」

「モンドさんからのお礼ですか? 高くつきそうですけど」

「そう言うことを言うの」

「冗談です。では、僕がひいきにしている店があるので、そちらで」

「おっし」

 

 聞けば、珍しく果物を扱った店らしい。ちょっと楽しみだ。

 甘党というわけではないけど、こっちじゃ気軽に食べれないからな。って、ひょっとして、お高い店なんじゃ。こいつ、俺のおごりってわかって……

 

「楽しみですね。あんまり行けないので」

 

 この野郎、やっぱりか。

 門が開くのにあわせて、先だって本当の魔術師が歩き出した。

 

「はあ、言っちまったもんはしょうがない。行くか」

「モンド」

「何? ラインさん」

「私は、ここに居ます」

「え? 一緒に行かないの?」

「一緒に行きます。私は、ずっとここに居ました」

 

 えーと。何を言い出しているのかな、ラインさんは。

 

「モンド。私は、ここにいました」

 

 ああ、なるほど。ごめんなさい。蚊帳の外にしてたみたいで。寂しがらせました。

 

「寂しくはありません。ただ、私はずっとここに居ました」

 

 とりあえず、ラインさんの肌に張り付くような心地よいお胸様をハンド。

 

「機嫌が直るかなーと、思いました」

 

 ラインさんは、俺の手を払うこと無く、逆におれの胸へ両手を当ててきた。

 

「直りましたか」

「ごめんなさい」

 

 互いに胸を揉み合う。なんかシュールだな。

 

「ラインさん!?」

「抱きたくなったのではないのですか?」

 

 ラインさんの、ボディペイントのような厚みのないスーツが、スーと消えていく。脳トレアハ体験みたいだね。

 

「いや、あの、今はいいです。その、後ほど……」

 

 きっぱり断れるほど、ラインさんボディ&情事の仕草は、エロくなくないんだよ。

 

「モンドさん。置いて行きますよ」

 

 置いていってもらったほうが、奢らなくて済みそうで、ありがたいんだけどな。

 仕方なくラインさんの手を引いて行った店で、こんな話が入ってきた。

 

「おい、あの貴族様。自分から王城へ来たらしいぞ」

「ええ? だってそんな事。死にに来たのか?」

「何でもよ、号泣して詫びたらしい。聖人のように邪気っての? が消えて見えたってよ!」

「そんでもって、物騒なマジックアイテムも献上したとかなんとかだろ?」

 

 俺は自分の言葉を思い出していた。

 言ったのは、『召喚の核を、消滅』。確かに貴族の反国心は、召喚の核だよな。

 

「あの時『事件の核』って言ったらどうなったんだ?」

「何です?」

「いや、もう一つ頼みごとをしたいと思ってね」

「じゃあ、このスペシャルフルーツの盛り合わせと交換で」

「ちょっ……はあ、いいよ。きっとお安いくらいなんだろうな。対価としては」

「で、僕に頼みってなんですか?」

「ちょっと、マジックアイテム『禁断の魔骨』の能力を無効にしてくれないか?」

 

 いや、だってさ。この後、俺はお楽しみで頭が一杯なのに、早々にその時間を壊されかねない要因は排除するべきでしょ。

 いつやるの? 今でしょう。

 ラインさんのお胸様が、“たゆん”したのは偶然か必然か。それも問題だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ